シアターコモンズ’19


小泉明郎「私たちは未来の死者を弔う」 ©️Meiro Koizumi

 

シアターコモンズ’19
2019年1月19日(土)、1月20日(日)、2月22日(金)-3月13日(水)
東京都港区エリア各所
https://theatercommons.tokyo/

 

演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すプロジェクトとして、演劇公演、レクチャー形式のパフォーマンス、参加者とともに創作プロセスを共有するワークショップ、対話型イベントなどを展開するシアターコモンズが、リーブラホールやゲーテ・インスティトゥート東京ドイツ文化センター、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターなど、東京都港区内を中心に開催される。

3度目の開催となるシアターコモンズ’19のオープニングを飾るのは、南インドのケーララ州に自ら建設した劇場を拠点に、西欧集権的な演劇史をアジアから捉え直し、更新しようと、国内外でさまざまな演劇活動を展開する演出家シャンカル・ヴェンカテーシュワランの最新作「犯罪部族法」。大道芸人、占い師、行商人などの非定住者やその子孫を「犯罪者」として取り締まった同法は、1871年から1952年にわたる英国植民地下のインドで実際に施行されたものだが、その影響は半世紀を過ぎた現在のインド社会にも残っている。ふたりの俳優が、それぞれの母語である英語とカンナダ語で、自らの出自、記憶、リサーチの報告を語り合い、その対話が古代から続くカースト制や近代化による社会差別の構造を浮き彫りにしていく。約45分の公演後、19日はヴェンカテーシュワランとふたりの俳優がファシリテーターとなり、観客を対象にしたワークショップを行なう。また、20日はヴェンカテーシュワランに文芸批評家の安藤礼二、演出家でPort B主宰の高山明を加え、「未来の祝祭、未来の劇場」と題したオープニング・シンポジウムを開催。2020年の東京オリンピックをはじめとした政治的アジェンダ、都市プロモーションや土地開発に連動した文化イベントが次々に開催される一方、それまでインディペンデントに紡がれてきた芸術活動の継続が難しい局面に晒されている東京、あるいは今日のアジアで可能な「祝祭」の形について、儀礼や芸能の起源、演劇的な場のあり方を踏まえた議論を行なう。

オープニングから約一ヶ月後、2月22日からは昨年のシアターコモンズのワークショップを通じて、小泉明郎が参加者とともに創作した「私たちは未来の死者を弔う」の映像インスタレーションを発表する(会場は後日発表)。2月はそのほか、ギリシャ悲劇の本質と構造をたったひとりの演者の語りを通じて再考するマキシム・キュルヴェルスの「悲劇の誕生」、スポークン・ワードの語りの手法を組み込んだ作品を特徴とする演出家、俳優のオグトゥ・ムラヤが、オリンピックと政治の関係性を批評的にとらえ、アスリートをめぐる歴史と個人のナラティブをリズミカルな英語で紡ぎ出した「Because I Always Feel Like Running」をSHIBAURA HOUSEで上演。また、ゲーテ・インスティトゥート東京ドイツ文化センターでは、田中功起がミグロ現代美術館で昨年発表した「可傷的な歴史(ロードムービー)」をシアターコモンズ・短縮編集バージョンとして公開。映像上映後には、ゲストを交えた対話の場を設定し、集団での鑑賞経験の共有を試みる。

 


中村佑子/スーザン・ソンタグ『アリス・イン・ベッド』©️Lynn Gilbert


ラビア・ムルエ「歓喜の歌」 ©️Judith Buss

 

3月は、シアターコモンズ初の試みとなるリーディング・パフォーマンスを実施。「オリンピックを控えた東京で、自分が声に出して読むとしたら、どこで、どんな言葉だろうか?」という問いに、演出家・劇作家・俳優の島崇は、パブロ・ピカソがナチス・ドイツ占領下のパリで執筆した戯曲『しっぽをつかまれた欲望』を、映画監督・エッセイストの中村佑子は、スーザン・ソンタグの物語「アリス・イン・ベッド」を自らも一部邦訳し、演出家でかもめマシーン主宰の萩原雄太は、太田省吾の戯曲『更地』を選択し、応答を試みる(会場はすべて慶應義塾大学三田キャンパス旧ノグチ・ルーム)。また、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターでは、TPAM2019にもフリンジ企画で招聘されているワン・ホンカイが、日本統治下の台湾で生まれ、20世紀の東アジア史に翻弄された作曲家、江文也に焦点を当て、専門家との協働、創作ワークショップ(1月26日、1月27日、28日)を通じて制作するレクチャーパフォーマンス「This is no country music」を発表する。

そのほか、関連企画として、Port Bの高山明による「新・東京修学旅行プロジェクト:福島編」も開催。ここ半年間で開催されてきた「クルド編」、「中国残留孤児編」に続く「東京の歴史悲劇三部作」の最終章となる(Port Bウェブサイトから要予約)。そして、シアターコモンズ’19のクロージング作品となるのは、F/T13での上演、映像上映といった集中的な紹介も記憶に残るラビア・ムルエの「歓喜の歌」。1972年のミュンヘン・オリンピックで起きた、パレスチナ過激派組織「黒い9月」によってイスラエル選手11名が殺害されたテロ事件を、パレスチナ人政治ジャーナリスト、マナル・カデールとともに、パレスチナ闘争の側から描いた演劇作品として、2015年のミュンヘン・カンマーシュピーレで発表した同作を、オリンピックを控えた東京のために、特別にレクチャーパフォーマンスとして再構成して、リーブラホールで上演する。

 

シアターコモンズ’19
2019年1月19日(土)、1月20日(日)、2月22日(金)-3月13日(水)
東京都港区エリア各所
主催:シアターコモンズ実行委員会(事務局:NPO法人芸術公社)
https://theatercommons.tokyo/
参加方法|シアターコモンズのウェブサイトにて全プログラムに参加可能なパス(※一部を除く)が発売。https://theatercommons.tokyo/ticket
一般 ¥4,800/学生 ¥3,500/港区民 ¥4,500(1/10まで先行割引パスの販売あり)
問合せ|シアターコモンズ実行員会事務局 artscommons.tokyo.inquiry@gmail.com

 


高山明/Port B「新・東京修学旅行プロジェクト:福島編」©️Takeshi Yamagishi

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