第11回恵比寿映像祭「トランスポジション 変わる術」


 

第11回恵比寿映像祭「トランスポジション 変わる術」
2019年2月8日(金)-2月24日(日)
http://www.yebizo.com/
会場:東京都写真美術館、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所 ほか
開催時間:10:00-20:00 ※最終日は18:00まで
休館日:2/12(火)、2/18(月)

 

「映像とは何か?」という問いを毎年異なるテーマから考察し、幅広い表現を通じた応答を試みてきた恵比寿映像祭。11度目の開催となる今回は、「トランスポジション 変わる術(すべ)」という総合テーマの下、東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺の複数会場で、さまざまな領域に広がり、各領域で深度を深める映像分野の領域横断的な交流の活性化を目指す。

東京都写真美術館では、全展示室を使用した13組のアーティストによる展示、多様な作品で編まれた上映プログラムのほか、参加アーティストらによるラウンジトークやシンポジウムを開催する。展示部門では、ヴェネツィア・ビエンナーレ・ルーマニア館での展示経験を持つポーランド出身のカロリナ・ブレグワが、台湾の人々の協力のもと、小さな共同体の広場に起きた声を発する不思議な物体(彫刻)をめぐる物語を映像化した「広場」(2018)を9面のスクリーンに分割した映像インスタレーションとして発表する。ブレグワは会期中にラウンジトークを開催。ヴェネツィア・ビエンナーレ・デンマーク館での展示経験を持つギリシャ出身のミハイル・カリキスがロンドンのホワイトチャペル・ギャラリーのチルドレンズ・コミッションで制作し、昨年、同館の個展で発表したばかりの「とくべつな抗議活動」(2018)を発表する。同作は詩人で児童文学者のテッド・ヒューズの児童文学「鉄の女」に着想を得て、東ロンドンの小学生とともに考案された。恵比寿映像祭会期中には、カリキスの創作の源泉のひとつである声楽のパフォーマンスの発表とともに、同時期に森美術館で開かれるMAMスクリーンで上映する作品について、上映を企画した森美術館副館長兼チーフ・キュレーターの片岡真実を交えたトークも開催する。

 


カロリナ・ブレグワ「広場」2018年、9チャンネルヴィデオ・インスタレーション、作家蔵


地主麻衣子「わたしはあなたの一部じゃない」(新作)2019年、インスタレーション、作家蔵 ©Maiko Jinushi Courtesy of HAGIWARA PROJECTS


岡田裕子「エンゲージド・ボディ」(新作)2019年、インスタレーション、作家蔵[初期イメージドローイング]

 

ブラジル北部の森林地帯に暮らすヤノマミの人々を親密な眼差しで記録したルイーズ・ボツカイの「エフアナへの映画」(2018)や、19世紀半ばにイギリス人の手によって纏められたインドの名もなき人々による織物のコレクションを、高精細な映像とともにポスト植民地主義的な視点から読み解くサシャ・ライヒシュタインの「征服者の図案」(2017)はいずれも昨年の第64回オーバーハウゼン国際短編映画祭(2018)の国際コンペ部門の出品作品。地主麻衣子は本展のために制作された新作インスタレーション「わたしはあなたの一部じゃない」「テレパシー」(2019)、岡田裕子は最新プロジェクト「エンゲージド・ボディ」(2019)を発表。前者は何気ない働きかけを入り口に、自己と他者、個人と社会との間に生まれる磁場のような影響関係を、後者は再生医療の発達が人間観や人と人との関係性にもたらす変化について考察する。地主と岡田と上映プログラムで「王国(あるいはその家について)」(150分版)を上映する草野なつかをゲストに迎えたシンポジウム「トランスポジションという術をめぐって」を開催。そのほか、先駆的な実験映像作家のひとりとして知られるレン・ライが初期カラー技法のひとつで1932年に開発されたガスパー・カラーという当時の先端技術を駆使して制作した「レインボー・ダンス」(1936)ら歴史的代表作、上映プログラムでは4K新作映画「Memento Stella」を上映する牧野貴の異なる尺の3つの映像と音をそれぞれループ再生しながら、ゆっくりと左右のプロジェクター位置をずらし続ける映像インスタレーション「Endless Cinema」(2017)などを展示する。

 


シリーン・セノ「ナーヴァス・トランスレーション」2018年 ©Los Otros Films


バスマ・アルシャリフ「ウロボロス」2017年, Ouroboros Film Still, 2017, Courtesy of the Artist and Galerie Imane Farès.


ファブリジオ・テラノヴァ「生き延びるための物語り」2016年

 

東京都写真美術館の1Fホールを会場とする上映部門では、上述した草野なつか、牧野貴の作品上映を含む15の多彩なプログラムで構成される。世界各地の映画祭で高い評価を受けるシリーン・セノの「ナーヴァス・トランスレーション」(2018)は、1987年のフィリピンの政情不安を、8歳の少女の目線で多彩に描き、昨年のロッテルダム国際映画祭のタイガー・アワード・コンペティション部門でアジア映画の最優秀賞であるNETPAC Awardを受賞した。また、ある男が繰り返し体験する別れの痛みを、ガザやロサンゼルス、モハーヴェ砂漠など舞台となった地域で繰り返された破壊や忘却、再生の長い歴史に重ねたバスマ・アルシャリフの「ウロボロス」(2017 ※2/24には田浪亜央江によるアフタートークあり)、ファブリジオ・テラノヴァの1980年代から生き物や科学技術を手がかりにフェミニズムや科学技術論を展開してきたダナ・ハラウェイへのインタビューを中心としたドキュメンタリー「生き延びるための物語り」(2016 ※2/11には高橋さきのによるアフタートークあり)、ミディ・ジーの「14個のりんご」(2018)などは日本初上映。ヴェネツィア・ビエンナーレ・スロベニア館で展示されたニカ・オウトアの作品を含む4名の映像作品を越境をテーマにまとめたプログラムや、光州の国立アジア文化殿堂(ACC)のシネマ・ファンドで制作された短編映像作品をゲスト・プログラマーのジハ・キムがセレクションしたプログラムも上映する。そして、三宅唱は、山口情報芸術センター[YCAM]が実施する滞在型映画制作プロジェクト「YCAM Film Factory」の第4弾として制作した「ワイルドツアー」(2018)と、スマートフォンの動画撮影機能を使い、日々の記録を発表してきたシリーズの最新作「無言日記2018」の上映に加え、日仏会館のギャラリーにて、三宅とYCAMの共同制作のインスタレーション「ワールドツアー」を発表する。

 


さわひらき「absent」2018[参考図版]


三宅唱+YCAM「ワールドツアー」2018年、6チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション、60分(ループ上映)[参考図版] 共同開発:YCAM InterLab 制作:山口情報芸術センター[YCAM] Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media[YCAM] Photo: Atsushi Tanabe

 

恵比寿ガーデンプレイス センター広場のオフサイト展示は、昨年末の神奈川芸術劇場(KAAT)での個展も記憶に新しいさわひらきが手がける。総合テーマの「トランスポジション 変わる術」から「サーカス」や「見世物小屋」のアイディアを着想し、大きな円形空間の新作インスタレーションをつくりだす。さわは会期中にキュレーターの木ノ下智恵子とのラウンジトークも予定。上述した日仏会館では、三宅とYCAMによる展示のほか、日仏会館共催企画として、2019年の冬にユーロスペースでの特集上映が控えるクリス・マルケルに関するシンポジウムを、港千尋、東志保、篠田勝英をゲストに迎えて開催。また、地域連携プログラムの一環として、三浦哲哉(青山学院大学)を講師に映像と講演「映画と文学III 《田舎司祭の日記》 ――ロベール・ブレッソンと映像による翻案」を開催する。そのほか、恵比寿周辺のギャラリー及び文化施設各所(13施設)との連携プログラムや、地域から発するトークプログラムなど、「YEBIZO MEETS」の呼称で展開する多彩なプログラムが予定されている。

 


クリス・マルケル「パッセンジャー」シリーズより、「無題#2」2011年[参考図版] Courtesy of the Chris Marker Estate and Peter Blum Gallery, New York

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