あいちトリエンナーレ2019 「ジェンダー平等」を掲げ、参加アーティストを発表


モニカ・メイヤー「El Tendedero (The Clothesline」1978年, Museo de Arte Moderno, メキシコシティ(メキシコ), Photo: Victor Lerma, Courtesy of the Pinto mi Raya Archive

 

2019年4月2日、あいちトリエンナーレ実行委員会は東京・渋谷のスマートニュース イベントスペースにて「あいちトリエンナーレ2019」に関する記者会見を開催した。芸術監督の津田大介をはじめ、チーフ・キュレーターの飯田志保子、パフォーミングアーツ部門キュレーターの相馬千秋、ラーニング部門のキュレーター会田大也が出席し、企画概要や各部門での試みを発表した。また、津田からはハフィントンポストのインタビューや東京に先行する愛知県内での記者会見で、本トリエンナーレの参加アーティストにおける「ジェンダー平等」の達成を打ち出した経緯が説明された。

あいちトリエンナーレ2019では、情という言葉の持つ多義性に注目した津田の掲げる「情の時代(Taming Y/Our Passion)」というテーマの下、揺れ動く人間の感情や情動、情報テクノロジー、人間の持つ根源的な情や憐れみといった観点を軸に、参加アーティストがそれぞれのアプローチを見せていく。チーフ・キュレーターの飯田は、定点観測としての国際展という側面を踏まえ、テーマに忠実に丁寧に議論を重ねる中で選考した参加アーティストの作品から、ここ3年の国内外、そして愛知の情勢が滲み出てくるものになるだろうと述べた。選考過程において、津田は当初から「ジェンダー平等」のルールを設けていたわけではないが、国際現代美術展部門のキュレーターとして参加しているペドロ・レイエスが、最初のミーティングの時点でテーマに応答する形で、モニカ・メイヤーをはじめ、ジェンダーやフェミニズムを扱うアーティストを数多く提案してきたことで、今回の発表に至る流れができていたのではないかと振り返る。また、津田は昨年8月に報じられた東京医科大学医学部医学科の一般入試における女性のみ一律減点するという不正操作の発覚および大学側を擁護する声に対する衝撃がきっかけとなり、日本社会におけるジェンダーギャップの問題を再確認、さらには、美術界におけるジェンダーギャップの問題を取材し同様の構造を見てとり、既に6対4となっていた参加アーティスト候補の男女比率から、メッセージとして「ジェンダー平等」を打ち出すべきだと判断したと語った。また、批判的な反応があることは予想していたが、ハリウッドの「50/50 by 2020」や第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ企画展の参加アーティストの男女比率といった国際的な動向は、あいちトリエンナーレも目指すべき方向であり、発表後は賛同の声の方が大きいと述べた。

 


キャンディス・ブレイツ「Love Story」2016年, Featuring Alec Baldwin and Julianne Moore, 第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ, 南アフリカ館, ヴェネツィア(イタリア), Commissioned by the National Gallery of Victoria, Outset Germany + Medienboard Berlin-Brandenburg, Photo: Andrea Rossetti, Courtesy of Goodman Gallery, Kaufmann Repetto + KOW


石場文子「2と3のあいだ(わたしの机とその周辺)」2017年

 

本トリエンナーレでは、参加アーティストの選考において「ジェンダー平等」と同じく、テーマに忠実であることを前提とした上で、公金を使用する地方の行政団体の文化事業において、市場的な価値の定まらない実力のある国内の若手アーティストを早い段階で取り上げることでキャリア形成を支援する点を重視。35歳以下の日本のアーティストの数は全参加アーティストの2割を占める。また、新作と旧作のバランスにおいて、津田は村山悟郎dividual inc.永田康祐の既存の作品はテーマとの関連で念頭にあったと述べる一方で、テーマについて話し合う中で旧作とともに新作を発表することになったアーティストも少なくないと述べた。飯田はコミッション・ワークが比較的多いあいちトリエンナーレではあるが、美術館を会場に使い、展覧会を観る上での文脈をきちんと整えたキュレーションを特徴としており、その点において、選考過程の初期段階からテーマに適切な既存の作品の選定は強く意識していたと語り、前回のヴェネツィア・ビエンナーレで発表されたキャンディス・ブレイツの「Love Story」(2016)や、ミリアム・カーンの油彩や水彩の原子爆弾などの問題を扱った絵画を挙げた。また、新たにまちなか展示の会場となる四間道・円頓寺エリアでは新作を中心に展示。トリエンナーレ全体で、新作と旧作の配置を意識しながら文脈を形成し、作品がテーマに対して説明的なものとして終わってしまうことなく、観客の琴線に多角的に触れることで、展覧会を観ている最中や観終わった後でふとテーマのことを思い返す構成を目指す。

 


ドラ・ガルシア「The Romeos」2018年, 「Love Comes From the Most Unexpected Places」Trondheim Kunstmuseum, トロンハイム(ノルウェー), Photo: Aksel-Dev Dhunsi, Copyright: Trondheim Kunstmuseum and Dora García


モニラ・アルカディリ『Feeling Dubbing(吹き替え感)』2017年, クンステン・フェスティバル・デザール, ブリュッセル(ベルギー), Photo: Catherine Antoine, Courtesy of the artist

 

相馬千秋がキュレーターを務めるパフォーミングアーツ部門では、これまで主にダンスを特徴としてきた内容から演劇を中心とした構成に変え、現時点で発表された8演目中6演目が新作という挑戦的なプログラムを準備。普段は現代美術の領域で活動する小泉明郎サエボーグによる上演のみならず、国際現代美術展部門のアーティストの制作に相馬が関わるなど部門を横断した試みを展開する。なお、同部門の作品の上演は3つの期間(8/1-8/4、9/6-9/8、10/11-10/14)に集中的に配置される。そのほか、エデュケイションからラーニングへと改称された部門を担当する会田大也から、遠藤幹子&日比野克彦によるアート・プレイグラウンドや、会期中の対話型鑑賞や託児機能に関する報告、津田からは映像プログラムや音楽プログラムに関する報告がなされた。なお、チケット制度は1DAYパスと会期中各会場に何回でも入場できるフリーパスの2種類に設定し、4月1日よりすでに「でら得先割」を開始。より多くの観客が気軽に鑑賞できる体制を整えている(パフォーミングアーツや音楽プログラムのチケットは6月以降順次発売予定)。

 

あいちトリエンナーレ2019「情の時代」
2019年8月1日(木)-10月14日(月・祝)
https://aichitriennale.jp/
愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(四間道・円頓寺)、豊田市(豊田市美術館及び豊田市駅周辺)
AD:津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

 

 

参加アーティストリスト
【国際現代美術展】
表現の不自由展・その後|After “Freedom of Expression?”
ソンミン・アン[洪松明]&ジェイソン・メイリング|Song-Ming Ang & Jason Maling
青木美紅|Miku Aoki
ワリード・ベシュティ|Walead Beshty
キャンディス・ブレイツ|Candice Breitz
ジェームズ・ブライドル|James Bridle
タニア・ブルゲラ|Tania Bruguera
文谷有佳里|Yukari Bunya
ミリアム・カーン|Miriam Cahn
ピア・カミル|Pia Camil
CIR(調査報道センター)|The Center for Investigative Reporting
ヘザー・デューイ=ハグボーグ|Heather Dewey-Hagborg
dividual inc. |dividual inc.
毒山凡太朗|Bontaro Dokuyama
越後正志|Masashi Echigo
アイシェ・エルクメン|Ayşe Erkmen
エキソニモ|exonemo
シール・フロイヤー|Ceal Floyer
藤井光|Hikaru Fujii
藤原葵|Aoi Fujiwara
レジーナ・ホセ・ガリンド|Regina José Galindo
ドラ・ガルシア|Dora García
グゥ・ユルー[葛宇路]|Ge Yulu
ホー・ツーニェン|Ho Tzu Nyen
アンナ・フラチョヴァー|Anna Hulačová
今村洋平|Yohei Imamura
今津景|Kei Imazu
石場文子|Ayako Ishiba
伊藤ガビン|Gabin Ito
岩崎貴宏|Takahiro Iwasaki
加藤翼|Tsubasa Kato
キュンチョメ|Kyun-Chome
リョン・チーウォー[梁志和]+サラ・ウォン[黄志恒]|Leung Chi Wo + Sara Wong
イム・ミヌク|Lim Minouk
アマンダ・マルティネス|Amanda Martinez
クラウディア・マルティネス・ガライ|Claudia Martínez Garay
桝本佳子|Keiko Masumoto
モニカ・メイヤー|Mónica Mayer
村山悟郎|Goro Murayama
永田康祐|Kosuke Nagata
レニエール・レイバ・ノボ|Reynier Leyva Novo
小田原のどか|Nodoka Odawara
パンクロック・スゥラップ|Pangrok Sulap
パク・チャンキョン|Park Chan-kyong
パスカレハンドロ(アレハンドロ・ホドロフスキー&パスカル・モンタンドン=ホドロフスキー)|pascALEjandro (Alejandro JODOROWSKY and Pascale MONTANDON-JODOROWSKY)
タニア・ペレス・コルドヴァ|Tania Pérez Córdova
スチュアート・リングホルト|Stuart Ringholt
ウーゴ・ロンディノーネ|Ugo Rondinone
澤田華|Hana Sawada
Sholim|Sholim
タリン・サイモン|Taryn Simon
スタジオ・ドリフト|Studio Drift
菅俊一|Syunichi Suge
高嶺格|Tadasu Takamine
田中功起|Koki Tanaka
ハビエル・テジェス|Javier Téllez
バルテレミ・トグォ|Barthélémy Toguo
トモトシ|tomotosi
津田道子|Michiko Tsuda
碓井ゆい|Yui Usui
和田唯奈(しんかぞく)|Yuina Wada (Shinkazoku)
鷲尾友公|Tomoyuki Washio
アンナ・ヴィット|Anna Witt
ユェン・グァンミン[袁廣鳴]|Yuan Goang-Ming
弓指寛治|Kanji Yumihashi
カタリーナ・ズィディエーラー|Katarina Zdjelar

 


小森はるか『空に聞く』2018年, ©Haruka Komori

 

【ラーニング】
遠藤幹子&日比野克彦|Mikiko Endo & Katsuhiko Hibino

【映像プログラム】
小森はるか|Haruka Komori
富田克也|Katsuya Tomita

【パフォーミングアーツ】
モニラ・アルカディリ|Monira Al Qadiri
市原佐都子(Q)|Satoko Ichihara (Q)
小泉明郎|Meiro Koizumi
ネイチャー・シアター・オブ・オクラホマ+エンクナップグループ|Nature Theater of Oklahoma + EN-KNAP Group
ミロ・ラウ(IIPM)+ CAMPO|Milo Rau (IIPM) + CAMPO
サエボーグ|Saeborg
高山明(Prot B)|Akira Takayama (Port B)
劇団うりんこ+三浦基+クワクボリョウタ|Theater Urinko + Motoi Miura + Ryota Kuwakubo

【音楽プログラム】
純烈|Junretsu
サカナクション|Sakanaction

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