さわひらき

2009.1.31–3.6
オオタファインアーツ(東京)
http://www.otafinearts.com/

文:内田伸一(編集部)


silts, 2009, Installation views at Ota Fine Arts
Courtesy the gallery

「どんな鳥も想像力より高く飛ぶことはできない」とは寺山修司の言葉。スキャンダラスで過激なイメージもあった劇作家とは対照的ながら、さわひらきにもこうしたロマンチストの一面と、虚構に惹かれ続ける姿勢とは共通して感じられる。

久々の東京での個展には、新作2点が展示された。「silts」は、映像の隣に実物大の小部屋を併置した作家初の試み。スクリーンに映るのは、荒野の観覧車、ガラス瓶の底の小鳥、ビーカーの中で結晶が描く天体図、そして満月を思わせる時計の振子……。世界の尺度を静かに攪拌するこうした映像のそばに置かれた小部屋には、実物の時計、瓶、月面図など、映像とのつながりを暗示する調度品が揃えられている。足を踏み入れると、空の鳥かごと、そこから逃れた無数の小鳥の影が目を引く。壁紙と同じ模様でつくられた鳥型が落とすその影は、寂しげにも、自由にも見えた。実体のない存在=虚構の住人となった彼らはどこへでも行けるが、どこへ行けばいいのか? スクリーン2枚が対峙する「out of the blue」では、一方にやはり空の鳥籠や、枯山水風の静謐な景色、人の指から飛び立とうかどうか逡巡する小鳥がモンタージュされ、対する画面には砂漠を歩く人影の鳥瞰映像が流れる。

ここで小鳥、または我々がいかに飛び、何を見たかは観衆の想像力に委ねられる。寺山が虚構を通して生死観を厳しく見つめたとすれば、さわの作品は彼岸と此岸を音もたてずに往復し、しかしどこか温かい。それは、もはや「飛べるなら高く飛ぶべき」という枷からさえも自由な——ゆえに孤独な——世界を生きる者の眼差しでもある。

さわひらき公式サイト
http://www.softkipper.com/

オオタファインアーツ
https://www.art-it.asia/u/otafinearts/Gv6pz82CgQoSAxbKOfwi

初出:www.art-it.jp (2009.03.17)

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