藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会 @ 兵庫県立美術館


 

藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会
2025年6月14日(土)-8月17日(日)
兵庫県立美術館
https://www.artm.pref.hyogo.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし、7/21、8/11は開館)、7/22、8/12
展覧会監修:林洋子(兵庫県立美術館館長)
展覧会URL:https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2506/

 

兵庫県立美術館では、20世紀前半の激動の時代に、海外で成功と挫折を経験した藤田嗣治(1886-1968/東京生まれ)と国吉康雄(1889-1953/岡山生まれ)という同世代の画家の軌跡を代表作とともに時系列でたどる展覧会「藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会」を開催する。兵庫県立美術館は前身となる兵庫県立近代美術館時代の1975年に「フジタの時代」、「国吉康雄展:アメリカ・日本・カナダ巡回/開館5周年記念」を開催。以来初めて両者の作品をまとめて紹介する本展は、国内主要コレクションから代表作が一堂に会する貴重な機会となる。

9章立てで構成された本展は、第1章「1910年代後半から20年代初頭:日本人「移住者」としてのはじまり」から始まる。この時期、国吉は16歳で労働移民として渡米。教師の勧めで画家を志し、ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグで研鑽を積んだ。モチーフとしてよく描いた牛や子供の姿をデフォルメし、空間に奥行きを持たせた《夢》(1922)は、西洋と東洋の融合した表現として評価された。一方、藤田は東京美術学校卒業後26歳で単身フランスに渡り、第一次大戦下も欧州にとどまり、戦後はパリの諸サロンで入選を重ねた。第2章「1922年から24年:異国での成功」では、1920年代初頭に東西の絵画技法を融合し、「乳白色の下地」に描いた女性像で注目を集めた藤田が、パリの諸サロンに発表した《五人の裸婦》(1923)や《タピスリーの裸婦》(1923)などを紹介。東京国立近代美術館所蔵の《五人の裸婦》は、2021年から2022年にかけて科学調査と修復が行なわれた大作。この時期の国吉は1922年からニューヨークのダニエル画廊で毎年個展を開き、複数の展覧会に参加を続け、東洋的と評された作風で注目を集める。《幸福の島》(1924)は、国吉の初期の女性像の特徴をよく示す代表作。子宮内の胎児を思わせる構図と女性の表情、腹部から芽吹く枝や貝殻などを組み合わせることで、独自の官能表現を生み出した。

 


国吉康雄《幸福の島》1924年 東京都現代美術館


藤田嗣治《舞踏会の前》1925年 公益財団法人大原芸術財団 大原美術館 ©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 X0359

 

第3章は「1925年と1928年:藤田のパリ絶頂期と国吉の渡欧」。国吉は1925年と1928年に藤田との共通の親しい友人であるブルガリア出身のジュール・パスキンの勧めで、妻で画家のキャサリン・シュミットとともにパリに滞在。1925年のパリではアール・デコ博覧会が開かれ、日本からも多くの視察が訪れた。本章には2015年に修復が完成した藤田の代表作、のちに妻となるユキ、ロシア人の造形作家のマリー・ヴァシリエフも描かれた《舞踏会の前》(1925)も出品。第4章「1929/1930/1931年:ニューヨークでの交流とそれぞれの日本帰国」では、藤田が初めて日本に一時帰国した1929年、ニューヨークでの個展のために渡米した藤田と国吉が直接交流する機会を得た1930年、藤田からの招待状を手に24年ぶりに国吉が帰国した1931年を取り上げる。

第5章「1930年代:軍国主義化する母国の内外で」で扱うこの時期、藤田は30年代初頭にパリを離れ、中南米経由で33年秋に日本に戻って定住し、フランス、日本・アジアの風俗など新たな画題に取り組んだ。一方の国吉は順調な制作を続け、受賞を重ねる。母校で教職につき、さらに芸術家権利向上・団結を目指す活動にも力を注いだ。本章には1939年に日本から再び渡仏した藤田が手がけた静物画《猫のいる静物》(1939-40)や静物画の題材に独自の意味を持たせた国吉の代表作《逆さのテーブルとマスク》(1940)を出品。第6章「1941年から45年:日米開戦下の、運命の二人」では、親しかった在外邦人画家の運命を別った時期に焦点を当てる。藤田が日本で軍部からの作戦記録画の注文に力を注ぐ一方で、国吉はアメリカで敵性外国人という立場に置かれ行動制限を受けるなか、軍国主義を批判する活動や制作に取り組んだ。本章では、第2回大東亜戦争美術展にも出品された藤田の《ソロモン海域に於ける米兵の末路》(1943)や、画家ベン・シャーンによる労働者のポスターが破られ、その前に立つ女性が戦時下の国吉の心境を投影しているかのような《誰かが私のポスターを破った》(1943)なども出品される。

 


国吉康雄《誰かが私のポスターを破った》1943年 個人蔵

 

戦争が終わった第7章「1946年から48年:戦後の再生と異夢」の期間は、藤田が「戦争責任」をささやかれるなか、裸婦や幻想的な情景の制作を再開しつつ、フランス帰還の可能性を模索したのに対し、国吉は制作と美術家組合の活動に邁進。1948年にはホイットニー美術館で同館初の現存作家の個展という栄誉を得た。国吉は戦後すぐに完成させた《祭りは終わった》(1947)について、「祭りは終わった。戦争も終わった。新しい世界を待ち望んだけれど、何もやっては来なかった」との言葉を残している。第8章「1949年ニューヨーク:すれ違う二人」が焦点を当てる1949年は、藤田が離日・渡米を果たし、ニューヨークに約10か月滞在し、マシアス・コモール画廊で個展を実現した年。国吉は藤田不在の個展会場に足を運ぶも再会は叶わなかった。本章出品の《美しいスぺイン女》(1949)は、新天地ニューヨークで制作に没頭した藤田が、ヨーロッパの歴史的な街並み、黒い衣装によって白い肌の美しさの際立つスペインの女性を題材にした作品で上述の個展でも発表している。最終章となる第9章「1950年から53年:藤田のフランス永住と国吉の死」には、鮮やかな色彩の裏にどこか不穏な空気を感じさせ、緑の仮面の下の顔は死人のように青白く、その笑みは見る者を不安にさせる国吉の《ミスターエース》(1952)や、戦後初めて宗教画に本格的に取り組んだ藤田が自室を飾るために制作した《二人の祈り》(1952)などが出品される。国吉は1950年秋に体調を崩し、移民法改定を受けアメリカ国籍取得の手続き途上の1953年5月に死去。藤田は1950年初にパリに帰還し、55年にフランス国籍を取得。晩年カトリックに改宗し、1968年に死去した。

なお、本展会期中には、記念シンポジウムや本展の監修を務めた林洋子(兵庫県立美術館館長)、廣瀬就久(岡山県立美術館学芸員)といった専門家による講演会、 三宅正弘(武庫川女子大学 生活環境学部教授)による藤田ゆかりの甲子園ホテルを巡るツアー、アーティストの笹川治⼦や⼩沢剛をゲストに迎えたトークイベントなど、 さまざまな関連イベントを予定している。

 


国吉康雄《ミスターエース》1952年 福武コレクション

 

関連イベント
藤田嗣治と阪神間モダニズム ―藤田嗣治と吉原治良 出会いの地を訪ねて―
2025年6月19日(木)10:15–12:00
講師:三宅正弘(武庫川女子大学 生活環境学部教授)
会場:甲子園会館(旧・甲子園ホテル)
定員:30名(先着順)
参加費:2,600円(展覧会鑑賞券、甲子園ホテルオリジナルグッズ付)
申込方法:https://www.e-hyogo.elg-front.jp/hyogo/uketsuke/form.do?id=1746861301432

監修者による講演会「藤田と国吉 パラレルなキャリアへ」
2025年6月22日(日)14:00–15:30(開場:13:30)
出演:林洋子(本展監修者/兵庫県立美術館館長)
会場:KOBELCOミュージアムホール
定員:150名
申込方法:https://www.e-hyogo.elg-front.jp/hyogo/uketsuke/form.do?id=1746749431302
※要観覧券

こどものイベント
2025年6月28日(土)10:30–12:00
※公式ウェブサイトで事前申込(募集開始は5/31(土)10:00から)

学芸員による解説会
2025年6月29日(日)、7月12日(土)、8月9日(土)いずれも15:00–15:45(開場:14:30)
会場:兵庫県立美術館 レクチャールーム
定員:80名(先着順)

記念シンポジウム「20世紀前半の二人の日系画家をめぐって」
2025年7月6日(日)
会場:KOBELCOミュージアムホール
※公式ウェブサイトで事前申込

ゆっくり解説会
2025年7月13日(日)13:30–14:25
会場:兵庫県立美術館 レクチャールーム
定員:60名(先着順)
※手話通訳、要約筆記付

1949年藤田嗣治個展 再現プロジェクトを語る
2025年7月21日(月・祝)14:00–15:30
出演:笹川治子(アーティスト)、林洋子(本展監修者/兵庫県立美術館館長)
会場:兵庫県立美術館 レクチャールーム
定員:50名(先着順)
※公式ウェブサイトで事前申込、要観覧券

講演会「国吉康雄の生涯と画業」
2025年8月2日(土)14:00–15:00
講師:廣瀬就久(岡山県立美術館学芸員)
会場:兵庫県立美術館 レクチャールーム
定員:80名(先着順)
※無料、要観覧券

HART TALK 館長といっしょ! Vol.18
2025年8月11日(月・祝)14:00–15:30(開場:13:30)
出演:小沢剛(現代美術家)
会場:KOBELCOミュージアムホール
定員:150名(先着順)
※要観覧券、友の会優先座席あり

ミュージアム・ボランティアによる解説会
会期中毎週日曜日 11:00–11:15
会場:兵庫県立美術館 レクチャールーム
定員:80名(先着順)

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