ヨコハマトリエンナーレ2020が開幕を直前に控え、オンライン記者会見を開催


 

2020年6月22日、横浜トリエンナーレ組織委員会は間近に迫った開幕を前に、オンライン記者会見を開催した。新型コロナウイルス感染症が世界規模で拡がり、数々の国際展が大幅な日程の変更を迫られるなか、ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」は、ほぼ予定通りの日程で開催することを決断した。記者会見では、組織委員会副委員長の逢坂恵理子(前・横浜美術館館長/現・国立新美術館館長)がその意義を語り、アーティスティック・ディレクターを務めるラクス・メディア・コレクティヴの3人がビデオ・メッセージを通じて、事前に発表、共有してきた「ソース」の重要性や観客への期待を語った。

YouTubeでの配信も同時に行なわれた会見では、冒頭、逢坂が新型コロナウイルス感染症の影響により、同国際展としては海外からの初のアーティスティック・ディレクターとなったラクス・メディア・コレクティヴをはじめ、海外を拠点にするアーティストの来日が敵わない状況ではあるが、「生身の人間がその場に足を踏み入れ、作品に向き合い、感じ、反応し、そして、考えるという実体験が最も大切で、それが人間のバランスをとるものだと考えている」こと、「アーティストの創作活動を中断させることなく、ヨコハマトリエンナーレを開催することが、アーティストへの支援にも繋がると考えた」ことから、政府の新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針や日本博物館協会の「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に従い、会場を準備することで、展覧会の開催を決意したと語った。

 


ラクス・メディア・コレクティヴ 撮影:加藤甫 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

 

ラクス・メディア・コレクティヴのジーベシュ・バグチ、モニカ・ナルラ、シュッダブラタ・セーングプタの3名は、移動ができず互いに物理的に離れざるを得なくなってしまった時期に、昨年、「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」のために制作した『ソースブック』に込めたアイディア(「独学」、「発光」、「友情」、「ケア」、「毒」)の重要性を再確認したと語った。また、『ソースブック』を通じて共有している驚きを、展覧会を通じてあらためて感じてもらいたいと観客に呼びかけ、そして、「生命、宇宙、世界、そして日々の時間は、数えきれないほどの行為を通じて、分解・再構成され、発光に守られて徐々に再建されていく。短い間の傷も、時間の有毒なかけらが放つ残光(afterglow)の中で回復していく。生命とは発光する独学者なのである。/さあ、「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」へようこそ」と詩的な言葉でメッセージを締めくくった。

続いて、横浜美術館館長就任と同時に組織委員会副委員長にも就任した蔵屋美香が、ラクス・メディア・コレクティヴの思考と展覧会の繋がりや、一部の参加アーティストの作品を紹介した。ラクス・メディア・コレクティヴの思考は、「ものを深く考えるためにじっと固まって静かにするのではなく、むしろ、身体を動かして、動き回ることの中ではじめて自由な発想が生まれてくる」と考えるところにその特徴があると蔵屋は語る。また、『ソースブック』にあった「独学」が示すように、彼らは「わかりやすさ」に抗い、自らたくましく学ぶことを観客に望む。これらは展覧会場のキャプションに一般的な作品解説ではなく、詩のようなものが採用されるという形で反映される。一見不親切に見えるような態度は、むしろ、大量の情報を受け取ることで頭を固くするのではなく、断片的なものから自由な連想へと至る経験を観客に呼びかけるものである。この日、蔵屋から紹介されたエヴァ・ファブレガスは、柔らかい素材で健康器具をモチーフとした大型の彫刻を制作しているが、ラクス・メディア・コレクティヴはその形状から腸を連想し、人間の身体の一番内側にあるものの中で、腸内フローラのようなほかの生き物が共存している様を思い浮かべる。アーティストの意図を外れたこのような連想こそが、彼らが観客に期待するものの一例だと言えるだろう。作品の制作はその構想から長い時間をかけて行なわれるために、新型コロナウイルス感染症に即時的かつ直接的に反応した作品はないかもしれないが、『ソースブック』に「毒」というアイディアを込めたラクス・メディア・コレクティヴのように、アーティストは時に未来を予見すると蔵屋は述べる。観客はそれぞれの「いま、ここ」から作品と向き合うことになるだろう。

 


エヴァ・ファブレガス《ポンピング》2019年


インゲラ・イルマン《ジャイアント・ホグウィード》(部分)2016/2020年 Photo by Sebastian Dahlqvist

 

世界規模で影響を与えている新型コロナウイルス感染症だが、一方で、国・地域によってその状況は異なる。ヨコハマトリエンナーレは厳しいロックダウン下にあるアーティストとも対話を続け、その制作の重要性を確認しあい、現地で入手困難な制作素材の別の経路での提供を探るなど、それぞれのアーティストの制作に関わってきた。最終的な作品の設営段階においても、指示書の作成、画像や映像のやりとり、ビデオ会議などを通じて、現在も協働を続けている。また、緊急事態宣言により、休館を求められた際にも、ヨコハマトリエンナーレ全体が止まってしまわぬように、当初、会期会場が限定されないものとして想定していた「エピソード」におけるパフォーマンスを、デジタル環境へ切り替えることができないかなどの検討も続けられている。

新型コロナウイルス感染症対策としては、事前予約制によるチケット販売やマスク着用、入り口に体温測定のためのサーモグラフィを準備し、37.5度以上の発熱がある場合は入場禁止するといった来場者への呼びかけ、入場者数の制限や換気、消毒、2メートル間隔のフロアマーカーの設置といった会場内の感染予防策、また、スタッフの感染予防には毎日の検温と体調チェック、マスクやフェイスシールド、手袋の着用など適切な対策を講じていくと発表した。日時指定の予約制となるチケットはすべてオンラインでの購入となる。トリエンナーレ単体のチケットのほか、BankART Life VI黄金町バザール2020にも使用可能な横浜アート巡りチケットの販売も行なう。チケットの販売は6月23日10時から開始し、毎月1日午前10時に翌月分のチケットの販売を開始する予定。

 

ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」
2020年7月17日(金)- 10月11日(日)
https://www.yokohamatriennale.jp/2020/
会場:横浜美術館、プロット48
AD:ラクス・メディア・コレクティヴ

ヨコハマトリエンナーレ2020 ソースブックhttps://www.yokohamatriennale.jp/2020/concept/sources/

 


レーヌカ・ラジーヴ《サイボーグは敏感》2020年 © Renuka Rajiv


岩井優 ©︎ Masaru IWAI, Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

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