笹本晃インタビュー: ハドロンとしてのインスタレーション/パフォーマンス (2)

ARTiT 今回のように美術館でパフォーマンスをすることで見えることはありますか。場所および観客といった外的環境はどのようにパフォーマンスに影響しますか。

SA 美術館は普段は目に見えないルールがあって、それがパフォーマンスによって可視化されました。こうした制限は自分にとってどちらかといって身近なものではありません。なので、何気ない路上やレストランという制限がない場所での即興パフォーマンスをやることでバランスをとっています。自分の中にあるナイーブな部分を守りたいのです。とはいえ、ルールのことを別にすれば、私自身が行なう内容についてはパフォーマンスの場所に拘らず全く変わりません。
また、観客については必要なものだと思っています。つまり観客の存在があってはじめて、パフォーマンスをする機会とエネルギーを得ている気がします。しかしながら、パフォーマンスの内容を動かすモノは自分の気分や私生活であって、観客の数や設定にはあまり影響を受けません。空間やモノには影響を受けます。壁の質や天井の高さとか、天気など、といったものです。つまり場所と同様、客の反応がパフォーマンスに影響することはありません。反応を全く気にしていないのです。もちろん観客に缶を投げられたりしたら影響されますが、これらも自分が体験する形になってやっと影響を受ける、ということでしょうか。話の内容には人間がよくでてきますが、身体的にはモノや空気に反応しているのかもしれません。

ARTiT パフォーマンスで言葉を多用するのはなぜですか。流れるようなレクチャーの様にずっとしゃべりつづけていますが、多弁な自分に酔っているわけでもなく、スピーチをしています。言葉も重要な要素に見受けられますが。

SA 言語によるズレ、みたいなものに興味をもっています。意思伝達の手段として生まれただろう言語を、こうも自分は使いこなせないなんて、なんてことだ!と、よく自分で自分に憤慨しています。パフォーマンスで話をするのは神経質になっているのだと思います。話せば話すほど伝わらない気がするのですが、それでもやめられせん。話せば話すほど話をしている相手からはどんどん離れて行く気がするのです。笑いをとりながら、笑われた瞬間に自分は一歩下がっているような状況です。心から離れたところで口だけが動いて無意識に面白いことを言ってしまっている。自分の心と口が乖離していて、観客が笑っているのを見て、その距離に気づかされます。 



remembering/modifying/developing
Performance still of installation/performance, 2008
Photo by Mineo Sakata, Courtesy of the Organizing Committee for the Yokohama Triennale

ARTiT パフォーマンスはいくつかの要素を論理的、数学的に組み合わせているようにも見えます。パフォーマンスだけでなく、インスタレーションにおいても要素が組み上がっているのではないでしょうか。

SA いくつかの動きの要素を組み合わせているのは確かです。それが論理的かどうかは疑問ですが。即興は、自分の持っている要素、強いて云えば今まで体験してきた全て、を反映するので、ある程度定まってきますし、また思い切った変換も可能です。自分で作り込んだインスタレーション内で即興という場合、パッとその場で行う即興に比べて、かなり範囲が定まってくるようになっています。
インスタレーション、パフォーマンス双方において、言語、彫刻、動き、絵。それぞれの手段は、使えるようになるまでの時間や、使用した際の伝達の速度、伝わり方など、多種多様で、組み合わせるのが好きです。何をやっても伝わらない、という絶望感と、数打てば絶対にいつか伝わる、という希望の狭間で、兎に角なんでもいいから表現したい、と動いています。

ARTiT 最後に自身が参加している非営利団体カルチャープッシュについて教えてください。

SA カルチャープッシュは人とのつながりを奨励する機関で、自分のエゴを完全に取り払った空間です。それに対して、自分の作品は内へ、内 へ、とことん個人的な活動の場です。現時点では、外と内でバランスを取っている感覚です。カルチャープッシュがこれからどうなっていくのかは、自分一人では決められないので、正直言って解りません。いろんな人に出会ういい口実になりうるので、そういった出会いを通して自然になるべき機関になっていったらいいな、と思っています。今の美術において、自分の作品制作だけではなくて、社会とどのように関わっていくかを考えること、社会的に貢献すること、ある種の思想を伝えていくことは非常に重要だと思っています。そうした意味で、カルチャープッシュの活動も自分に大事なものだと思っています。

(2010年4月 ニューヨークにて)

笹本晃は1980年横浜生まれ、高校を中退し渡英、その後渡米して、以来アメリカ在住。コロンビア大学大学院美術課程修了。現在はニューヨークを拠点として活動している。数学、ダンス、美術を学び、それらを統合したインスタレーション/パフォーマンス作品を大学在学中から発表。ジャンルにとらわれることなく、劇場、屋外、ギャラリーや美術館など様々な場所で主に彫刻的装置を伴うパフォーマンス作品を発表している。主なグループ展に『第3回横浜トリエンナーレ』(2008年)、『One Minute More』(ザ・キッチン、 ニューヨーク、2009年)、『2010ホイットニーバイアニュアル』(ホイットニー美術館、ニューヨーク、2010年)、『Greater New York』(P.S.1現代美術センター、ニューヨーク、2010年)など

参照リンク

Culturepush  

Whitney Biennale 2010 Aki Sasamoto

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