2015年3月12日、文化庁は芸術各分野における優れた業績、またはその業績により各部門に新生面を開いた芸術家に贈られる芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞の今年度の受賞者を発表した。美術部門の大臣賞には佐藤時啓と中村一美が選出された。贈呈式は、3月18日(水)に東京都内の都市センターホテルにて行なわれる。
美術部門大臣賞の佐藤時啓は、ピンホール・カメラやカメラ・オブスクラ、長時間露光などを駆使した代表作や最新作を発表した『佐藤時啓 光―呼吸 そこにいる、そこにいない』(東京都写真美術館)がこれまでの活動の集大成として高く評価された。同じく、美術部門大臣賞の中村一美は、初期作品から近作を含めた回顧展『中村一美展』(国立新美術館)により、「個々の作品の差異を通じて一個の意味の場を開示する」という自身の絵画思想の成果を示したことが評価された。
そのほか、美術部門の新人賞には「HANCHIKU HOUSE」が評価された建築家の齊藤正、メディア芸術部門の大臣賞には『明るい部屋』(東京都写真美術館)などが評価された高谷史郎、評論等の部門の新人賞には、『絵のように 明治文学と美術』(白水社)が評価された読売新聞文化部次長の前田恭二が、それぞれ選出された。また、芸術振興部門大臣賞は、黄金町バザールのディレクターとして同地での活動を展開している山野真悟がヨコハマトリエンナーレおよび「東アジア文化都市」の一環として企画した「黄金町バザール2014 仮想のコミュニティ・アジア」を含むこれまでの活動、同部門新人賞は、NPO法人「こえとことばとこころの部屋」を立ち上げ、釜ヶ崎のカフェ・ココルームを拠点に表現行為を通じた居場所づくりや生き甲斐づくりに取り組む詩人の上田假奈代がヨコハマトリエンナーレに参加した「釜ヶ崎芸術大学2014」を含むこれまでの活動が評価され、それぞれ受賞に至った。
ART iTの取材に対し、芸術振興部門新人賞を受賞した上田假奈代は以下のコメントを寄せた。
ありがとうございます。いっしょに働いてきたスタッフたち、生きづらさを抱えながら懸命に生きてくれた友達、わけがわからんと思ったかもしれないのに、表現することををあきらめなかった釜ヶ崎のおじさんたちへの賞だと思っています。社会包摂という言葉に簡単に回収されないよう、ひとりひとりの声にならない声に耳を澄まし、じぶんの言葉をもち、生きることを深くしていきたいと思います。