「秋の隕石2026東京」記者懇談会 「秋の隕石2026東京」記者懇談会より。後列左から:捩子ぴじん、ジョン・オグルビー、リチャード・エマート(ともにシアター能楽)、大谷聡、藤下征(ともに虹組ファイツ)、岡田利規。前列左から:江本純子、大石恵美、山城知佳子、花形槙2026年7月22日、東京舞台芸術祭実行委員会は、10月9日から11月3日まで東京・池袋の東京芸術劇場を中心に開催される舞台芸術祭「秋の隕石2026東京」の全プログラムを発表した。昨年度に引き続き、演劇作家・小説家で、2026年度より東京芸術劇場 舞台芸術部門芸術監督に就任した岡田利規がアーティスティック・ディレクターを務める。同日には東京芸術劇場で記者懇談会が行なわれ、岡田と参加アーティストが登壇した。
フェスティバル名の「隕石」は、自らが属する地域・文化・価値観の文脈の外から飛来し、遭遇した者に変容をもたらす存在として位置づけられている。岡田は懇談会の冒頭で「私たちが出会っていないもの、出会えていないもの、考えたり思いを馳せたりすることがないものというのがたくさんあって、そういうもの——つまり自分たちの内部に存在しているものじゃないものがやってくる。そして、それと出会う。そのような機会を、何よりも私自身が欲していて」とタイトルに込めた思いを語った。フェスティバルは、国内外の舞台芸術作品13演目による「上演プログラム」、レクチャーやワークショップなどの「上演じゃないプログラム」4事業、来場者を支える「ウェルカム体制(=来場サポート)」2事業の3カテゴリーで構成される。
捩子ぴじん+山口情報芸術センター[YCAM]『せいせいのせんせい』 撮影:守屋友樹/写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
山城知佳子『リコーリング(ス) ― シアトリカル・バージョン』 Photo by Hideaki Higa ©Chikako Yamashiro 那覇文化芸術劇場なはーと公演記録
花形槙『エルゴノミクス胚』 Photo by Keita Otsuka
フェスティバルの幕を開けるのは、捩子ぴじん+山口情報芸術センター[YCAM]『せいせいのせんせい』(10月9日〜12日)。小学校の教室と同じサイズの空間を劇場の舞台上に再現し、そこに35セットの机と椅子が並ぶ。観客は児童のように机に着き、机上の35台の小型ロボットとともに、教壇に立つ銀のシリンダー型のロボット「せんせい」の授業を受ける。そこで交わされた言葉はAIに取り込まれ、後半ではAIを搭載したロボットたちがその授業を再現し、人間はそれを外から見ることになる。捩子はChatGPTの発表から間もない時期に制作依頼を受け、AIが確実に生活の中へ入り込んでくることを直感したと当時を振り返る。「子どもはおそらく僕らとは全然違う世界を生きることになるだろう」との思いから子ども向けの作品として構想された。
映像作家・山城知佳子『リコーリング(ス) ― シアトリカル・バージョン』(10月30日〜11月3日)は、アーティゾン美術館(東京)で発表された作品を劇場空間に立ち上げ直す試み。空間に散りばめられたスクリーンから、沖縄・東京・パラオという3つの土地に刻まれた戦争の記憶と風景が重なり合う。約30年映像を手がけてきた山城は、完成した途端に自分が疎外されるような「映像の寂しさ」を明かし、上演のたびに観客の前で立ち上がる舞台への羨望が劇場版に向かう素地にあったと話した。また、幼い頃から沖縄で平和教育を受けてきたにもかかわらず、新たな基地建設が進む現実を前に体が動かなかった経験に触れ、その背景に、撮った瞬間に対象を過去のものとして保存してしまう映像制作の態度が自身に染みついていたことがあるのではないかと振り返り、「過去を学んでるだけじゃ、体って動かないんだな、と思って」と語った。この気づきが、観客が介入しながら映像と出会うインスタレーションの形式へ向かう動機になったという。さらに、長年暮らしていた沖縄を離れ、現在は関東圏を拠点とする山城は、自衛隊基地と共用の茨城空港を訪れた際、基地とともにある風景に自分の体がなじんでいることに気づいたという経験に触れ、「だんだん日本全体が沖縄に見えてきた」と語った。そのうえで、沖縄という地域ではなく芸術そのものを自らのアイデンティティと捉え、ジャンルを分けずに領域を広げていきたいという現在の制作姿勢を示した。
花形槙『エルゴノミクス胚』(10月29日〜11月1日)は、昨年度の公開実験を経て初演されるフル・スケール公演。パフォーマーが椅子へと変態(メタモルフォーシス)しようとする様に、AIやモーションキャプチャといった技術の助けを借りて観客が立ち会う。花形は自身のテーマを「技術と人間の関係」としたうえで、「あらゆる社会的な振る舞いの外側にどう行けるかをずっと考えてきた。その中で、椅子に座るというのは、この社会とか、このシステムに接続する、すごい滑らかなインターフェースだなと思っていて。例えば学校だったら生徒になるし、今だったら登壇者になるわけで」と語る。これを受けて岡田は、観客がスタンディングで身体を揺らすライブハウスでは観客の身体が肯定されていると感じた自身の経験を引きながら、「椅子って身体を否定する装置なんですよね」と応じ、身体表現を提示するはずの舞台芸術が椅子によって観客の身体を否定していることを、あらためて思い返すように語った。懇談会では、ALSの診断を受け車椅子で生活するダンスアーティスト・新井英夫が花形に「ぜひ車椅子に乗って作品を作ってもらいたい」と呼びかけ、その場でコラボレーションの約束が交わされる一幕もあった。
あぃたら えィ(新井英夫×板坂記代子×山田衛子)『さん まるだが だんころ 3 〜音と動きのパフォーマンス〜』©︎aitara-ei
シアター能楽 英語能『青い月のメンフィス』
ジュンコエモト『真夜中に寂しくなったときに観たい演劇』via Tokyo Metropolitan Theatre 撮影:曳野若菜
前述の新井と、身体・造形の表現家の板坂記代子、即興演奏家の山田衛子によるコレクティヴ・あぃたら えィ『さん まるだが だんころ 3 〜音と動きのパフォーマンス〜』(10月9日・12日)は、「秋の隕石」が委嘱した、この世界の「かすかさ」を分かちあうパフォーマンス作品。3人が「小さく弱くゆっくり」とした呼吸・動き・音で交感するとき、観客は空間に生じる微細な揺らぎや響き、気配へと感覚を研ぎ澄ませていく。懇談会で新井は、人工呼吸器の装着にともない声帯を摘出しており、かすかな声しか出せないなかで「伝えたいことが、たくさん体の中にあります」と語った。シアター能楽の英語能『青い月のメンフィス』(10月10日〜11日)は、エルヴィス・プレスリーの亡霊がシテを務める夢幻能。熱狂的なファンである女性ジュディ(ワキ)が命日に墓を訪れ、青い月の光に導かれてその亡霊と出会う。2000年に能を学ぶ英語話者によって設立されたシアター能楽は、囃子や地謡、舞といった能の様式に忠実に則りながら、ブルースやエルヴィスのヒットナンバー、デニム素材の装束などアメリカ文化の要素を織り込んでいく。懇談会では実物の能面も披露され、さまざまな年代のエルヴィスの顔がひとつの面のなかにコラージュされていることが明かされた。ジュンコエモト『真夜中に寂しくなったときに観たい演劇』via Tokyo Metropolitan Theatre(10月16日〜18日)は、レズビアンであることを当然の前提として、その恋愛や生存をキャンプな美学で舞台化するソロパフォーマンス。ダムタイプの活動で知られる山中透の音楽と、南志保の美術が作品のつらぬく虚構を拡張し、2025年に20席限定の超小劇場空間で初演された本作が、大都市の公共劇場を経由して観客のもとへ届けられる。懇談会で江本は、マーケットの論理の外にある公共劇場での上演自体が、周縁に置かれてきた存在への「その存在を忘れてないよ」というメッセージになり得ると語った。
2009年に「アイドルごっこ」をコンセプトに結成され17年にわたり活動を続けるゲイアイドルサークル・虹組ファイツは『第11回 虹組学園 秋の大文化祭』(10月25日)を上演する。「ごっこ」の名には、ギャラを発生させず、商業的にではなくあくまでサークルとして活動するというポリシーが込められている。懇談会でメンバーは、フェスティバルへの参加が決まって自分たちの活動を見つめ直すなかで、通算140名がバトンをつなぎ、メンバーそれぞれが生活を送りながら毎週集まって練習を重ねてきたその歩みこそ「唯一無二の隕石」だと捉えるようになったと語った。ダダルズ『よだれ観覧車』(10月17日〜18日)は、大石恵美が作・演出・出演を兼ねる第70回岸田國士戯曲賞受賞作を、劇場前のGLOBAL RING THEATRE〈池袋西口公園野外劇場〉で野外上演するもの。同賞の選考委員を務めた岡田は選評で「『よだれ観覧車』は観客との文脈の共有を求めていない」「わたしは『よだれ観覧車』に笑い、震撼した」と評している。懇談会では、受賞作という肩書きを知らない観客の前にこそこの作品を置きたいと考え、野外での上演を大石に提案した経緯を明かした。岡田と山田和樹(東京芸術劇場 音楽部門芸術監督)の初コラボレーション『静寂のガツンとした一撃』(10月25日)は、劇場アトリウムの吹き抜け全体を会場に、山田の指揮による音楽の演奏と岡田の書き下ろしテキストの朗読からなる、小さな音・沈黙をコンセプトとする一日限りの無料パフォーマンスとなる。
虹組ファイツ『第11回 虹組学園 秋の大文化祭』
ダダルズ『よだれ観覧車』
岡田利規&山田和樹『静寂のガツンとした一撃』
このほか、海外を拠点とする作家はビデオコメントで懇談会に参加した。クリストファー・リューピング演出『渇望』(10月17日〜18日)は、28歳で世を去った劇作家サラ・ケインの、ストーリーを持たない断片的なテキストによる作品。ベルリン・ドイツ座のレパートリーの招聘により、リューピング作品が日本で初めて上演される。アナカルシス・ラモス/ポルノトラフィコ『オカンとカネ』(10月16日〜18日)は、アナカルシスの実母ホセフィナが60年にわたり就いてきた数々の職を舞台上で語り、再現するドキュメンタリー演劇で、メキシコにおける経済危機の常態化の歴史を映し出す。ナディア・ブグレ『バーニング・ガールズ』(10月23日〜25日)は、コートジボワールの都市を生きるふたりのガールズが、男性の肉体の誇示のために踊られてきたダンスを奪い取って踊る作品。1989年にサンクトペテルブルクで設立され、現在もヨーロッパを拠点に活動するオブジェクトシアターの重鎮、アヒェ・エンジニアリング・シアターは、30年以上前に創作された代表作『白い部屋』(10月31日〜11月2日)を上演する。
クリストファー・リューピング『渇望』 ©Thomas Aurin
アナカルシス・ラモス/ポルノトラフィコ『オカンとカネ』 © INBAL CITRU Gabriel Morales
「上演じゃないプログラム」としては4事業を実施する。シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]との共催による短期集中型ワークショップ『Future Ideations Camp Vol.9:フィクション←テクノロジー→想像力』(キャンプ10月10日〜13日、成果展示10月15日〜18日)では、岡田がプログラムディレクター、筧康明が講師を務める。公募で選ばれた約20名の参加者が、観客の想像力によってフィクションを成立させるという演劇の特性をテクノロジーで増幅する可能性を探り、その成果を展示形式で発表する。アヒェ・エンジニアリング・シアターによるワークショップ「よく調律された間違いのためのインストラクション」(10月21日〜25日)も行なわれる。海外との連携では、アジアを中心に舞台芸術の創作に携わる若手を招き、作品の鑑賞と対話を通して相互理解を深める滞在型プログラム「次はどこ?みて、はなすレジデンシー」(10月22日〜11月2日、メンター:ネス・ロケ)と、世界の劇場やフェスティバルとの関係を更新するべくドラマトゥルグやプレゼンター、キュレーターらを招く「海外プレゼンター招聘」(10月24日〜11月2日)を実施し、国境を越えたネットワーク形成に取り組む。「ウェルカム体制」では、音声ガイドやバリアフリー字幕などのアクセシビリティに加え、誰もが気ままに過ごせる交流スペース『ウェルカムぎんが』、託児サービスや『こどもあそびシアター』を会期を通じて展開する。
舞台芸術祭「秋の隕石2026東京」
2026年10月9日(金)–11月3日(火・祝)
https://autumnmeteorite.jp
会場:東京芸術劇場、GLOBAL RING THEATRE〈池袋西口公園野外劇場〉
アーティスティック・ディレクター:岡田利規
チケットは8月8日(土)10:00より一般発売(芸劇メンバーズWEB先着先行は8月1日〜7日)※一部演目を除く
ナディア・ブグレ『バーニング・ガールズ』 ©Noorullah Azizi
アヒェ・エンジニアリング・シアター 『白い部屋』 ©internationales figuren.theater.festival Photo: Erich Malter