奥村雄樹『な』@ 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA


「河原温はまだ生きている:ポール・サイヤーへのインタビュー」2015年 HD ビデオ 29 分 18 秒 courtesy the artist and Misako & Rosen, Tokyo

奥村雄樹『な』
2016年2月20日(土)-3月21日(月、祝)
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
http://gallery.kcua.ac.jp/
開館時間:11:00-19:00 ただし入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし、3/21は開館)、3/22
※オープニングレセプション:2月21日(日)15:00-17:00

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAでは、「私」の不確定性や作者性をテーマとした作品制作を行なうアーティスト、奥村雄樹の個展『な』を開催する。

奥村雄樹は1978年青森県生まれ。現在はベルギーのブリュッセルとオランダのマーストリヒトを拠点とする。アーティストとしてのみならず、翻訳家としても活動する奥村は、近年、「私」という問題を批判的に更新するほかのアーティストたちの作品を参照しつつ、それらを再解釈・再演する、あるいは書き換えていくプロジェクトを手掛けている。これまでに、『アウト・オブ・ダウト 六本木クロッシング2013』(森美術館)や『反重力』(豊田市美術館、2012)、『MOTアニュアル2012: 風が吹けば桶屋が儲かる』(東京都現代美術館)などに参加。近年は、MISAKO & ROSENでの個展やWIELS(ブリュッセル)の企画展、高橋尚愛との二人展、モニカ・ストリッカーとの二人展、シュウゾウ・アヅチ・ガリバーとの二人展などで、他者との恊働や美術史への言及性が高いコンセプチュアルな作品を発表している。

本展では、河原温との会遇に着想を得たサウンドインスタレーションの新作を発表する。奥村は2012年に東京国立近代美術館で開催された『14の夕べ』での「河原温の純粋意識 あるいは多世界(と)解釈」をはじめ、河原温の仕事をめぐる作品を発表してきた。新作は、河原温が「河名温」として登場する宮内勝典の小説『グリニッジの光りを離れて』を原作に、60年代後半のニューヨークの空気感、河原の作品が内包する宇宙的な時間の拡がりや名前とアイデンティティをめぐる問題、奥村の自伝的な要素などが重なり合いつつ、同時代性を持った表現として提示される。

会期中には、京都市立芸術大学芸術資源研究センターが第12回アーカイブ研究会を開催。奥村が講師として登壇する。

「あ、きみの名前、正確な綴りをここに書いてくれないか」
河名温が、新聞広告の余白を指さした。働いたことのない細長い指だった。
「なんで?」
私はいつもの癖で、つい反射的に身がまえた。名前と聞くたびに不安になるのだった。
「こんなのも作ってるんだよ」
〈I MET〉という一冊しかない手作りの本だった。ファイルブックに、タイプ用紙がはさみこんであり、一ページが一日分で、そこに人の名前だけが記されていた。毎日、毎日その日に出会った人の名前を記しておくのだという。(中略)偽名ではなく、本名を書いた。ニューヨークで暮すようになってから、本名を書くのは初めてだった。宇宙空間へ流すタイム・カプセルかなにかに自分の名前が記録されるような面映ゆい気分だった。なにごとも起こらないこの無名の一日が、途方もない永遠の真っただ中に据えつけられ、記録されているような気もした。

宮内勝典「グリニッジの光りを離れて」(河出書房新社、1980年)より
※本展プレスリリース掲載


「河原温の純粋意識 あるいは多世界(と)解釈」2012年 9 人の同時通訳者によるパフォーマンス 東京国立近代美術館にて 撮影:中川周

関連企画
第12回アーカイブ研究会
「不完全なアーカイブは未来のプロジェクトを準備する」
講師:奥村雄樹
2016年2月23日(火)17:00-18:30
会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
無料、申込不要

グイド・ヴァン・デル・ウェルヴェ『無為の境地』
2016年2月20日(土)-3月21日(月、祝)
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
http://gallery.kcua.ac.jp/

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