羽鳥嘉郎 編著『集まると使える-80年代 運動の中の演劇と演劇の中の運動』

 

「けのび」の代表を務める演出家、羽鳥嘉郎が、アマチュア演劇、身体障害、ジェンダー、第三世界、反差別などのキーワードから選択された8本の談話をまとめることで、1980年代の演劇論に新たな視座をもたらそうと試みた書籍『集まると使える-80年代 運動の中の演劇と演劇の中の運動』をころからより出版した。京都国際舞台芸術祭 KYOTO EXPERIMENTフリンジ企画「使えるプログラム」ディレクター、国際舞台芸術ミーティング in 横浜(TPAM)アシスタント・ディレクター、「アジアン・アーティスト・インタビュー」プロジェクトなどの経験を通じて、多種多様な演劇に触れてきた羽鳥が、80年代から90年代初頭にかけて発表された論考や座談会に、390を超える脚注を加え、演劇の可能性を問い直す。
2018年11月より、福岡、熊本、鹿児島で刊行記念トークツアーを開催(最下部に詳細記載)。今後、47都道府県を巡る予定。12月2日(日)には、東京・千代田の美学校にて、黒瀬陽平と岸井大輔をゲストにトークイベント「現実と劇とアートの試されるべき可能性」を開催、12月21日(金)には、金沢の芸宿にて星野太をゲストにトークイベント「政治と劇とアートの試されるべき可能性」を開催。

以下、同書収録の「はじめに」を羽鳥、ころからの協力の下で転載する。

 


 

はじめに

 

集まりのない演劇はない。
集められたのか、集まっていたのかはともかくとして、集まりのない演劇はない。
人間が集まりに呼び込まれることを「参加する」、集まりを企てることを「組織する」などという。つまり動員のことで、これは最近よく問題になる。例えばどんな出自や状況の人をどうやって集めるか、デモをはじめとして社会的なアクションで、または地域芸術祭や文化プログラムや参加型のアートで [1]
経験に重きを置いたり、搾取構造を見出したり、分析は同じように演劇に対しても行なわれる [2]。だがその知見で、集まりが変化しているようにあまり思われない。

ここに、1973年生まれで2000年代前半から活躍する岡田利規 [3] と、1955年生まれで1980年代前半から活躍する野田秀樹 [4] の、2013年の対談がある。少し長いが引用する。

 

岡田 僕が属しているのは、「運動」にはどうしてもなじめないっていうメンタリティがデフォルトな世代だと思います。でもその中の一部の人は、そういう状態にある自分を変化させないとまずいなって、割といい年してから--僕の場合だと30近くなってから--考え始めてもいると思います。どうしてそう思うようになったかというのには、まあいろんな理由があると思います。第一にはもちろん社会状況のせいですけれどもね。でも演劇をめぐる状況のことでいうと、これは本当にたまたまなんですけど、僕が出てきたあたりから助成制度が充実してきたわけで、僕なんか思いっきりその恩恵を被っているんですよね。で、そうなると世の中と自分のつくる演劇の関係のことに全然無頓着で演劇やってまーす、ってわけには当然いかなくなりますよね。

野田 金もらってるからなーっていうこと?

岡田 そうですそうです。だって結局そのお金って自分だって払うときはブーブー言いながら払ってる税金ですからね。そうやって社会のことを意識した作品をやる方向に振れていくのってまあ安直といえば安直かもしれないけど、ちっとも変わろうとしないよりそっちのほうがまだましだと思って僕は今やってます。「小劇場運動」の時代の「運動」というのとは全然別の形ですけど、そんな感じで社会とのかかわりを自分なりに意識して僕は今演劇やってます。でもこれ、たぶん僕の世代の演劇人の考えを代表するようなものじゃないと思いますよ。助成金もらうようになる以前の小劇場のメンタリティと変わらないメンタリティで変わらずやれてる、っていうのが小劇場の今の感じなんじゃないですかね。

野田 俺が始めたくらいのころは、むしろ「小劇場運動」から「運動」を取ろうというのが運動だったんだよね(笑)。
[野田・岡田2013]

 

見せ方・伝え方については影響を与えあう--少なくとも「ダサい」「ダサくない」--のと反比例するかのように、社会運動や参加型芸術の動員の、集まりの思考は演劇には反映されない。けっきょく誰が参加し誰を組織するのか? 取り去られ、なじめないと言われる、運動についてもう一度考えたい。動きを求めて [5]
「劇場」ではなく、「演劇」と「運動」とのむすびつきとして、アマチュア演劇運動は戦前からある。現在の高校演劇までつながっている。
アマチュア演劇を、小劇場やワークショップに流れ込むという仕方とは違った、運動としてのポテンシャルを再検討できるような並びで、見てみようと思う。そのために80年代前半~90年代前半に焦点をあてこの本を編んだ。担い手のプロアマの区別の消失を、小劇場の外から把握すること。
読みやすくするために論考ではなく主に談話をまとめ、総括されないよう新たなインタビューにもしなかった。ここに収録した談話は、それぞれの運動の一番盛り上がったとき、あるいはスタート時点というわけではない(語られている実践そのものは50年代だったりもする)。読みたいのは、こういう会話をしてこう読ませて成立していた言論空間があった、80年代に、ということだ。
どんな発言に価値がこのときあったのか、そして今あるのか。

 


 

[1] デモ、地域芸術祭、参加型アート:近年の話題書として、富永京子『社会運動のサブカルチャー化―G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房、2016)、同『社会運動と若者―日常と出来事を往還する政治』(ナカニシヤ出版、2017)、藤田直哉編『地域アート―美学/制度/日本』(堀之内出版、2016)などが挙げられる。

[2] 分析は同じように演劇に対しても行なわれる:田村公人『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって』(ハーベスト社、2015)、髙橋かおり「社会人演劇実践者のアイデンティティ―質の追求と仕事との両立をめぐって」(『ソシオロゴス』39号、2015)、佐藤郁哉『現代演劇のフィールドワーク―芸術生産の文化社会学』(東京大学出版会、1999)などを参照。

[3] 岡田利規:1973年神奈川生まれ。演劇作家、小説家。1997年に「チェルフィッチュ」を旗揚げ。2005年に『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。2012年より同賞の審査員を務める。2016年よりドイツの公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品を3シーズンにわたり演出。

[4] 野田秀樹:1955年長崎生まれ。劇作家、演出家、俳優。東京芸術劇場芸術監督、多摩美術大学教授。1976年、東京大学在学中に「劇団 夢の遊眠社」を結成。1983年、『野獣降臨(のけものきたりて)』で第27回岸田国士戯曲賞を受賞。1992年より同賞の審査員を務める。1992年に劇団解散後、ロンドンに留学。帰国後の1993年に演劇企画製作会社「NODA・MAP」を設立。2009年、名誉大英勲章OBE受勲。2011年、紫綬褒章受章。

[5] 動きを求めて:小さくても動こうということでは、個々のモビリティを高めていく路線もある。内野犠『「J演劇」の場所:トランスナショナルな移動性へ』(東京大学出版会、2016)などを参照。

 


 

羽鳥嘉郎|Yoshiro Hatori
演出家。1989年ブリュッセル生まれ。2009年より「けのび」代表。京都国際舞台芸術祭 KYOTO EXPERIMENT フリンジ企画「使えるプログラム」ディレクター(2013-2014年度)。TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 アシスタント・ディレクター(2014-2017年度)、「アジアン・アーティスト・インタビュー」プロジェクト・マネジメントなどに従事。立教大学現代心理学部映像身体学科兼任講師。上述の「使えるプログラム」の運営を担った89年生まれの人々を中心に「サハ」を結成。2018年度より「演劇エリートスクール」を企画・運営。チーム名はメンバーの頭文字に由来する。
けのび:http://kenobi.org/
サハ:http://saha.fun/

 

『集まると使える-80年代 運動の中の演劇と演劇の中の運動』
著者:羽鳥嘉郎
発行日:2018年10月10日
パブリッシャー:木瀬貴吉
編集協力:サハ
デザイン:小池俊起
定価:2300円+税
ISBN978-4-907239-37-4
発行:ころから
http://korocolor.com/
http://korocolor.com/book/atsumarutotsukaeru.html

 


 

『集まると使える』刊行記念トークツアー
羽鳥嘉郎 x 須川渡(福岡女学院大学講師)
2018年11月22日(木)19:00-
会場:いじかるstudio(福岡市南区井尻4-2)
入場無料・要事前予約(詳細はこちらを参照)

羽鳥嘉郎 x 亀井純太郎(劇団 第七インターチェンジ)
2018年11月25日(日)19:00-
会場:studio in.K.(熊本市中央区国府1-21-3-3F)
料金:1000円

羽鳥嘉郎 x どいの(劇団どくんご)
2018年11月28日(水)19:30-
会場:コーナーポケット(鹿児島市東千石町6-6)
料金:1000円+1drink

「現実と劇とアートの試されるべき可能性」
羽鳥嘉郎 x 黒瀬陽平(美術批評)x 岸井大輔(劇作家)
2018年12月2日(日)19:00-
会場:美学校 本校(千代田区神田神保町2-20 第2富士ビル3F)
料金:1000円 ※書籍とのセット購入の場合は3000円

「政治と劇とアートの試されるべき可能性」
羽鳥嘉郎 × 星野太(美学)
司会:岸井大輔(劇作家)
12/21[金] 18:30- @芸宿(金沢市小立野4-2-1)
料金:¥1000 ※書籍とのセット購入の場合は3000円

詳細及び刊行記念トークツアーのスケジュールは下記URLを参照。
http://saha.fun/

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