艾未未(アイ・ウェイウェイ):紐約(ニューヨーク)1983-1993

2009.1.2-4.18
三影堂撮影芸術中心(北京)
http://www.threeshadows.cn/

文:マヤ・コヴスカヤ 


I’m not going, 1990
Photos courtesy the artist and Three Shadows Photography Art Centre

ポニーテールの男の顔面を流れ落ちる幾筋もの血河がTシャツを黒く染め広げる。白黒写真、「Bleeding Protestor. Tompkins Square Park Riots」が捉えたその様は、警察による暴行よりも実験的な水墨画を思わせる。怒りに満ちたまなざし、上向き加減で抗議する口、激昂、仲間の抗議者たちの無言の憎悪は、作り事などではなく現実の光景だ。1988年、ニューヨーク市では、都市部の貧困層の住まう権利をめぐる数ヶ月にも及ぶ緊張が最高潮に達し、暴動が起きた。路上生活者はトンプキンズ・スクエア公園に吸い寄せられ、警察の手入れのたびに、空腹で疲れ果てた貧しい野営者の数が増す。浮かれた80年代の浅ましく自己中心的な実利主義、荒廃地区の再生、社会的に上昇する気がない、あるいはできない者への無配慮に呆れ果てた進歩的な市民は声を大にし、連携を取って支援した。抗議者たちが外出禁止令を無視すると、警察は無差別攻撃で応酬。穏やかだった抗議を激しい暴動へと焚き付けた。この一件で警察の蛮行が広く糾弾されることとなった。

百聞は一見にしかずというクリシェに意味があるとしたら、それを根付かせ、支えるのは、歴史という地下茎だ。撮影現場に集結し、連帯のネットワークを形成する広がりゆく根茎の謂である。本展では、艾がNYのイースト・ヴィレッジ滞在中に撮影し、三影堂がアーカイブ化した1万点以上から選ばれた数百枚からなる写真群は圧倒的だ。この作家の天賦の才は、社会や文化に対する鋭い感覚であり、部外者でありながら決定的な瞬間を捉えている。濃密で混沌とした意味、観念、摩擦、闘争、願望、そして矛盾する価値観のネットワークに映像を定着させ、時代のある特定の場所における生世界を具現化するのだ。90年のドラァグフェスティバル「ウィッグストック」で、ダイアナ・ロスの伝説的な「I’m Coming Out」をカバーする輝けるドラァグクイーンたち。ふっくらした髪型の写真は、いまなお重要な公民権問題である、同性愛者の権利を訴える黎明期の運動に観る者を引き入れる。大金を投じたパブリックアートの下で眠る路上生活者の不安は、持続不可能な、際限なき消費に基づいた経済体制の矛盾を物語る(その消費が突然の終焉を告げ、現在に至っているのだが)。90年の第1次湾岸戦争への抗議運動は、現在や未来においても、過去が存在することを思い起こさせる。

三影堂撮影芸術中心(北京)
http://www.threeshadows.cn/

初出:『ART iT』 No.23 (Spring 2009)

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