韓国美術家賞2021


Choi Chan Sook, qbit to adam (2021) Installation view of Korea Artist Prize 2021 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.

 

2022年3月14日、韓国国立現代美術館(MMCA)は、韓国有数の現代美術賞として知られる韓国美術家賞を、ベルリンを拠点に活動するチェ・チャンスクに授賞すると発表した。

記念すべき10回目の受賞者に輝いたチェ・チャンスク(1977年生まれ)は、これまでに移住や移動、共同体といったテーマをめぐる視覚言語の構築に取り組み、さまざまな表現方法を駆使して、自分自身の立ち位置や存在と結びついた複数の物の見方や物語を発表してきた。近年の制作には実体験に基づいた、移住の経験を物理的レベル、感情的レベルの両方で扱われており、なかでも生活の場であり資産でもある土地をめぐる諸問題への関心が強く映し出されている。たとえば、《60号》(2020)では、DMZ(非武装地帯)近くのヤンジリ村に暮らす女性たちの物語を取り上げながら、土地所有をめぐる力学に光を当て、《qbit to adam》(2021)には、私たちがその上を歩き、ときに所有する土地について、長きにわたって重ねてきたチェの省察が描かれている。

チェは韓国の秋渓芸術大学校で学んだのちにドイツへと渡り、2009年にベルリン芸術大学(UdK)のマリア・ヴェダー教授の下でマイスターシュラーを取得。近年の主な個展に、『qbit to adam I, adam』(Kang Contemporary、ベルリン、2021)、『SUPERPOSITION qbit to adam』(台北デジタルアートセンター、2020)、『Re – move』(アートソンジェ・センター、ソウル、2017)があり、『All About Women Festival 2021』(シドニー・オペラハウス)、『Sirene-Goldrausch 2020』(クンストラウム・クロイツベルク/ベタニエン、ベルリン)、『The Square, Art and Society in Korea』(韓国国立現代美術館 果川館、2019)、『DMZ』(文化駅ソウル284、2019)などでも作品を発表している。

『韓国美術家賞2021』では、これまでに取り組んできた周縁化された人々や無視されてきた物語といった主題を、個人の歴史や記憶を通して土地や身体の問題にアプローチすることでさらに深めた4チャンネルの映像インスタレーション《qbit to adam》を発表した。鉱山採掘から仮想通貨のマイニング(採掘)まで、映像やサウンドを通じて語られるさまざまな物語は、展示空間内で結びついたり離れたりして、互いの関係を構築し直しながら、労働と物質的所有物をめぐる皮肉めいた人類史を明らかにしていく。展示室の赤銅色の床に映し出された映像とともに、鑑賞者に新たに経験された感覚の本質とは何かを問い直すように迫るものとなった。審査員のユージン・タン(シンガポール国立美術館館長)は、その作品を「土地所有権というアジアだけでなく国際的にも関心の高い時宜にかなった問題を、精密かつ簡潔に表現している」と称し、パク・ソヒョン(ソウル科学技術大学校教授)が「映像作品という枠組みを超えて、展示空間とインスタレーションを一体化した比類なきレベルの作品」と激賞するなど、スペクタクルなインスタレーションによって現代社会が抱える物語に挑む表現が高く評価された。

 


Choi Chan Sook, qbit to adam (2021) Installation view of Korea Artist Prize 2021 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.


Choi Chan Sook, qbit to adam (2021) Installation view of Korea Artist Prize 2021 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.


Choi Chan Sook, qbit to adam (2021) Installation view of Korea Artist Prize 2021 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.

 

先頃まで開催されていた『韓国美術家賞2021』では、チェ・チャンスクのほか、キム・サンジン、バン・ジョンア、オ・ミンが新作を発表した。さまざまな表現手段や形式を駆使して、この世界と人間存在に対する現代的見解やその変遷に取り組んできたキム・サンジン(1979年生まれ)は、新作《Lamps in Video Games Use Real Electricity》を発表し、ソーシャルメディアや仮想通貨、メタバースなどの仮想現実プラットフォームにおける体験が現実世界に及ぼす影響や、そのような効果が生み出す現象に焦点を当てた。映像とサウンドを駆使した展示空間全体にわたるインスタレーションを通じて、鑑賞者に有機的な空間体験をもたらし、現実世界と仮想世界の境界に存在する人間の矛盾する側面を示そうと試みた。拠点を置く釜山という場所に深く結びついた絵画作品を発表してきたバン・ジョンア(1968年生まれ)は、日常の背後に潜む出来事を描き出す《Heumul-heumul》(흐물흐물 ※どろどろ/ふにゃふにゃ)と題した展示に取り組んだ。粗暴かつ堅固な権力体制を描いた「韓国の政治風景」と、自然の生態系に言及する「プラスチック・エコシステム」というふたつのテーマで構成された空間で、バンは巨大な力に内在する動きと私たちの日常の接点を描き出し、鑑賞者に「いま、ここ」をじっくりと見つめる態度を提示した。オ・ミン(1975年生まれ)は、5つのモニタと多元音響からなるインスタレーション《Heterophony》を発表した。「ヘテロフォニー」とは、基本的に複数の声部が同一の旋律を同時に演奏することで、偶発的な音やリズムのずれが生み出される多声音楽の形式。映像や音楽、パフォーマンスといった表現を解体し、再構築することで新しい体験の可能性を探究してきたオは、本作を通じて、鑑賞者に映像や音響だけでなく、光やそのほかの物理的な要素を同時に感覚する経験をもたらすことで、いかなる素材や形式が視覚芸術を構成するとされているのかについて疑問を投げかけた。

韓国美術家賞は、優れたアーティストの発掘、支援を通じて、同国の現代美術の発展に貢献することを目的に、韓国国立現代美術館とSBS財団が2012年に設立した。革新的な美学を駆使して、現代社会が抱える重要な問題に取り組むアーティストが最大4名/組まで最終候補に選ばれ、SBS財団から4,000万ウォンの経済的支援を受けて、最終選考を兼ねた展覧会で新作を発表する。グランプリ受賞者には賞金1,000万ウォンが贈呈される。また、韓国国立現代美術館とSBS財団は2015年に同賞の歴代最終候補に選ばれたアーティストのための海外活動基金を設立し、国外での作品制作やプロジェクトの支援も行なっている。

 

韓国美術家賞http://koreaartistprize.org/

韓国美術家賞2021
2021年10月20日(水)- 2022年3月20日(日)
韓国国立現代美術館 ソウル館
http://www.mmca.go.kr/
参加アーティスト:キム・サンジン、バン・ジョンア、オ・ミン、チェ・チャンスク
キュレーター:ホン・イジ(韓国国立現代美術館キュレーター)

 

 


 

韓国美術家賞2021審査委員会
パク・ソヒョン(ソウル科学技術大学校教授)
チェ・ウンジュ(大邱美術館)
ユージン・タン(シンガポール国立美術館館長)
デフネ・アヤス、ナターシャ・ギンワラ(ともに光州ビエンナーレ2021アーティスティック・ディレクター)
ユン・ボムモ(韓国国立現代美術館ディレクター)※投票権なし

韓国美術家賞2021運営委員会
ユン・ボムモ(韓国国立現代美術館ディレクター)
パク・ジョンフン(SBSヒマンネイル[希望明日]委員会委員長)
ペ・スンフン(元韓国国立現代美術館ディレクター)
ムン・キョンウォン(アーティスト、梨花女子大学校准教授、2012年韓国美術家賞グランプリ)
アン・ギュチョル(アーティスト、韓国芸術総合学校教授)

 


 

歴代受賞者および最終候補(太字はグランプリ)
2021チェ・チャンスク、キム・サンジン、バン・ジョンア、オ・ミン
2020イ・スルギ、キム・ミネ、チョン・ユンソク、チョン・ヒスン
2019イ・ジュヨ、キム・アヨン、ホン・ヨンイン、パク・ヘス
2018サイレン・ウニョン・チョン、ク・ミンジャ、オキン・コレクティヴ、チョン・ジェホ
2017ソン・サンヒ、パク・ギョングン、ペク・ヒョンジン、サニー・キム
2016ミックスライス、キム・ウル、バク・スンウ、ハム・ギョンア
2015オー・インファン、キム・キラ、ナ・ヒュン、ハ・テボム
2014ノ・スンテク、ク・ドンヒ、キム・シニル、チャン・ジア
2013コン・ソンフン、シン・ミギョン、チョ・へジョン、ハム・ヤンア
2012ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ、ギム・ホンソック、イ・スギョン、イム・ミヌク

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