アートバーゼル2022


OUT OF SIGHT © Lawrence Weiner

 

2022年6月16日から19日の4日間にわたり、世界最大規模の近現代美術のアートフェア「アートバーゼル」が、バーゼル市内のメッセ・バーゼルで開催される(招待制の内覧会は6月14日、15日に開催)。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前とほぼ同規模にあたる世界40の国や地域から289軒のギャラリーが参加する本年度も、オンライン・ビューイングルームやバーチャルツアー、SNSによるライブ配信などを提供するアートバーゼルライブを活用した、実会場とデジタルプラットフォームを全面的に統合したハイブリッド形式での開催となる。

アートフェアの中核をなす「ギャラリー(Galleries)」部門には、複数都市に支店を構えるガゴシアン、デイヴィッド・ツヴィルナー、ハウザー&ワース、ペースといったメガギャラリーをはじめ、日本から参加するタカ・イシイギャラリー、タケニナガワ、東京画廊+BTAPなど、世界各地から234軒のギャラリーの名前が並ぶ。本年度はMariane Ibrahim(パリ、シカゴ)が初参加するほか、Balice Hertling(パリ)、The Breeder(アテネ)、Labor(メキシコシティ)など8軒が他部門から昇格し、同部門初参加となる。

「フィーチャー(Feature)」部門は、企画内容を重視した個展あるいは二人展形式での出展を条件とする。ヴェネツィア・ビエンナーレで特別表彰を受けたリン・ハーシュマン・リーソンの個展を共同企画するAltman Siegel(サンフランシスコ)とBridget Donahue(ニューヨーク)、ホロコーストを生き延びて、さまざまな表現活動を続けたロマの故チャイヤ・シュトイカーの個展を企画するGalerie Christophe Gaillard(パリ)、リア・ペルジョヴスキの個展を企画するIvan Gallery(ブカレスト)など、26軒が参加する。バロワーズ賞の対象となる新進アーティストを個展形式で紹介する「ステートメント(Statements)」部門には、こちらもヴェネツィア・ビエンナーレの企画展に参加しているトルマリンの映像作品《Pollinator》を紹介するChapter NY(ニューヨーク)や、ジンバブエ・パビリオンのグループ展に出品しているクレシア・ムクワジの新作インスタレーションを紹介するJan Kaps(ケルン)、アートバーゼル初参加でアリウ・ディアックのセネガルの風景を想像させるインスタレーションを紹介するOH Gallery(ダカール)など、18軒のギャラリーが参加する。

「エディション(Edition)」部門は、シンガポールの版画工房STPIなど、版画やエディション作品を中心に扱う11軒のギャラリーが参加。中庭に面した壁面では、Two Palms(ニューヨーク)が、メル・ボックナーの《Measurement: 24》を紹介する。

 


Maria Hassabi, Alice (2021) © the artist Courtesy The Breeder, Athens


Lynn Hershman Leeson, Water Women 8 (2003) Courtesy of the artist;
Altman Siegel, San Francisco; and Bridget Donahue, New York


Sara Sadik, Ultimate Vatos (2022) Courtesy of the artist and Crèvecœur, Paristina

 

ギャラリーのプレゼンテーションに並行して、担当キュレーターを配した屋内外の展示、上映、トークイベントの企画にも注目の集まるアートバーゼルだが、本年度のメッセプラッツのプロジェクトでは、昨年末に亡くなったローレンス・ウェイナーへのオマージュとして、その言語による作品で構成されたインスタレーション「OUT OF SIGHT」を展開する。

また、従来のアートフェアのブースでは発表しづらい作品を対象とする「アンリミテッド(Unlimited)」では、クンストハレ・ザンクト・ガレンのディレクター、ジョヴァンニ・カルミネのキュレーションの下、ヤエル・バルタナの映像作品《Malka Germania》(2021)、スタノ・フィルコのインスタレーション《Environment S.FILKLINIC.DEATHS.F》(2006)、アンナ・マリア・マイオリーノの2チャンネル映像作品《Twice: X & Y》(1974/2022)、メアリー・ラヴレース・オニールの1970年代を象徴する巨大な絵画シリーズ〈Lampblack〉、バルトロメイ・トグオの45点の平面作品からなるインスタレーション《Bilongue》(2020)など、70点の作品が展示される。6月16日の夜には、アリ・ベンジャミン・マイヤーズノラ・トゥラトによるパフォーマンスも予定。

「パルクール(Parcours)」は、バーゼル市内各所で展開されるサイトスペシフィック・インスタレーションやパフォーマンスを無料で鑑賞できるプログラム。本年度はビルスフェルデンに拠点を構える非営利のアートスペース「SALTS」の設立者、サミュエル・ロウエンバーガーがキュレーションを手がけ、アンナ・フラチョヴァーアリシア・クワデマシュー・ルッツ・キノイパピーズ・パピーズ(ジェイド・グアラノ・クリキ=オリヴォ)、トマス・サラセーノなど20作品を発表。6月18日はパルクール・ナイトと称して、市内各所でパフォーマンスが展開される。

シュタットキノ・バーゼルを会場とする「フィルム(Film)」は、オンライン動画配信プラットフォーム「Vdrome」の創立キュレーターのフィリパ・ラモスが構成したプログラムを上映する。アピチャッポン・ウィーラセタクンスカイ・ホピンカタラ・マダニの特集や、マリアン・マゾーネがセレクトしたサム・ポラードによるアフリカ系アメリカ人の美術史を取材した『Black Art: In the Absence of Light』などが上映予定。「カンバセーション(Conversations)」は、ロンドンのホワイトチャペル・ギャラリーのキュレーターのエミリー・バトラーがキュレーション。NFTアートマーケットにおけるコレクターの役割と責任から、脱植民地主義や環境保護、気候変動といった美術館が直面している課題まで、幅広い話題を計46名の登壇者による12のパネルディスカッションを通じて検討する。

 


Barthélémy Toguo, Bilongue (2020) Courtesy Galerie Lelong & Co.


Puppies Puppies (Jade Guanaro Kuriki-Olivo), A sculpture for Trans Women (2022)
Courtesy of the artist and Galerie Balice Hertling, Paris; Galerie Barbara Weiss, Berlin ; Galerie Francesca Pia, Zurich ; Hannah Hoffman Gallery, Los Angeles.

 

なお、アートバーゼル会期中には、バーゼル市内の各美術館も注目の企画を開催。バイエラー財団美術館が、ゲルハルト・リヒターアグネス・マーチンをそれぞれ特集した空間とともに、その充実したコレクションにより近代美術における具象と抽象の相互作用を再検討する企画展『Passages – Landscape, Figure and Abstraction』、生誕150年を迎えるピート・モンドリアンを特集した『Mondrian Evolution』。バーゼル市立美術館では、かつてパブロ・ピカソはどのようにエル・グレコの作品に出会ったのか、40数点の作品を通じてその痕跡をたどる企画展『Picasso – El Greco』、アオテアロア/ニュージーランド出身のアーティスト、ルース・ブキャナンが同館所蔵作品を使ってキュレーションを手がけた『Heute Nacht geträumt』。バーゼル州立美術館ではそれぞれヴェネツィア・ビエンナーレでナショナル・パビリオンの個展を任されている、長く親交のあるジネブ・セディーララティファ・エシャクシュが協働しながら準備した展覧会『For a Brief Moment […] Several Times』など。そのほか、クンストハレ・バーゼルティンゲリー美術館など、いずれも充実したラインナップが並ぶ。

 

アートバーゼル2022https://www.artbasel.com/basel

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