第35回写真の町東川賞


志賀理江子「YING & YHAI(ブラインドデート)」2008年

 

2019年5月1日、30年以上にわたる写真文化に関する継続的な活動で「写真の町」として知られる北海道上川郡東川町が、第35回写真の町東川賞の受賞者を発表し、志賀理江子(国内作家賞)、ローズマリー・ラング(海外作家賞)、片山真理(新人作家賞)、奥山淳志(特別作家賞)、太田順一(飛彈野数右衛門賞)が各賞に選出された。受賞作家作品展は、第35回東川町国際写真フェスティバルの一環として、東川町文化ギャラリーで8月3日から28日まで開催。会期初日は授賞式やレセプション、翌日は受賞者に、東川賞審査委員、ゲストを交えた受賞作家フォーラムを開催する。

 

国内作家賞は議論と投票を繰り返した末に、志賀理江子(1980年愛知県生まれ)が受賞した。独自のフィールドワークを基に、写真を中心とした制作活動を展開する志賀は、木村伊兵衛写真賞やICP国際写真センター・インフィニティアワード(新人賞)を受賞するなど国内外で高い評価を受ける。2009年より宮城県名取市北釜にアトリエを構え、同地区の人々との共同制作だけでなく地域の専属カメラマンとしても活動。東日本大震災の被災体験を経て、2012年にはせんだいメディアテークで開催した『螺旋海岸』(2011-12)で東川賞新人作家賞を受賞。受賞対象は2017年に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催した個展『ブラインドデート』、T&M Projectsから出版した同名作品集をはじめとする一連の作品(審査は東京都写真美術館での個展『ヒューマン・スプリング』開催前に実施)。生と死とイメージを根源的に掘り下げ、写真という枠組みを揺さぶり、超えていく展開に対する期待が今回の受賞をもたらした。

オーストラリアが対象国となった今回の海外作家賞は、ローズマリー・ラング(1959年ブリスベン生まれ)が受賞。ラングは入念なリサーチと詩的な想像力をもとに、同国の文化的、歴史的意味を内包したランドスケープを問う作品を、インスタレーション、パフォーマンス、写真を融合した形で制作、発表している。ヴェネツィア・ビエンナーレ(2007)やシドニー・ビエンナーレ(2008)をはじめ、国内外の数々の展覧会で作品を発表しており、日本国内でも1999年に国立国際美術館で『国際交流展 ローズマリー・ラング エアロ・ゾーン』を開催している。また、2012年にはPrestel社から作品集を刊行した。今回の受賞対象は、「weather」(2006)、「leak」(2010)、「Buddens」(2017)ほか一連の作品。

 


ローズマリー・ラング「Prowse」『leak』シリーズより、2010年 ©Rosemary Laing, Courtesy Tolarno Galleries, Melbourne.


片山真理「shadow puppet #014」2016年

 

新人作家賞は、開幕したばかりの第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ企画展にも参加している片山真理(1987年群馬県生まれ)が受賞。装飾を施した義足を装着したセルフポートレートや、自身の身体をかたどった立体作品などにより、自らの身体・精神と世界との関係を作品化してきた片山。近年は、あいちトリエンナーレ2013や『六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声』などで数々の展覧会に出品している。受賞対象は、『帰途』(群馬県立近代美術館、2017)、『無垢と経験の写真 日本の新進作家vol.14』(2017-18、東京都写真美術館)ほか一連の作品。2019年には初の作品集『GIFT』(United Vagabonds)から発表。そのほか、歌手、モデルなど多岐にわたる活動を展開している。

特別作家賞は、北海道新十津川町で開拓民の最後の世代として自給自足の生活を営む井上弁造を撮り続けたシリーズで知られる奥山淳志(1972年大阪府生まれ)が受賞。88年に雑誌の取材を通じて出会った井上を四季の移り変わりにあわせるようにして訪問し、エスキースを描き続ける井上を撮り続け、2012年に井上が逝去した後も、その庭と遺品のエスキースの撮影を続けている。受賞対象は、私家版の写真集『弁造』(2018)と写真展『庭とエスキース』(銀座、大阪ニコンサロン、2018)。昨年は日本写真協会賞新人賞を受賞。2019年4月には写文集『庭とエスキース』(みすず書房)を出版した。

 


奥山淳志「最後のポートレート」2012年


太田順一「遠い日の痕跡 奈良」『遺された家ー家族の記憶』より、2011年

 

長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者を対象とする飛彈野数右衛門賞は、太田順一(1950年奈良県生まれ)が受賞。80年代に撮影した猪飼野(大阪市生野区)に暮らす在日朝鮮人、大正区に多く暮らす沖縄出身の人々から、近年の大阪湾の環境再生実験のため、岸和田の沖合いにつくられた人工の干潟に消えては現れる世界の痕跡をとらえた『ひがた記』(海風社、2018)まで、長きにわたって、大阪を中心に関西地方を撮影し続けてきた作品群が受賞対象となった。

北海道・東川町は、1985年6月1日の「写真の町宣言」以来、毎夏開催の東川町国際写真フェスティバル(愛称:東川町フォトフェスタ)をはじめ、多種多様なプログラムを通じて、写真文化を発信、体験する場を形成してきた。今年は国内作家賞52名、海外作家賞18名、新人作家賞69名、特別作家賞24名、飛彈野数右衛門賞39名の計187名がノミネートされ、上野修(写真評論家)、北野謙(写真家)、倉石信乃(詩人、写真批評)、柴崎友香(小説家)、中村征夫(写真家)、丹羽晴美(学芸員、写真論)、原耕一(デザイナー)、光田由里(美術評論家)の8名が審査委員を務めた。

 

第35回写真の町東川賞フェスティバル 受賞作家作品展
2019年8月3日(土)-8月28日(水)
http://photo-town.jp/
会場:東川町文化ギャラリー
開場時間:10:00-17:00
(8/3:15:00-21:00|8/28:10:00-15:00)
会期中無休

Copyrighted Image