鴻池朋子:インタートラベラー

神話と遊ぶ人
2009年7月18日(土)〜 9月27日(日)
東京オペラシティアートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/exh108/index.html

文:原久子


『鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人』2009年 撮影:永禮賢 
提供:東京オペラシティアートギャラリー © KONOIKE Tomoko

本展は、鴻池のこれまでの約10年の集大成とも言うべき内容だ。

入口に立ったとたんに、物語のなかに誘い込まれる予兆を感じる。襖に描かれた山にはしっかりと前を見据える大きな両眼が、これから体験する地中の奥底での出来事を見逃すなと忠告しているかのようだ。異界への扉とも言うべき開かれた襖の間を歩み入ると、白くて薄い布に囲まれた空間に鴻池の絵本『みみお』(2001)の原画が、螺旋状に並んでいる。標本箱を覗き込むかのように開かれたページに見入っている私たちを、4枚の白い羽とたくさんの角が生えた、バギナのような裂け目から、か弱い足だけをのぞかせている「バージニア―束縛と解放の飛行」(07)が見下ろしている。

4章からなる絵画群『物語シリーズ』が、真っ赤な壁、床に囲まれた部屋の四方に目線よりやや上方に掛けられ、前の部屋の立体作品のバージニアを思わせる生きものが森の中や水の上に登場し物語を進めていく。中央に大輪の花を咲かせたカサブランカが香しいこの部屋を抜けると、黄金の吐息を噴く髑髏を中心に、左には蝶の羽を持つ人々、右手には狼とも人ともつかない肢体をもつ動物の描かれた襖が12枚並ぶ。鮮やかな色彩の絵画とは両極にあるような墨、胡粉、金箔を用いた神秘的な世界に息を飲むことになる。大学で日本画を専攻した鴻池の描写力や筆づかいといった絵画的な魅力、そして二次元から立体に仕上げる造形力が、出品作品には存分にいかされている。

シーンが変わる手前には標がある。地殻からどの位置にいるのか、深度を知らせるサインだ。胎内のような闇のなかで、鏡の破片を表面に張った巨大な赤ん坊の頭が回転する「赤ん坊」(09)。鏡が光を反射し、ミラーボールのように部屋を幻想的に輝かせる。見開いた目、叫びを上げる口が印象的な赤ん坊は、無垢な生きものでもあり、その反面、何をするか予測のつかない暴力的な面をもつ。考えてみれば、いわゆる人間は終始存在しない。鴻池の物語のなかに登場するのは、何を考え何をするのかわからない獣たちだ。

自身をいつしか登場人物に仕立て、大きな物語の世界に深く入り込まされた。香りやサウンド、照明も効果的に生かされ、全身で体感したせいか、見終えた後も記憶のなかから消すことが出来なくなっていることに気づく。繊細な女性性を感じさせる一方で、とてつもない恐怖を感じさせる大きなパワーを備え持つ空間が出来上がっていた。展覧会タイトルが全体をよく言い表しているが、地球の内と外、生と死との狭間をつなぐ時空の裂け目を観客は旅するだろう。


「赤ん坊」(2009) 『鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人』2009年 撮影:永禮賢 
提供:東京オペラシティアートギャラリー © KONOIKE Tomoko

巡回展
『鴻池朋子展 インタートラベラー 12匹の詩人』
会期:2009年10月9日(金)〜12月6日(日)
会場:霧島アートの森(鹿児島)
http://open-air-museum.org/ja/art/exhibition/konoiketomoko/

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