◎佐藤雅晴メールインタビュー2 「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴―東京尾行」[原美術館]

(佐藤雅晴氏と本展担当学芸員・坪内雅美との間で行われたメールインタビューを3回に分けてお届けします。メールインタビュー1はこちらへ)

世界をトレースにより理解する
T:「なぞる」という行為で作られたもの、極端に言えば事物・事象の“再現”であるものが“作品”として成立することが面白いですね。私にとっては何となく、佐藤さんのトレースが模写に似ているように思えました。画家が名画を模写することでその作品や作家を理解するように、佐藤さんは世界をトレースによって理解しようとしていると。また、知人はトレースという行為を写経のようだと言っていて、それも確かに、という気がしました。佐藤さん自身はトレースについて、「対象を自分の中に取り込む行為である」という実感の下に何年も続けてこられたわけですが、そうしたトレースから最新作のアイデア、「尾行」にはどうやって辿り着いたのですか?

モチーフの後をつける尾行のような、あるいは日常的な「行為」としてのトレース
S:撮影した対象をトレースして映像にするという手法自体は、現在の商業アニメーション界ではあまり見られなくなった手法ですが、ディズニーアニメ以前に考案されたとても古典的なロトスコープと呼ばれる表現です。ディズニー映画の初期作品「白雪姫」では、登場するキャラクター達にリアリティーをもたせるために実際に役者に演技をさせ、その映像をもとに動きをトレースしてキャラクターを重ねて描いています。(この手法は、現代のCG映画で活用されているモーションキャプチャの初期バージョンのようなものですね)
ロトスコープはぎこちなく動くキャラクターを自然にあたかも生きているかのように描くために開発されましたが、滑らかに動くキャラクターのどこか奇妙な動きに制作者側の思惑とはちがった観客の反響が当時からあったそうです。
ロトスコープという手法が昔からあった事は数年前に知りましたが、実写をトレースして再び映像にするという作品をつくっていくなかでなぜか飽きずに魅力を感じてこられたのは、この「奇妙な動き」のせいなのかもしれません。

以前、「佐藤さんの制作方法は、モチーフの後をぴったりとつける尾行のよう。」と2013年に制作した映像作品を見た杉原くんが自身のブログに感想を書いてくれました。
それまで、作業的にしか意識していなかったトレースを、「尾行」という言葉の変換によって、ご飯を食べたり、自転車に乗ったり、ニュースを見たり、笑ったり怒ったり、シャワーを浴びたり、会話したり、おならをしたり、お酒を飲みながらカラオケで歌ったり、疲れて眠ったりなど生きていればごくごく日常的なおこないと同様にトレースもまた《行為》として意識できるようになりました。

そうこうする内に、坪内さんから原美術館での個展開催の話をいただいて、最初は『東京尾行』とはぜんぜん違ったものを出展しようと考えていたのですが、グループ展とはちがって展覧会のテーマも自分で決定できるという事もあり、いままでおこなってきたトレースという行為に焦点をあてて作品をつくってみようと思いました。

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新たな魂を宿すアニメーション
T:私もトレースという行為自体に関心があったので、そこに焦点を当ててくださったのはとても嬉しかったです。
「東京尾行」では、具体的には、これまでと違って実写映像の一部分のみをトレースしたのですよね。ギャラリーIに展示している2つの『Calling』は、アニメーションでありながら絵画のような唯一無二性を感じさせる点に面白みがありましたし、限りなく実写映像のようでありながらトレースによってほんのわずかに生じる違和感に特異なものがありました。
一方、『東京尾行』のユニークさは、トレースという技法・行為の可能性、アニメーションの可能性を強く感じられる点にあると思います。私にとっては、一部分がトレースされたことにより、その部分が実写よりもリアルに見え、まるで魂が宿っているかのように感じられたことが驚きでした。『Calling』で見た虚実の曖昧さとは別の次元で虚実が曖昧になっているのです。
この曖昧さは、現実の風景を見る私の視覚に大きな影響を与えていて、なんと現実の風景の中にトレースされた部分を見つけてしまうようになってしまったのです。最近は、夕空にふわふわと浮かぶ飛行船、凍てついた空気に耐えている木々など、そこここにアニメーションが出現しています(笑)。

ハッ、スミマセン!長々と私の勝手な感想を書いてしまいました。感動するとつい言葉が多くなってしまいます。でも、もうひとつだけ・・・。
今回は「東京を尾行する」ということで、90にもおよぶ東京のシーンが映し出されていますが、佐藤さんの「尾行」を通して、日常の風景・光景の中にそこはかとなく人生の悲喜こもごもが浮かび上がり、日常そのもののもつ複雑さを感じずにはいられませんでした。優しく切ないドビュッシーの『月の光』が自動演奏ピアノで演奏(正確には音のトレースですね)されていることとも相まって、少し感傷的になったのか、自分の人生の様々な場面が蘇り、また、これから出会うであろう様々な感情に思いを馳せました。

最後に、トレースという行為に焦点をあてた今回の『東京尾行』について、佐藤さんご自身の感想をお聞かせいただけますか。

メールインタビュー3へつづく)

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《お知らせ》 「Meet the Artist:佐藤雅晴」
佐藤雅晴が自らの制作について語ります。当日は参加者の中からお一人を選び、トレースの実演も行います。

日時:2016年3月26日[土]2:00 pm – 3:30 pm
場所:原美術館 ザ・ホール
参加費:無料(要入館料)
定員:80人
募集開始日時:2月26日[金]11:00より
申込方法:お電話(03-3445-0651、開館時間中のみ)またはEメールにてお申し込みください。Eメールの場合、件名に「イベント申込み:Meet the Artist」、本文に氏名、連絡先電話番号、同伴者数をお書き添えの上、event@haramuseum.or.jpまでお送りください。

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「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴―東京尾行」
併催「原美術館コレクション展:トレース」 [出品作家:ソフィ カル、ベルント&ヒラ ベッヒャー、森村泰昌、シンディ シャーマン、米田知子、ジェイソン テラオカ(順不同]
2016年1月23日[土]-5月8日[日]

みんな、うちのコレクションです
2016年5月28日[土]-8月21日[日]

篠山紀信展 「快楽の館」
2016年9月3日[土]-2017年1月9日[月・祝]

「エリザベス ペイトン」展(仮題)
2017年1月21日[土]-6月4日[日]

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