Chim↑Pom展:ハッピースプリング @ 森美術館ほか


撮影: 山口聖巴

 

Chim↑Pom展:ハッピースプリング
2022年2月18日(金)- 5月29日(日)
森美術館
https://www.mori.art.museum/
開館時間:10:00-22:00(火曜は17:00まで)入館は閉館30分前まで
会期中無休
企画:近藤健一(森美術館シニア・キュレーター)

 

森美術館では、独創的なアイディアと卓越した行動力で社会に介入し、国内外で数々のプロジェクトを手掛けてきたアーティストコレクティブ、Chim↑Pomの活動を、初期から近年までの代表作と本展のための新作を通じて網羅的に紹介する初の本格的回顧展『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』を開催する。

Chim↑Pomは、卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀が2005年に東京で結成したアーティストコレクティブ。現代社会の事象や諸問題に対するメッセージ性の強い表現で、都市、消費主義、飽食と貧困、日本社会、原爆、震災、スター像、メディア、境界、公共性など、幅広い主題を扱ってきた。世界各地の展覧会に参加するだけでなく、自らもさまざまなプロジェクトを手掛け、2015年には東京・高円寺にアーティストランスペース「Garter」を開廊。また、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域内を会場とした国際展『Don’t Follow the Wind』を発案、作家としても参加(2015年3月11日〜)。結成10周年を迎えた2015年にGarterで開催した展覧会『耐え難きを耐え↑忍び難きを忍ぶ』や、解体予定の歌舞伎町商店街振興組合ビルを会場とした『また明日も観てくれるかな?』(2016)など、既存の美術期間に頼らない展覧会も開催。また、近年の主な個展に、『Non-Burnable』(ダラス・コンテンポラリー、2017)、『Threat of Peace (Hiroshima!!!!!!)』(アート・イン・ジェネラル、ニューヨーク、2019)、グループ展に『第29回サンパウロ・ビエンナーレ』(2010)、『アジア・アート・ビエンナーレ2017』(国立台湾美術館、台中、2017-2018)、『Global(e) Resistance』(ポンピドゥー・センター、パリ、2020)、『HERE AND NOW at Mu­se­um Lud­wig to­gether for and against』(ルートヴィヒ美術館、ケルン、2021-2022)などがある。

 


Chim↑Pom《ビルバーガー》2018年、ミクストメディア(にんげんレストランのビルから切り出された3階分のフロアの床、各階の残留物)、400×360×280cm(左)、186×170×155cm(右)、素材提供:にんげんレストラン、Smappa! Group、古藤寛也、個人蔵(左)、Courtesy: ANOMALY(東京)展示風景:「グランドオープン」ANOMALY(東京)2018年、撮影: 森田兼次


Chim↑Pom《ブラック・オブ・デス》2008年、ラムダプリント、ビデオ、写真:81×117.5cm、ビデオ:9分13秒、Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

 

本展の展示構成はChim↑Pomの発案により、年代順ではなく、作品が「都市と公共性」「肉体」「境界」「ヒロシマ」「東日本大震災」「May, 2020, Tokyo」「エリイ」の7つのテーマに則して展示された上で、作品鑑賞のための動線を複数設けることで、展覧会の多様な読み解きを可能にする。たとえば、「都市と公共性」というテーマにおいて、活動初期から都市を舞台に数々のプロジェクトを手掛けてきたChim↑Pomは、近年、自身のスタジオの私有地内に誰でも通行・利用することができる私道をつくったり、アジア・アート・ビエンナーレ2017では、美術館の屋内外に1本の長い道をつくり、そこに適用される独自の規則を策定する《道》(2017-2018)を発表するなど、その試みは都市論や公共性を論じるものへと発展を遂げてきた。

また、「ヒロシマ」や「東日本大震災」はともに複数の作品が制作されてきた重要なテーマだが、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いた作品《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009)や、渋谷駅にある岡本太郎の壁画《明日の神話》の右下の壁の余白部分に、福島第一原子力発電所の事故を描いた絵をゲリラ的に設置した《LEVEL 7feat. 『明日の神話』》(2011)をはじめ、そのプロジェクトはしばしば論争を巻き起こしてきた。本展では、作品そのものだけでなく、年表や関連資料などの展示や作品にまつわる賛否両論も紹介するなど、複数の視点で論争を再検証する。

 


Chim↑Pom《ヒロシマの空をピカッとさせる》2009年、ラムダプリント、ビデオ、写真:66.7×100cm、ビデオ:5分35秒、Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)、撮影:Cactus Nakao


Chim↑Pom《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》2011年、アクリル絵具、紙、塩化ビニール板、ビデオ、ほか、絵画:84×200cm、ビデオ:6分35秒、所蔵:岡本太郎記念館(東京)、Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

 

本展のサブタイトル「ハッピースプリング」は、長引くコロナ禍においても明るい春が来ることを望み、たとえ待ちわびた春が逆境のさなかにあっても想像力を持ち続けたいというChim↑Pomのメッセージが込められた。2020年5月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による緊急事態宣言下の東京においても新しいプロジェクトを展開したChim↑Pomだが、メキシコとアメリカ合衆国の国境沿いで敢行した「境界」をテーマにした「USAビジターセンター」(2017)や、マンチェスターで19世紀に流行したコレラとビールの歴史的関係をテーマにした「酔いどれパンデミック」(2019-2020)など、本展で紹介される過去のプロジェクトにも、コロナ禍の現在に改めて考えるべき主題が含まれている。

本展のための新作は、2020年のエリイの出産を機に構想された映像インスタレーションと、展覧会場内に託児所を開設するアートプロジェクト「くらいんぐみゅーじあむ」。より多くの人に展覧会を鑑賞してもらうことを目指しながら、日本における子育て環境への問題意識を喚起する「くらいんぐみゅーじあむ」は、その運営資金の調達をクラウドファンディングで行なう。募集期間は2022年1月15日(土)0:00から3月31日(木)23:59の期間で、支援金額に応じて託児所の運営日数が決定する。(プロジェクトページ

 


Chim↑Pom《May, 2020, Tokyo(へいらっしゃい)―青写真を描く―》2020年、サイアノタイププリント、ゼラチン、キャンバス、鉄フレーム、175.5×352.3×4.5cm、所蔵:高橋龍太郎コレクション(東京)、Courtesy:ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)、制作風景:東京、新宿


「くらいんぐみゅーじあむ」イメージ

 

ART iT Interview Archive
卯城竜太(Chim↑Pom)「向こうからの視線」(2017年3月)

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