故オクウィ・エンヴェゾーらが特別金獅子賞を受賞


Padiglione Centrale_Giardini_Photo by Francesco Galli_Courtesy La Biennale di Venezia

 

2020年8月29日、ヴェネツィア・ビエンナーレ事務局は、その125年の歴史を記念した、その豊富なアーカイブを利用した展覧会『Le muse inquiete (The Disquieted Muses). When La Biennale Meets History』を開催する。また、本展会期中の9月1日には、昨年から今年にかけて他界した、マウリツィオ・カルヴェージ、ジェルマーノ・. チェラント、オクウィ・エンヴェゾー、ヴィットリオ・グレゴッティの4名のヴェネツィア・ビエンナーレ美術部門のアーティスティックディレクター経験者に特別金獅子賞を授与する。

ヴェネツィア・ビエンナーレ事務局長のロベルト・チクットは、「ヴェネツィア・ビエンナーレの国際的な地位は、同時代の文化に重要な変化を示したアーティスティックディレクターたちの仕事や独創性の功績によるものであると言っても過言ではありません。このビエンナーレは、カルヴェージ、チェラント、エンヴェゾー、グレゴッティが未来を見つめ、時にそれを予想する、独創的かつ先見性のある批評的思考を表現する実験室でした。(これから開幕する)『Le muse inquiete』では、ヴェネツィア・ビエンナーレという現代美術界で共同研究の姿勢で継続してきた対話の起源をなすビエンナーレの歴史における展覧会の中心的な人物として、この4人に焦点を当てています」とコメントを寄せている。

マウリツィオ・カルヴェージ(1927年ローマ生まれ/2020年没)は、批評家、美術史家で、1980年から1982年にわたり、ヴェネツィア・ビエンナーレ理事会の役員を務め、第41回(1984)および第42回(1986)のヴェネツィア・ビエンナーレのキュレーターを務めた。カルヴェージは、リオネロ・ベントゥーリ、ジュリオ・カルロ・アルガン、フランチェスコ・アルカンジェリに師事し、イタリアの16、17世紀の美術様式と美術家に関心を持ち、カラッチ一族とカラヴァッジョの諸研究に取り組んだ。ピエロ・デラ・フランチェスカ、デューラー、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂天井画、カラヴァッジョ、ピラネージ、さらには、ボッチョーニ、未来派、デ・キリコ、ポップ・アートなどを対象とした美術史研究や美術批評のための基礎論文を残し、ローマ国立近代美術館科学ディレクターから文化遺産イタリア国内審議会芸術・歴史遺産委員会委員長まで、美術界の学術的・国際的な最高の地位に就任するなど、イタリアで最も影響力のある近代美術史家のひとりと見なされていた。

ジェルマーノ・. チェラント(1940年ジェノバ生まれ/2020年没)は、美術批評家、美術史家で、アルテ・ポーヴェラの理論化により国際的に知られており、世界各地で展覧会を企画、100冊以上の書籍、カタログを出版。2005年に豊田市美術館で開催された『アルテ・ポーヴェラ : 貧しい芸術』のカタログにもその論考が収録されている。1997年に第47回ヴェネツィア・ビエンナーレのディレクターを務め、1976年にも当時のヴェネツィア・ビエンナーレの視覚芸術部門のディレクターを務めていたヴィットリオ・グレゴッティに、「Ambiente / Arte」というテーマを反映した展示を考案するために招聘され、このタイトルの下にジャルディーニで展覧会を実現している。そのほか、ソロモン・グッゲンハイム美術館の現代美術部門シニアキュレーター、アルド・ロッシ財団のキュレーター、プラダ財団のディレクター、芸術科学長を歴任した。

オクウィ・エンヴェゾー(1963年ナイジェリア、カラバル生まれ/2019年没)は、キュレーター、美術批評家、編集者、ライターとしての幅広い実践により、展覧会、美術館、学術機関、出版などにわたって国際的な影響をもたらした。世界各地の現代美術や、アフリカおよびアフリカン・ディアスポラの近現代美術に関心を持ち、ディアスポラ、移民、ポスト植民地主義的近代、建築、都市に関する理論に精通していた。2015年に第56回ヴェネツィア・ビエンナーレのアーティスティックディレクターを務め、企画展『All the World’s Futures』を実現した。第2回ヨハネスブルグ・ビエンナーレ(1997)、ドクメンタ11(1998-2002)などの国際展のアーティスティックディレクター、ミュンヘンのハウス・デア・クンストのディレクターを歴任。生前最後の企画となったチカ・オケケ=アグルとの共同企画『El Anatsui: Triumphant Scale』は、ハウス・デア・クンストで開幕し、ドーハのマトハフ・アラブ近代美術館、ベルン美術館に巡回した。

ヴィットリオ・グレゴッティ(1927年イタリア、ノヴァーラ生まれ/2020年没)は、「パレルモ大学科学学科新キャンパス」、「バルセロナ・オリンピックセンター」などの実作のほか、教育、出版、ジャーナリズムの分野でも多大な貢献をしたことで知られる建築家、都市・建築理論家。ヴェネツィア・ビエンナーレにおいては、1974年と1977年にアーティスティックディレクターとして、さまざまな展覧会を組織し、学問領域としての建築を紹介した。上述したふたつの作品のほか、ジェノヴァの「スタディオ・コムナーレ・ルイジ・フェッラーリス」、リスボンの「ベレン文化センター」、ベルリンのポツダム広場、アルチンボールディ劇場の設計を含むミラノのビコッカ地区、上海郊外の浦江地区の再開発などを手掛けた。主な著書に、日本語にも翻訳された『Il territorio dell’architettura(イタリアの現代建築)』(1966/1980)などがある。

なお、『Le muse inquiete. When La Biennale di Venezia Meets History』は、美術部門のチェチリア・アレマーニを含む、建築、映画、ダンス、音楽、演劇の全6部問のアーティスティックディレクター全員が、ヴェネツィア・ビエンナーレの歴史アーカイブ(Historical Archives of Contemporary Arts / ASAC)をはじめとする国内外のアーカイブを利用し、同ビエンナーレを振り返る共同企画。ジャルディーニを会場に2020年12月8日まで開催している。また、ヴェネツィア・ビエンナーレでは、2020年6月から歴史アーカイブを利用したヴァーチャル展覧会も開催中。

 

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