美術史家・批評家のグリゼルダ・ポロックがホルベア賞を受賞


Griselda Pollock, Credit: University of Leeds

 

2020年3月5日、芸術、人文科学、社会科学、法学、神学の分野において、顕著な業績をあげた研究者に贈られる「ホルベア賞」を、フェミニズム美術史の先駆者として知られる美術史家・批評家のグリゼルダ・ポロックが受賞した。

美術史をはじめ、フェミニズム映画研究、トラウマ研究、ホロコースト研究といった関連分野における絶大な影響を評価されたポロックの受賞は、同賞における初の美術史家の受賞となった。ホルベア賞の審査委員長を務めたロンドン大学教授のヘーゼル・ゲンは「グリゼルダ・ポロックは一般通念や思想・価値観の制度化されたヒエラルキーに挑戦しながらも、常に最高の研究水準を維持してきた。これにより、彼女は何世代もの美術史家、文化史家の道しるべであり続けている」とその功績を讃えた。同賞は、2003年に文学者ルドヴィーク・ホルベアの功績を記念してノルウェー議会が創設。授賞式はベルゲン大学で6月4日に開かれ、ポロックには賞金600万クローネ(約6800万円)が授与される。

グリゼルダ・ポロック(1949年南アフリカ共和国生まれ)は、美術史や文化研究にフェミニズム、クィア、ポストコロニアリズム、社会的観点を持ち込むなど、1970年代より40年以上にわたって、ジェンダー、イデオロギー、美術、視覚文化に対する思考に国際的な影響をもたらしている。なかでも、美術史における構造的な性差別に言及したロジカ・パーカーとの共著『Old Mistresses: Women, Art and Ideology』(1981 ※『女・アート・イデオロギー―フェミニストが読みなおす芸術表現の歴史』翻訳/萩原弘子、1992)や単著『Vision and Difference』(1988 ※『視線と差異―フェミニズムで読む美術史』翻訳/萩原弘子、1998)は、既にフェミニズム美術史における古典の地位を獲得している。両書をはじめ、美術史や文化研究をジェンダーや階級、人種の観点から再検討するポロックの試みは、美術史の正典から排除されていたエヴァ・ヘス、ルイーズ・ブルジョワ、ジョージア・オキーフ、ヴェラ・フランケル、アリーナ・シャポツニコフなど数多くのアーティストによる革新的な作品に光が当てられ、その後の美術史の教育、研究に多大な影響を与えている。そのほか、1950年代以降のハリウッド映画のメロドラマ、映画監督のシャンタル・アケルマンに関する研究、『Concentrationary Cinema』(2011)をはじめとするマックス・シルバーマンとの共同編集「Concentrationary Studies」シリーズ、アウシュヴィッツで26歳の若さで殺されたドイツ系ユダヤ人のシャルロッテ・サロモンが1年間で描いた784点の絵画に新たな解釈を試みた『Charlotte Salomon and the Theatre of Memory』(2018)など、数多くの書籍の執筆、編集、学術誌やカタログへの寄稿を手がけている。

また、ポロックはカンタベリー美術大学、レディング大学、マンチェスター大学、リーズ大学で教鞭を執り、1990年にリーズ大学の「Social and Critical Histories of Art」の教授に就任するなど、教育においても長年にわたり後進の育成に尽力し、さらには、同大学の「Centre for Cultural Analysis」(1989-2000)、「Centre for Cultural Analysis, Theory & History」(2001-)のディレクターを歴任し、キャロライン・クリストフ=バカルギエフがキュレーションを手がけた第14回イスタンブール・ビエンナーレではアドバイザーも務めるなど、幅広くかつ一貫した活動を継続している。

 

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