アルテス・ムンディ8


Apichatpong Weerasethakul Invisibility (2016) at Gwangju Biennale 2018: Imagined Borders, Photo: ART iT

 

2019年1月24日、カーディフ国立美術館で人間性や社会的現実、経験に向き合いながら制作活動を行なうアーティストを支援する美術機関アルテス・ムンディによる美術賞の授賞式が開かれ、映画、現代美術の両領域で国際的に活躍するアピチャッポン・ウィーラセタクンが受賞者に選出された。アピチャッポンには賞金40,000ポンド(約575万円)が授与された。

アピチャッポン・ウィーラセタクン(1970年バンコク生まれ)は、タイの東北地方を舞台に、伝説や民話、記憶や夢、時事的な問題への言及を織り込んだ独特の世界観を持つ映像作品を発表している。カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞やドクメンタをはじめとする国際展への参加、美術館での個展開催など、映画と現代美術の両領域で国際的な実績を重ねている。日本国内でも両領域での作品発表に加え、TPAM2017でパフォーマンス作品「フィーバー・ルーム」を発表するなど、高い人気を博している。アピチャッポンは今回の受賞に対して感謝と驚きの念を語るとともに、「アルテス・ムンディは、アーティストに社会や政治の状況を表現する自由が与えられていることの重要性にあらためて気づかせてくれました。タイでは、プロパガンダが至る所にあらゆる形で存在しているため、移ろいやすい「真実」がアイデンティティの周りを漂い、その形成や破壊をもたらしています。アートは自分の声を見つける実践であり、正直かつ誠実に話すことができる実践です。アートの真実性は共感を育む。そして、私たちの生きている世界には真実を伝えるアートや共感が必要です。私が最初に映画の仕事をはじめたのは、ある種の逃避を求めるからでしたが、その後、映画は転覆的なものになる得ることに気づきました。映画は批評を乗り越えられる言語、恐怖や希望を映し出せる言語です。それはこの世界で固定的な物語に抗う、もうひとつのアイデンティティのレイヤーを創り出すのです」と語った。また、審査員は「政治を語ることが時に危険を伴う困難な時代に、アピチャッポン・ウィーラセタクンは、繊細な抵抗の道具を与えてくれる。(日本ではさいたまトリエンナーレ2016で発表され、アルテス・ムンディ8がイギリスでの初展示となった)「Invisibility」の中に示されたそのカモフラージュの方法は、そのような時代における強力な武器である」と共同でコメントを寄せた。

アルテス・ムンディは、国際的に優れた美術を通じて、ウェールズの人々や地域が現代社会の抱えるさまざまな問題に創造的に関わる機会の創出を目的に2002年に設立された。2年に一度開催する展覧会および美術賞は、ウェールズ最大の現代美術の展覧会のひとつとしての地位を固めている。これまでに、ジョン・アコムフラー、セアスター・ゲイツ、テレサ・マルゴレス、ヤエル・バルタナ、N・S・ハルシャ、エイヤ=リーサ・アハティラ、シュー・ビンが受賞している。審査のプロセスは、世界各地の有識者から推薦された候補者(今回は86カ国・地域450名)から、5名から7名の最終候補を選考委員が選び出し、約1年後の展覧会に向けて、キュレーターとともに出品作品を検討。その後、審査員が展覧会の内容および最終候補者の過去の実践を踏まえて受賞者を決定する。今回の審査員は、ArtReview誌国際編集委員のオリヴァー・バッシアーノ、森美術館副館長兼チーフ・キュレーターの片岡真実、ニューヨークを拠点とするインディペンデント・キュレーターのラウラ・ライコビッチ、カーディフの老舗アーティスト・ラン・スペース、G39クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・シャプランド、選考委員は、ニック・エイキンズ(ファン・アッベ美術館キュレーター、アイントホーフェン)、アリア・スワスティカ(キュレーター兼ライター、ジャカルタ)、ダニエラ・ペレス(インディペンデント・キュレーター、メキシコシティ)が務めた。アピチャッポンのほか、最終候補に残ったアンナ・ボヒギャン、ブシュラ・ハリーリ、オトボング・ンカンガ、トレヴァー・パグレンの作品を紹介する展覧会『アルテス・ムンディ8』は、2019年2月24日まで、カーディフ国立美術館で開かれている。

 

アルテス・ムンディ(Artes Mundi)http://www.artesmundi.org/

アルテス・ムンディ8
2018年10月26日(金)-2019年2月24日(日)
カーディフ国立美術館
https://museum.wales/cardiff/

 

 

 


 

歴代受賞者
2017|ジョン・アコムフラー
2014|セアスター・ゲイツ
2012|テレサ・マルゴレス
2010|ヤエル・バルタナ
2008|N・S・ハルシャ
2006|エイヤ=リーサ・アハティラ
2004|シュー・ビン

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