アートの支援者たち:Cartier

創造的空間への招待状

1847年の創業以来、時代に先駆けたモダンなジュエリーを生み出してきたフランスのジュエラー、カルティエ。企業メセナの一環として設立されたカルティエ現代美術財団も、その革新的な芸術支援活動が国際的な評価を得ている。

取材・文:編集部

カルティエインターナショナル社のアラン・ドミニク・ペラン社長(当時)が、カルティエ現代美術財団(以下「財団」)を創設したのは1984年。彫刻家セザール氏の提案がきっかけだった。86年にはフランスの文化大臣にメセナに関する報告書を提出、その後も文化領域における企業の役割を積極的に示してきた。財団は94年、パリ郊外から市内中心部へと拠点を移し、ジャン・ヌーヴェル設計によるガラス張りの展示施設で数々の重要な展覧会を開いている。

記念碑的なコミッションワーク

活動の特徴となるのがコミッションワーク(委嘱制作)によるコレクションだ。現在、委嘱制作以外も含め約300名の作家の1000点を越える作品が所蔵され、毎年、アート界の専門家からなる国際的な委員会によって選ばれた作品が、平均すると15作ほど加えられる。昨年、東京都現代美術館で開かれた『カルティエ現代美術財団コレクション展』では、世界初の規模で所蔵品を公開。ロン・ミュエクの巨大なインスタレーションなど存在感の強い作品群が、独自の切り口で展示され、単なる収集活動にとどまらない支援の成果を印象づけた。作家に対して「carte blanche(白紙委任状)」を託すその方法は、例えばマーク・ニューソンがジェット機をつくり出すといったような自由な創造活動を触発している。財団ディレクター、エルヴェ・シャンデス氏のもと、94年以降キュレーターを務めるエレーヌ・ケルマシュテル氏は以下のように語る。

「委嘱制作は財団のアイデンティティの重要な部分です。ほとんどの展覧会において、アーティストへ新作を依頼しています。このことで、我々は創造的な場にいられ、作家と実のある対話をする機会が得られるのです。作家にとっては、マーク・ニューソンのケースのように、彼らが夢見てきた作品を実現させる機会となっています。作品を依頼すること、それはつまり、透過性を持つ巨大な展示空間でプレイできる招待状を渡しているようなもの。したがって多くの場合、作家は記念碑的な作品をつくりたいと考えるようです」

多地域・多分野へ開かれた支援

一方、日本人アーティストの紹介にも積極的だ。2002年に村上隆がプロデュースした欧州で初めての大規模な展覧会など、その後の活躍の足がかりとなる場合も多い。

「さまざまな分野・年代の日本人作家の展示をしてきました。どの作家もオリジナリティが強く、独自の世界観を持っています。伝統と関連させながら現代アートシーンを創造する彼らに、私はとても関心があります。また、特筆すべきは非常に若く有能な女性アーティストの存在です」

05年夏に開かれた『J’en reve(夢見る)』では、23ヶ国から20代のアーティスト58名を集め、松井えり菜、國方真秀未、児嶋サコらが参加した。そして今年、本社と財団の協力で行うキャンペーンにも、同展出品者の一部が登場する予定だ。 」

「カルティエは6月8日を『LOVE DAY』と定め、特別なウェブサイトを立ち上げます。本社が現代アーティストの起用を希望したので、我々は若い作家たちを推薦しました。『あなたは愛のためにどこまでいけますか?』をテーマに、フラビア・ダリン、武山友子、青島千穂、タカノ綾、ツァイ・チャーウェイら9名の新作をそのウェブサイト上のギャラリーで発表します」  

昨年、NYでのチャリティイベントから始まった『LOVE DAY』は、カルティエの「LOVE」ブレスレットをシンボルに、今年はさらに規模を拡大して開催される予定だ。財団は100パーセント本社からの出資により運営されているが、それに加えてさらなる文化的社会貢献を行うことになる。

財団では今年5月までデヴィッド・リンチ展を開催、その後は、韓国人アーティスト、イ・ブルの展覧会や、東京で行ったコレクション展の世界巡回を計画中だ。09年には、財団25周年記念のイベントも予定している。その他、毎週開かれるパフォーミングアーツのイベント『ソワレ・ノマド』も好評だ。 「すべての分野に対してオープンに、好奇心を持ち続けることは、私たちのアイデンティティの一部です」とケルマシュテル氏は語る。今後も多岐に渡る支援に期待できそうだ。


(左)東京都現代美術館『コレクション展』でのライザ・ルーの作品
Left: Liza Lou, Back Yard, 1995-99
Photo Kioku Keizo, courtesy Fondation Cartier
(右)同展、森山大道の作品
Right: Moriyama Daido, Polaroid Polaroid, 1997
Photo Kioku Keizo, courtesy Fondation Cartier


How far would you go for LOVE? www.love.cartier.com
Left: Photo Akashi Shu 2007, courtesy Cartier
(右)同サイト上のフラビア・ダリンの作品
Right: Flavia Da Rin 2007, courtesy Cartier

Cartier
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Fondation Cartier pour l’art contemporain
261, Boulevard Raspail
75014 Paris
+33(0)1-42-18-56-50
http://fondation.cartier.com

初出:『ART iT』 No. 15(Spring/Summer 2007)

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