記者会見(3)「ミン ウォン:ライフ オブ イミテーション」

6月24日(金)に行なわれた記者会見(1)(2)に続くリポート最終回です。キュレーターのタン フー クエンに続き、作家のミン ウォンが展示を解説しました。

タン フー クエン:
ミン ウォンはナショナルシネマ、国を現わす映画とは何か、と問いかけています。シンガポールで1950~60年代に栄えた映画文化は、65年のマレーシア連邦からの国家独立とともに衰退、80~90年代の制作はほぼ皆無でした。人種や言語政策が、映画にも生活にも影響を与えました。例えば70年代生まれのミンと私は、マレー語教育を受けず、マレー文化から遠くなってしまった世代と言えますね。ミン ウォンは映画をリサーチし、その世界に自ら入り込み、新しい解釈を加えるという非常にユニークな制作をしています。彼が用いる手法の一つは真似をする、誰かのコピーをすること、そしてもう一つがミスキャストです。オリジナル作品とは異なる解釈で役柄にそぐわない人物をあえてキャスティングすることにより、本質を浮き彫りにしていこうとしているのです。


「Filem-Filem-Filem」(2009-2010年)

ミン ウォンが、シンガポールやマレーシアへ旅し、古い映画館を撮影した写真群です。かつて「夢の宮殿」と呼ばれ人々に夢を与えた場所です。現在では映画館としての機能を失い、倉庫や駐車場になっている所もあります。バウハウス風、アールデコ風、あるいは東南アジア風のものとの融合等、実にさまざまな建築様式が見られ、かつて進められた都市化(アーバナイゼーション)の様子がしのばれますね。

続いて作家自身による解説です。

ミン ウォン:


「フォー マレー ストーリーズ」(2005年)

私の初期の作品です。マレー系シンガポール人の友人と一緒に、いかにもマレー映画らしい50~60年代の作品を探しました。中でも、不倫、アルコール中毒、殺人など、現在ではイスラム教的観点からタブーとされ扱われない主題を選びました。人々の記憶から消えてしまいつつある要素を風化させたくないと考えたのです。コメディ、メロドラマ、犯罪劇、時代劇の4つのモノクロ作品を選び、(自身が演じる16の)役柄同士が向かい合い、会話をするような形にしました。マレー語を話せない私が練習を重ねてマレー化し、歴史の深いマレーシアに近づいていく―その過程をこの作品の中に見ることが出来ます。


「イン ラヴ フォー ザ ムード」(2009年)

ウォン カーウァイの映画「In the Mood for Love」(2000年/邦題「花様年華」)に基づいた作品です。ミスキャストとリピートの手法を用いています。オリジナルは香港映画で広東語が使用されています。私自身広東語を話せるため自ら演じることはせず、広東語を話さないニュージーランド人女優にマギー チャンとトニー レオンが演じた二人の主役を演じてもらいました。カメラの背後で私がつぶやく台詞を女優が聞き、正しく発音しようとします。(テイクを重ねる内に)徐々に上達し、最後の方では広東語のネイティブスピーカーのように上手くなります。向かって左のスクリーンは、ベストテイクを編集してつなげたものです― 一般的な映画の手法ですね。真ん中はそこそこの出来のテイク、奥のスクリーンはワーストテイクを編集したものです。


「ライフ オブ イミテーション」(2009年)

ダグラス サーク監督のアメリカ映画「Imitation of Life」(1959年、邦題「悲しみは空の彼方に」)というメロドラマを元にしています。黒人の母親と、白人を装う女優志望の混血の娘が登場します。「私は白人よ!白人よ!」と叫びながら、黒人の母の存在を拒絶する娘と、病を隠して会いに来る母の葛藤を描いています。ハリウッドで初めて人種問題を真正面から捉えたこの作品をテーマとして選びました。私の作品では、女優ではなく3人の男優―マレー系、中国系、インド系シンガポール人俳優がアメリカ英語で、しかも母、娘、友人の役割を入れ替わりながら演じています。鏡を使った展示ですのでイメージが重なりあいます。インド系俳優が演じる母、中国系俳優が演じる娘、マレー系俳優が演じる友人が、次のテイクになると中国系が母、マレー系が娘…というように都度入れ替わります。それをさらに鏡像と共にご覧頂きます。(了)

全て原美術館におけるインスタレーション/撮影=米倉裕貴

【本展関連イベント】
シンガポール映画資料コレクター ウォン ハン ミン氏によるトーク
「カチャンプテからポップコーンまで:シンガポールの初期映画館(1896~1945年)」
7月31日[日]1:00~2:00pm 詳細はこちらへ。

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「ミン ウォン:ライフ オブ イミテーション」
2011年6月25日[土]―8月28日[日]

「東日本大震災被災地復興支援『奈良美智×原美術館『My Drawing Room』チャリティ大判カードセット」販売中。

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ハラ ミュージアム アーク
「この世界には色がある―原美術館コレクション展」(現代美術ギャラリー)
7月2日[土]-9月11日[日]
「競・闘・争」(觀海庵)
前期 7月2日[土]-8月3日[水] 後期 8月5日[金]-9月11日[日]

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