第30回高松宮殿下記念世界文化賞


中谷芙二子「霧の森」1992年、国営昭和記念公園こどもの森 東京・立川
Courtesy of Fujiko Nakaya, Photo: Shigeo Ogawa

 

2018年7月11日、公益財団法人日本美術協会は、国内外問わず世界の優れた芸術家を顕彰する高松宮殿下記念世界文化賞の第30回受賞者を東京、ロンドン、ニューヨーク、パリ、ローマ、ベルリンの各都市で発表した。絵画部門のピエール・アレシンスキー、彫刻部門の中谷芙二子をはじめ、各受賞者には10月23日に東京・元赤坂の明治記念館で開かれる授賞式典にて、顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈呈される。

絵画部門を受賞したピエール・アレシンスキー(1927年ブリュッセル生まれ)は、前衛美術集団「CoBrA」に参加して以来、絵画に対する情愛を一貫して持続している。パリ移住後の50年代に前衛書道家の森田子龍と出会い交流を深め、55年の来日時には「日本の書」と題した15分の短編映画を製作している。鮮やかな色彩と激しいブラッシュ・ストロークで独自のスタイルを確立したアレシンスキーは、60年と72年にベルギー代表としてヴェネツィア・ビエンナーレに参加したほか、アムステルダム市立美術館、ニューヨーク近代美術館、グッゲンハイム美術館、ジュ・ド・ポーム国立美術館、ポンピドゥー・センター、ベルギー王立美術館など、世界各地で多数の個展を開催。2016年から2017年にかけて、日本初の大規模回顧展が日本・ベルギー国交関係樹立150年を記念してBunkamura(東京)と国立国際美術館(大阪)で開かれた。

 


ピエール・アレシンスキー、フランス文化省「控えの間」の壁画、1985年

 

彫刻部門は「霧の彫刻」やビデオ・アートをいち早く取り入れた実践などで知られる中谷芙二子(1933年北海道生まれ)が受賞。中谷は1966年にニューヨークで結成された芸術と技術の協働を推進する実験グループ「E.A.T.」に参加、1970年には大阪万博ペプシ館で人工霧による「霧の彫刻」を初めて発表。以来、「霧の森」(国営昭和記念公園こどもの森、東京都立川市、1992)や「砂漠の目覚め」(オーストラリア国立美術館、キャンベラ、1983-)といった常設作品のほか、世界各地で80を超える霧の作品を発表している。また、中谷は1970年代に当時発売されたばかりの個人用小型ビデオを使った制作活動をはじめ、72年にはビデオひろばを結成、80年には原宿にビデオギャラリーSCANを設立、海外作家との交流や若手作家の発掘と支援に尽力した。昨年は世界で初めて雪の人工結晶をつくった実験物理学者の父、中谷宇吉郎との二人展『グリーンランド 中谷芙二子+宇吉郎展』を銀座のメゾンエルメスで開催、ロンドンのテート・モダンで新作「London Fog」を発表するなど、現在も精力的に活動しており、今秋には水戸芸術館で初めての大規模な個展が控えている。

 


中谷芙二子「氷河の滝-グリーンランド」2017-18年、銀座メゾンエルメスフォーラム Courtesy of Fujiko Nakaya, Video: Noriko Koshida

 

建築部門はミッテラン大統領政権下でコンサートホールや音楽博物館、居住区、スポーツ施設などを備えた「音楽都市」(1995)のプロジェクトを手がけ、50歳の若さでフランス人初のプリツカー賞を受賞するなど、フランスを代表する建築家・都市計画家のクリスチャン・ド・ポルザンパルク(1944年カサブランカ生まれ)が受賞。代表作には福岡市の「ネクサス集合住宅」(1991)やリオデジャネイロの複合文化施設「芸術都市」(2013)などがある。音楽部門は、ヴェルディ作品への歴史的価値ある貢献で知られ、現在はシカゴ交響楽団の音楽監督を務める指揮者のリッカルド・ムーティが受賞。来年春には、ムーティが若手音楽家の育成の一環として取り組む「イタリア・オペラ・アカデミー」の日本開催が予定されている。演劇・映像部門には、半世紀以上のキャリアにおいて100本以上の映画に出演しているフランスを代表する俳優、カトリーヌ・ドヌーヴ(1943年パリ生まれ)が受賞。『シェルブールの雨傘』(1964)、『昼顔』(1967)、『終電車』(1980)、『ヴァンドーム広場』などに出演、ヴェネツィア国際映画祭女優賞やヨーロッパ映画賞生涯功労賞などを受賞している。社会的な発言も積極的に行ない、1971年にはシモーヌ・ド・ボーヴォワールやマルグリット・デュラスと共に、人工妊娠中絶の容認を求める公開書簡を発表した。

 


クリスチャン・ド・ポルザンパルク「音楽都市」(1995)の回廊

 

なお、ロンドンで発表された次代を担う芸術家の活動を支援する「若手芸術家奨励制度対象」の対象団体には、7歳から18歳の子どもたちがシェイクスピア劇を上演する世界最大の若手演劇祭「シェイクスピア・スクールズ・フェスティヴァル」を主催するイギリスの文化教育団体シェイクスピア・スクールズ財団が選出された。シェイクスピア・スクールズ財団には、発表記者会見の席上で奨励金500万円が授与された。

 

絵画部門:ピエール・アレシンスキー
彫刻部門:中谷芙二子
建築部門:クリスチャン・ド・ポルザンパルク
音楽部門:リッカルド・ムーティ
演劇・映像部門:カトリーヌ・ドヌーヴ
若手芸術家奨励制度対象団体:シェイクスピア・スクールズ財団

 

高松宮殿下記念世界文化賞http://www.praemiumimperiale.org/

 

関連イベント
世界文化賞建築講演会2018
講師:クリスチャン・ド・ポルザンパルク
2018年10月24日(水)16:00-17:30
会場:鹿島KIビル 大会議室(東京港区赤坂6-5-30)
※詳細は後日、公式ウェブサイトに掲載

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