第34回写真の町東川賞


潮田登久子「金属活字活版印刷所の社長他3人の職工は活字や印刷機の部品のようによく働きます。」内外文字印刷株式会社(東京板橋)、2009年

 

2018年5月1日、30年以上にわたる写真文化に関する継続的な活動により「写真の町」として知られる北海道上川郡東川町が、第34回写真の町東川賞の受賞者を発表した。潮田登久子(国内作家賞)、マリアン・ペナー・バンクロフト(海外作家賞)、吉野英理香(新人作家賞)、大橋英児(特別作家賞)、富岡畦草(飛彈野数右衛門賞)が各賞に選ばれた。受賞作家作品展は、第34回東川町国際写真フェスティバルの一環として、東川町文化ギャラリーで8月4日から8月29日まで開催。授賞式は受賞作家作品展の会期初日に東川町農村環境改善センター・大ホールで実施し、翌5日には、各賞受賞者や審査委員、ゲストを交えた受賞作家フォーラムを開催する。

国内作家賞を受賞した潮田登久子(1940年東京都生まれ)は、さまざまな家庭で使用されている冷蔵庫をタイポロジカルに記録した「冷蔵庫/ICE BOX」や、夫の島尾伸三とともに中国の庶民の生活を20年近くにわたって取材した活動などで知られる。受賞対象となったのは、潮田が1995年から継続的に取り組んできた、本と本の置かれている環境を主題とする「本の景色・BIBLIOTHECAシリーズ」に関する一連の発表。潮田は、『みすず書房旧社屋』(2016、幻戯書房)、『先生のアトリエ』(2017、ウシマオダ)、『本の景色』(2017、ウシマオダ)の三部作にまとめられた同シリーズにより、2018年土門拳賞、日本写真協会賞作家賞を受賞している。

カナダが対象国となった海外作家賞は、バンクーバー在住のマリアン・ペナー・バンクロフト(1947年チリワック生まれ)が受賞。バンクロフトは1970年頃より撮影対象との関係性を重視したドキュメンタリースタイルの作品制作でキャリアをはじめ、白血病を患った義理の弟と、それを支える妹をとらえた写真作品で注目を浴びる。以来、家族史への関心からカナダにおける移民社会の歴史やカナダの原住民とヨーロッパからの入植者との複雑な関係に踏み込んだ作品を写真のみならず、言葉や音、ドローイング、彫刻、映像などを駆使して発表してきた。受賞対象は、身近に繁殖する帰化植物を通して、人間の媒介によって地球規模で引き起こされる移住に焦点を当てた「radical systems」シリーズ。

 


マリアン・ペナー・バンクロフト「パイン・ビートル(松食い虫)によって枯れたポンデローサ松」タンクワ湖近くの牛の放牧地、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア、シリーズ〈水文学(雲を汲み上げる)〉2014より


吉野英理香「Untitled, 2016」〈MARBLE〉より Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

 

新人作家賞は、写真集『NEROLI』(2016、赤々舎)によって昨年も最終段階まで残った吉野英理香(1970年埼玉県生まれ)が、同写真集に加え、新作「MARBLE」を出品した『無垢と経験の写真 日本の新進作家vol.14』(2017-18、東京都写真美術館)での展示、2018年のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムでの個展と写真集『MARBLE』の出版といった一連の活動により受賞。吉野は1990年代半ばからオーソドックスなスナップショットの技法で撮影した写真を発表し、近年は日々のなかにあるかけがえのない光や時間をとらえたカラー写真で高い評価を受けている。なお、同賞の審査の最終段階には、吉野のほか、石川竜一、片山真理、金川晋吾、細倉真弓が残った。

特別作家賞には、日本を象徴する最もありふれた風景のひとつとして「自販機のある風景」シリーズを10年間撮り続けている大橋英児(1955年北海道生まれ)が受賞。1984年から2006年まで、ネパール、パキスタン、チベット、中国西域の広大な自然と、そこに暮らす少数民族をとらえたドキュメンタリー作品を制作してきた大橋は、2010年よりフリーランスとなり、商業写真のかたわらで、受賞対象となった「自販機のある風景」シリーズの撮影を続けている。同シリーズは、『MERCI メルシー』(2015、窓社)、『Being There』(2017、Case Publishing)、『Roadside Lights』(2017、禅フォトギャラリー)として刊行されている。

 


大橋英児「北海道札幌豊平区」2016年12月〈Roadside Lights〉シリーズより


富岡畦草〈銀座四丁目 家族定点撮影〉左から「銀座四丁目中央通りを走る都電と柳を背に歩く妻と子どもたち」1961年、「円筒形ガラス張りの三菱ビルを背景に華やかになった銀座中央通り」1975年、「銀座四丁目を背に歩く娘夫婦と孫」1993年

 

長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者を対象とした飛彈野数右衛門賞は、富岡畦草(1926年三重県生まれ)が受賞。現在、雑誌『日本カメラ』に連載を持つ富岡は、戦後の焼け跡時代から首都圏の主要な駅前、交差点、広場、車道などを定点観測式に記録し続けてきた。その長きに渡る試みは、娘の富岡三智子、孫の鵜澤碧美がそれぞれ二代目、三代目富岡畦草を引き継ぎ、定点撮影を継続し、40万枚にも達する膨大な写真を保存管理している。

北海道・東川町は、1985年6月1日の「写真の町宣言」以来、毎夏開催の東川町国際写真フェスティバル(愛称:東川町フォトフェスタ)をはじめ、多種多様なプログラムを通じて、写真文化を発信、体験する場を形成してきた。その中心的な活動のひとつとして、写真の町東川賞は、写真文化への貢献と育成、東川町民の文化意識の醸成と高揚を目的とし、これからの時代をつくる優れた写真作品(作家)を表彰している。2010年に新設された飛彈野数右衛門賞は、その選考基準により、写真の持つ多様な可能性を見つめ直す機会をもたらすもので、東川町の長きにわたる写真文化の積み重ねを象徴する国際的にも珍しい試みのひとつと言えるだろう。近年はより多くの識者の推薦を目的に推薦者リストの拡充を進めており、今年は国内作家賞50名、海外作家賞20名、新人作家賞59名、特別作家賞24名、飛彈野数右衛門賞34名の計187名がノミネートされ、上野修(写真評論家)、北野謙(写真家)、楠本亜紀(写真評論家、キュレーター)、柴崎友香(小説家)、中村征夫(写真家)、丹羽晴美(学芸員、写真論)、原耕一(デザイナー)、光田由里(美術評論家)の8名が審査委員を務めた。

 

第34回東川町国際写真フェスティバル
受賞作家作品展

2018年8月4日(土)-8月29日(水)
http://photo-town.jp/
会場:東川町文化ギャラリー
開場時間:10:00-17:00
(8/4は15:00-21:00、8/5は10:00-17:30、8/29は15:00まで)
会期中無休

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