生誕120年 安井仲治―僕の大切な写真 @ 兵庫県立美術館


安井仲治《蛾(二)》1934年 個人蔵(兵庫県立美術館寄託)

 

生誕120年 安井仲治―僕の大切な写真
2023年12月16日(土)-2024年2月12日(月・振休)
兵庫県立美術館
https://www.artm.pref.hyogo.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし1/8、2/12は開館)、年末年始(12/29-1/2)、1/9
企画担当:小林公(兵庫県立美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2312/

 

兵庫県立美術館では、大正期から太平洋戦争勃発に至る激動の時代に、写真のあらゆる技法と可能性を追求した写真家、安井仲治の全貌を紹介する展覧会「生誕120年 安井仲治―僕の大切な写真」を開催する。

日本写真史における重要作家のひとりとして挙げられる安井仲治(1903-1942/大阪生まれ)。その作品を初めて本格的に紹介した「安井仲治展」(兵庫県立美術館、西武百貨店コンテンポラリーアートギャラリー、1987)、現存するオリジナルのネガからモダンプリントを作成することで、その全貌に迫った回顧展「生誕百年 安井仲治」(渋谷区立松濤美術館、2004/名古屋市美術館、2005)に続く大規模な展示機会となる本展は、作家自身の手掛けたヴィンテージプリント141点と本展を機に新たに制作した23点を含むモダンプリント64点を、時系列の5章構成で展示することで、その業績の全貌を改めて辿る内容となる。

 


安井仲治《猿廻しの図》1925/2023年 個人蔵


安井仲治《クレインノヒビキ》1923年 個人蔵(兵庫県立美術館寄託)

 

第1章は、大阪の豊かな商家に生まれた安井が、10代で関西の名門アマチュア写真団体、浪華写真倶楽部に入会し、20代前半にして同倶楽部の指導的な立場となり、1927年の秋には倶楽部の実力者とともに銀鈴社を結成した1920年代の活動を紹介する。芸術表現としての写真を追求する「芸術写真」、なかでもその多くが「絵画的」な写真表現が志向される中で、安井もまたピグメント印画法による作品を数多く手掛けつつも、この時期の代表作《猿廻しの図》に見られるような社会的な関心に裏打ちされた作品は「芸術写真」の枠組みを拡張するものとして注目を集めた。

続く第2章では、1931年に東京、大阪を巡回し、日本の写真界に衝撃を与えた「独逸国際移動写真展」を契機に、それまでの「芸術写真」からいわゆる「新興写真」と呼ばれるものに表現の主潮が移行し、モダニズム写真が隆盛することとなった1920年代末から1930年代前半頃の作品を紹介する。この時期の安井は、同時代の写真家と同様に新興写真の開花に多大な影響を受け、新技法を取り入れた実験的作品に取り組んだ。その一方で、すでに時代遅れとなりつつあったブロムオイル印画への強い拘りも見られる。

 


安井仲治《浅春》1939年 個人蔵(兵庫県立美術館寄託)


安井仲治《蝶(二)》1938年 個人蔵(兵庫県立美術館寄託)

 

同じく1930年代を扱う第3章では、同時代の作品の中でも新興写真やシュルレアリスムといった特定のジャンルや傾向には区分しがたい作品を取り上げる。安井は1932年に「半静物」の語をもって、撮影場所で静物を即興的に組み合わせて現実と超現実とのあわいを現出させる方法を語っており、この独自の手法はその後の安井の実践において重要なものとなっていく。

第4章は1930年代半ばに入って「新興写真」が退潮し、シュルレアリスムの理論を積極的に取り入れた写真は「前衛」と形容され、報道写真とともに、際立った存在感を放った時期の、安井の作品を紹介する。この時期、前章で見た安井の「半静物」の取り組みも、写真だからこそ達成できる精緻な現実世界の再現によって、非現実的な詩情と美しさを備えた世界を生み出すことを目指すものへと展開していく。

最終章となる第5章は、1937年の日中戦争の開戦以降、アマチュア写真家たちの活動が徐々に制限されていく状況下で、安井が残した戦時社会を生きた人々の姿を象徴的に捉えた作品を紹介する。この時期の安井は、丹平写真倶楽部の有志とともに「奉仕」として取り組んだ〈白衣勇士〉や、ナチスドイツによる迫害から逃れてきたユダヤ人たちを神戸でとらえた〈流氓ユダヤ〉といった集団による撮影の実践に取り組む。安井は後者を撮影して間もない1941年の夏に不調を覚え、同年10月には病をおして朝日新聞社主催の講演に登壇し、個人の人格の表現としての芸術の重要性を訴えたが、それから半年を待たずに逝去した。

なお、会期中には、美術家の島袋道浩によるトーク「美術家から見た安井仲治」や、写真家の野口里佳によるワークショップなどの関連イベントを開催。また、会期後半の2024年1月13日から開幕する「2023年度コレクション展Ⅲ」では、本展に連動する形で戦前の関西で活躍した写真家の作品展示を予定している。

 


安井仲治《馬と少女》1940年 個人蔵(兵庫県立美術館寄託)


安井仲治《流氓ユダヤ 窓》1941年 個人蔵(兵庫県立美術館寄託)

 

関連イベント
記念トーク「美術家から見た安井仲治」
2024年1月28日(日)15:00-16:30
出演:島袋道浩(美術家)
会場:兵庫県立美術館ミュージアムホール
定員:150名(先着順)
参加費:無料(要観覧券)※芸術の館友の会会員優先座席あり

野口里佳さんによるワークショップ
2024年1月20日(土)
出演:野口里佳(写真家)
定員・対象・申込方法等、詳細は公式ウェブサイトを参照

こどものイベント特別編 野口里佳さんによるワークショップ
2024年1月21日(日)
出演:野口里佳(写真家)
定員・対象・申込方法等、詳細は公式ウェブサイトを参照

ゆっくり解説会 in Winter
2024年1月14日(日)13:00-14:30
会場:兵庫県立美術館レクチャールーム
定員:60名(先着順)
※展覧会の見どころを手話通訳および要約筆記付きで解説

学芸員によるレクチャー
2024年1月6日(土)、2月10日(土)各日15:00-15:45(開場は30分前から)
会場:兵庫県立美術館レクチャールーム
定員:60名(先着順)

ミュージアム・ボランティアによる解説会
会期中毎週日曜日 11:00-(約15分)
会場:兵庫県立美術館レクチャールーム
定員:60名(先着順)

 


同時期開催
コレクション展Ⅱ 特集
Welcome! 新収蔵品歓迎会
2023年9月9日(土)-12月24日(日)
兵庫県立美術館 常設展示室1、2、3、5、6、小磯良平記念室、金山平三記念室
https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/j_2309/kikaku.html

コレクション展Ⅱ 小企画
「美術の中のかたち―手で見る造形 遠藤薫 眼と球」
2023年9月9日(土)-12月24日(日)
兵庫県立美術館 常設展示室4
https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/j_2309/kikaku.html

コレクション展Ⅲ 特集
美術の中の物語
2024年1月13日(土)-4月7日(日)
兵庫県立美術館 常設展示室1、2、3、5、6、小磯良平記念室、金山平三記念室

コレクション展Ⅲ 小企画
「生誕180年記念 呉昌碵の世界 ―海上派と西泠名家―」
前期|2024年1月13日(土)-2月25日(日)
後期|2024年2月27日(火)-4月7日(日)
兵庫県立美術館 常設展示室4

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