恵比寿映像祭2025「Docs ―これはイメージです―」
2025年1月31日(金)-2月16日(日)
※コミッション・プロジェクト(3階展示室)のみ3月23日(日)まで
https://www.yebizo.com/
東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス各所、地域連携各所ほか
開催時間:10:00–20:00(最終日は18:00まで)入場は閉館30分前まで
(※コミッション・プロジェクト(3階展示室)のみ10:00–18:00/恵比寿映像祭会期終了後の木・金は10:00–20:00)
休館日:月
キュレーター:田坂博子(東京都写真美術館主任学芸員)
「映像とは何か」という問いを掲げ、毎年異なるテーマによる探究を続ける恵比寿映像祭が、東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺の複数会場で開催される。17回目となる本年度のテーマは、「Docs ―これはイメージです―」(英題 Docs: Images and Records)。東京都写真美術館が総合開館30周年を迎え、実写映画の起点とされるリュミエール兄弟の《工場の出口》が公開された1895年から130年を経た現在、あらためて写真・映像メディアの変容に着目。19世紀から現代にいたるさまざまな表現を紹介し、時間を記録することに焦点をあてながらアーカイブを掘り下げ、言葉とイメージの問題をひも解くことで、「ドキュメント/ドキュメンタリー」の再考を試みる。
東京都写真美術館2階展⽰室では、現実や今を浮き彫りにするパフォーマンスや身体性と関連する作品群を通して、文化的多様性やアーカイブについて掘り下げる。参加アーティストとして先行発表された、カウィータ・ヴァタナジャンクールやプリヤギータ・ディアの作品、イトー・ターリのアーカイブなど、パフォーマンスと身体を通した批評的なまなざしを紹介。他方で、アニメーションの原理を遡る古川タクによる驚き盤の再現展示や、造形的思考を写真や映像に接続させ有機的な映像空間をつくりだす角田俊也、追加アーティストとして発表された膨大な量の写真を切り抜き映像をつくりだす林勇気、アピチャッポン・ウィーラセタクンによる映像の時間に関する写真作品を展示し、映像本来の時間に接続していく。
同館地下1階展⽰室では、パイプの絵が描かれ、その下に「これはパイプではない」という文字が記載されたルネ・マグリットの《イメージの裏切り》のように、イメージは現実そのものではないという問いかけから、イメージと言葉の問題を考える。世界の数々の神話に登場する大洪水のイメージの伝承を探るリウ・ユー[劉玗]の日本初公開作品《If Narratives Become the Great Flood》 や、意思疎通のできなさから起こる独特な動態やコミュニケーションについて思考する斎藤英理の《Social Circles》を展示。また、東京都コレクションのなかから、修復を施した古川タクの映像装置と藤幡正樹のメディアアート、ジュリア・マーガレット・キャメロン、杉本博司、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの写真など、時代を超えた作品群を展示する。
カウィータ・ヴァタナジャンクール《A Symphony Dyed Blue》2021年 作家蔵 Courtesy the artist and Nova Contemporary
プリヤギータ・ディア《The Sea is a Blue Memory》2022年
3月23日まで継続して展示を行なう3階展示室では、第2回コミッション・プロジェクトで選出されたファイナリスト4名が、それぞれの個人的、社会的、歴史的な背景や問題意識を通して「ドキュメント/ドキュメンタリー」を探る新作を展示。小田香は、身近な存在である自身の母を題材に、イメージと音を介して「人間の記憶のありか」について探求する作品を展開し、小森はるかは、新潟水俣病患者運動を50年以上支え続ける旗野秀人の姿を通して、独自の方法で記憶を伝承するドキュメンタリーの在り方を考える。永田康祐は、朝鮮半島における日本統治時代の稲作と酒造への影響を考察し、さまざまな語りが交錯する複合的な映像インスタレーションを発表し、ろう者である牧原依里は、手話を拠点とするワーキングプレイス「5005」を舞台に、身体感覚の視点から作品制作に取り組み、映像の実験的な手法を提示する。
オフサイト展示では、明るい色の画像背景にテキストと音楽を結びつけ、アメリカ政治やポップカルチャーをテーマに、独自の視覚表現で文化や歴史を再文脈化してきたトニー・コークスが、美術館内のほか、JR恵比寿駅から恵比寿ガーデンプレイスを繋ぐスカイウォーク(動く歩道)など恵比寿ガーデンプレイス各所で作品を展開する。
トニー・コークス インスタレーション風景、2023-2024年(Dia Bridgehampton、ニューヨーク)Courtesy the artist, Dia Art Foundation, New York, and Greene Naftali, New York. Photo: Bill Jacobson Studio, New York[参考図版]
藤幡正樹《Beyond Pages》1995年 東京都写真美術館蔵
“Masaki Fujihata: Augmenting the World,” LAZNIA Centre for Contemporary Art exhibition, Gdańsk 2017, Photo: Paweł Jóźwiak
東京都写真美術館1階ホールを会場とする上映プログラムでは、「日本のポスト・ドキュメンタリー」と題して、日本記録映画作家協会や映像芸術の会を中心としてドキュメンタリーの議論が活発化し、若い世代の作り手たちがテレビの普及に触発されながら新たな挑戦を試みた、1960年代前後から1970年代にかけて生みだされた多彩なドキュメンタリー作品を紹介。
特集「テレビ/映像の可能性」では、テレビの現場からテレビを問い、アクション・フィルミングとコラージュ技法によるドキュメンタリー演出を手がけた村木良彦が、カメラマンの浅井隆夫とともに1960年代後半の東京や若者の姿を捉えた《マスコミQ「フーテン・ピロ」-67年夏 東京-》と、村木の演出にも協力した宮井陸郎の《時代精神の現象学》を上映。特集「今、「遠くへ行きたい」」では、1970年代の放送初期において、テレビメディアの制約を超克する先駆的な実践の場であった紀行番組「遠くへ行きたい」に注目。最新型の同録カメラを用いて岩手の相貌を捉えた今野勉の《六輔さすらいの旅・岩手山・歌と乳と》と、地方を放浪した芸術家を通して「ディスカバー・ジャパン」の謡う観光を問う谷川俊太郎の《もう一つの旅・「山下清画文集」より》、今村昌平と佐藤輝による映像を紹介する。
また、集団的な映画制作を通じて、ドキュメンタリーとフィクションの両面で、先鋭的な表現を探求した日本大学芸術学部映画学科映画研究会(通称:日大映研)を特集。1959年の伊勢湾台風の被害を記録した《釘と靴下の対話》と《Nの記録》のほか、日米安保闘争の影響を受けたシュルレアリスム的な実験映画《プープー》を上映。さらに、日大映研が輩出した代表的な作家である平野克己、城之内元晴、康浩郎による独創性の高いドキュメンタリー作品を紹介する。
併せて、現代の実験性に特化したドキュメンタリー作品に光を当てる。古典文学を源泉としながら、独創的な手法で現代世界を描く映画制作を行なってきたマティアス・ピニェイロの《You Burn Me》、オーラ・サッツによる第二次世界大戦や冷戦時代のインフラの遺物であるサイレンへの賛歌《Preemptive Listening》、戦火が続くミャンマーの診療所で働く仏教徒の助産師とイスラム教の弟子を5年にわたり記録したスノー・ニン・イ・ラインの《助産師たち》を上映する。
さらに、2014年に設立されて以降、実験的な作品を積極的に紹介してきた新千歳空港国際アニメーション映画祭の歴代入選作品を紹介する短編アニメーション特集、松井宏、エレオノール・マムディアンによる初短編映画、瀬田なつきの作品のほか、コミッション・プロジェクトのファイナリストの過去作品など、総合テーマと呼応する特別上映プログラムを連日開催する。
古川タク《ニッケル・オデオン・動画劇場》1988年 東京都写真美術館蔵
角田俊也《スクリーニング vol.1》2024年
「写真鉱山 / スクリーニング vol.1」(スプラウト・キュレーション企画)より[参考図版]
関連イベントとして、角田俊也や、牧野貴『100年』×渡邊琢磨 弦楽五重奏のライブ、映像アーカイブを掘り下げるシンポジウム「ヴァナキュラーとオリジナリティ」と「第2回コミッション・プロジェクト—Docsの現在」、プログラムに関連したスペシャルトークセッションなどを多数開催。教育普及プログラムでは、筆談しながら作品鑑賞を楽しむ手話通訳つきのワークショップや、19世紀に発明されたアニメーション装置「おどろき盤」を作るオープンワークショップなど行ない、乳幼児から高齢者、障害の有無や国籍を問わず、誰もが楽しめるフェスティバルを目指す。さらに、恵比寿近隣の地域で活動するアートの担い手が総合テーマを共有し、それぞれの施設で展覧会やイベントを開催する地域連携プログラムなど、映像や写真についての理解を深める多彩なプログラムを期間を通して展開する。