春木麻衣子 『possibility in portraiture』 TARO NASU

春木麻衣子
possibility in portraiture
2010年5月14日(金)- 6月12日(土)
TARO NASU


whom? whose? II – 1F (2010), type C print, 51.5 x 61.7 cm (framed), edition of 8. Image © Maiko Haruki 2010, courtesy TARO NASU.

写真というメディアの、技術的な可能性を探ることで、結果としてコンセプチュアルな作品を作り続ける写真家春木麻衣子の新作展。
デジタルではなく、アナログな手法を使い、コントラストを過剰に操作することによって対象物の可視化を遮り、観客の注視を求める作品である。緊張感を保持する作品を生み出し続ける作家の真摯な制作姿勢には好感が持てる。
今回のTARO NASUでの展覧会は作家が2年来取り組んできたポートレート作品を展示。『Outer Portrait』シリーズは、凝視しないと見えず、見えても被写体の一部しか見えないポートレート群である一方で、イスラム教徒と思われるスカーフ、人種など、被写体を特定する手がかりが認識でき、そうした意味で撮影場所を象徴するポートレートでもあった。それが恣意的なのかどうか。ほぼミニマルに展開するイメージの詳細が極めて特徴的というのが反語的であり、ある種の普遍性を阻害しているように思えた。点数が少ないこともあるかもしれないが、観光地において撮影しつつ意識的にほぼ場所の特定要因を排除する方法によって制作している作品で、こうした特徴が図らずも浮かびあがる可能性は否定しないが、彼女の他の作品に見られるような、被写体の身体的/物理的特徴が均質化されるもしくはその象徴性が剥奪されることによって、イメージが普遍化される面白さは今回の作品においては薄れているように思えた。
『Whom? Whose?』のシリーズは逆に撮影された場所が特徴的にも関わらず、コントラストをコントロールすることによって地理感覚が失われ、どこにも属さない場所への転換がはかられており秀逸。壁や迷路のような通路が、我々の近くにも存在しそうな場所として提示され、プライペートとパブリックが行き交う空間が異空間でもあり、身近なものでもあるという両義性を持つイメージとして成立していたように思う。

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