【PR】第22回台新芸術賞


窮劇場&江之翠劇場『Apostating Time』Photo: by Lin Yu-Quan

 

2024年6月1日、台新銀行文化芸術基金は、台湾国内で過去1年の間に発表された視覚芸術および舞台芸術における優れた表現を表彰する芸術賞「第22回台新芸術賞」の授賞式を開催した。最終候補17組から選ばれる年間グランプリは、台湾戯曲芸術節で『Apostating Time』を上演した窮劇場と江之翠劇場が受賞。賞金150万台湾ドル(740万円)を獲得した。視覚芸術部門は、国際テクノ・アート・エキシビション2023「Are You Working Now?」に《Ký Túc Xá (Dorm)》を出品した你哥影視社(ユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ)、舞台芸術部門は、台湾戯曲センターで「Who’s Koxinga?」を上演した臺北海鷗劇場が受賞し、それぞれ100万台湾ドルを獲得した。

台新芸術賞は、2002年に台新銀行文化芸術基金が創設。視覚芸術、舞台芸術の領域横断的な精神、各領域における専門性を促進、表彰する芸術賞として、台湾アートシーンにおいて重要な役割を果たしている。本年度の年間グランプリを獲得した窮劇場江之翠劇場は、古典音楽「南管」の楽曲を現代的な音響設計で再解釈し、伝統的な梨園劇の科步の動きに基づいた演技を導入した『Apostating Time』を台湾戯曲芸術節2023(台湾戯曲センター、台北)で上演した。本作は、異なる時代の物語が非時系列に織り成す構成により、南宋の忠臣と白色テロの時代の政治犯の両者の人生を鏡のように互いの物語に映し出し、生き残るために離散やジレンマを負わされた人間の境遇を慎重かつ徹底的に描いた。

江子翠劇場は2007年の第5回台新芸術賞で舞台芸術賞を獲得しており、本年度は窮劇場との共同制作により見事、年間グランプリの受賞を成し遂げた。授賞式では、窮劇場の劇作家で演出家のガオ・ジュンヤオ[高俊耀]が、台中国立歌劇院と台湾戯曲中心から支援を受け2021年から取り組んだ江子翠劇場との共同制作の道のりは険しいものだったが、制作にかかわったすべての人々に敬意を表し、政治的トラウマを主題として扱うことを許容する社会の寛容さに感謝したいと語った。

審査員は「(本作品は)中国・泉州の古典音楽「南管」の調べと俳優陣の演技を通じて、観客に政治的な策略や困難な選択を突きつけるものでした。緻密な物語構造で編まれた『Apostating Time』は、歴史的困難の数々を掘り下げ、深い省察を真摯な批判に転化することで、人間の弱さと複雑さを描き出す、その卓越した芸術性は伝統的な梨園劇と現代演劇を冷静かつ大胆に融合した表現に表れている。また、複数の形式の流動性を伴う表現法の全体の調和を図ることで、各演劇分野の狭間にある潜在的な文法を導き出した。窮劇場と江之翠劇場は、勇気を持って共同制作に挑戦し、人生に於ける忍び難き重荷を芸術的弁証法を用いて明らかにし、現代演劇のさらなる可能性を切り拓いた」と称賛した。

 


你哥影視社《Ký Túc Xá (Dorm)》Image courtesy of Your Bros. Filmmaking Group


臺北海鷗劇場『Who’s Koxinga?』Photo: LIN Yu-Quan

 

視覚芸術賞は、スー・ユーシェン[蘇育賢]、ティエン・ゾンユエン[⽥倧源]、リァオ・シウフイ[廖修慧]が2017年に結成した你哥影視社(ユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ)が、台湾に移住してきたベトナム人女性労働者がストライキをライブ配信した出来事に着想した映像インスタレーション《Ký Túc Xá (Dorm)》により受賞した。你哥影視社は、ベトナム人労働者や仲介業者、宿舎空間に関する専門家、台湾人の配偶者となった外国人らを公募し、ワークショップを通じて、物語の筋や登場人物の設定を共同で構想。国際テクノ・アート・エキシビション2023「Are You Working Now?」に出品したインスタレーションは、二段ベットや家具で展示環境を構築し、そこに日用品やワークショップの記録映像を持ち込み、複雑な物語の文脈の数々を織り上げることに成功した。審査員は「《Ký Túc Xá (Dorm)》は、リエナクトメントによる想像力を発揮することで、移民労働者の主体性と人権の存在を認め、敬意ある態度で現実世界のさまざまな綻びに目を向けた。ワークショップを通じた創造的なアプローチにより遊び心に満ちた空気を作り出し、主観のみに囚われない制作プロセスにより彼女たちの生活の困難を表現。また、私的空間に介入することで社会的な理解や議論を喚起した。本プロジェクトは、さまざまな声が織り込まれたタペストリーとして、日常における翻訳、コミュニケーション、交渉の可能性を照らし出し、台湾の現代社会が直面している課題や転機を明らかにするもの」と高く評価した。なお、本作は第8回横浜トリエンナーレにも出品された。

舞台芸術賞は、臺北海鷗劇場が台湾オペラとも呼ばれる伝統芸能の歌仔戯作品『Who’s Koxinga?』(台湾戯曲センター)で受賞。本作は、鄭成功にまつわる民間伝承や都市伝説などを漢民族の歴史や世界史と織り交ぜ、鄭に関連する歴史上の人物の物語を役者自身の体験と結びつけながら展開。古翊汎と劉冠良の両役者が複雑なアイデンティティや各時代の移行を見事に演じ切りることで、「劇中劇中劇」を巧みに繰り広げ、現実とフィクションの境界を揺さぶった。

審査員は「『Who’s Koxinga?』は、時間と空間の4次元構造を活用し、台湾における最初の漢人政権の指導者、鄭成功の物語の多面性を描いた。空想的かつ謎めいた設定の下、その語りは玉ねぎのように幾重にも重なる層を一枚一枚剥くように進む中で、異なる時代や立場の人物が次々に現れては消えていき、さまざまな声が対話を通じて織り成しあい、奇怪かつ喧騒に満ちた場面が創出されていった。両役者は物語を忘れられない体験にまで高める名演技を披露。また、本作は始まりと終わりが響き合う反響的な構造を提示し、伝統的な歌仔戯における物語の可能性を十全に引き出すことに成功。伝統芸能の技能に基づきながら、革新的な実験と歴史的省察に果敢にも挑戦した」と評価した。

本年度の最終審査は、演劇学者のリン・ホーイ[林鶴宜](国立台湾大学演劇科教授、国立台湾大学芸術センター主任)を審査委員長に、美術批評家のジャン・チーウェン[張晴文](国立清華大学芸術及び設計学科副教授)、映画監督のホアン・ヤーリー[黃亞歷]、プロデューサーのスン・ピン[孫平]、パリ在住のアーティストで映像作家のチェン・シュウリー[鄭淑麗]。さらに国際審査員として、アデレードの南オーストラリア州立美術館ディレクターのラーナ・デベンボート、ベルリンのラディアルシステムのアーティスティックディレクターのマティアス・モールの7名が担当した。

 

第22回台新芸術賞https://22award.taishinart.org.tw/
台新銀行文化芸術基金http://www.taishinart.org.tw/

 

 

最終候補(視覚芸術)
チウ・ズーヤン[邱子晏]「「」」鳳甲美術館、台北
ゴン・ジョジュン[龔卓軍](チーフキュレーター)「One Thousand Names of Zeng-Wen River—2022 Mattauw Earth Triennial」総爺芸術文化センター、市道171号沿線区域、抜林工作站、大隆田生態文化園区、台南
ガオ・ジョンリー[高重黎]「Re-Present: Kao Chung-Li」台北市立美術館
リ・チェンリャン[李承亮]、ツァイ・ポウジン[蔡咅璟]「Made in Lucky (featured in the “Signal Z”)」台北現代美術館
リー・クエイ・ピー[李奎壁]「Banana Coin Project」台湾洪建全基金会 覓計畫(Project Seek)
エヴァ・リン[林怡華](チーフキュレーター)「From Nowhere to Now Here (featured in The 2023 Romantic Route 3 Art Festival)」台三線4県市(桃園、新竹、苗栗、台中)境內共12個鄉鎮市地区(龍潭、關西、橫山、竹東、北埔、峨眉、三灣、南庄、獅潭、公館、卓蘭、東勢)
你哥影視社(ユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ)「Ký Túc Xá (Dorm」国際テクノ・アート・エキシビション2023「Are You Working Now?」国立台湾美術館101展覧室、台中
シャオ・チーヘン[蕭其珩]「Best Place Map Series: Solo Exhibition of Qi-Heng Xiao」路由藝術、台北

最終候補(舞台芸術)
一心戲劇團「The Plague of Revenge」台湾戯曲芸術節2023、台湾戯曲センター
イェ・ユー・シュェン[葉于瑄]、チェン・ダオユェン[鄭道元]、シャオ・ユーリ[蕭育禮]「Re-Fracture」NTT X C-LAB – 2023 C-LAB Diversonics、台湾現代文化実験場
タイペイ・シーガル・シアター[臺北海鷗劇場]「Who’s Koxinga?」台湾戯曲センター
シェークスピアズ・ワイルド・シスターズ・グループ[莎士比亞的妹妹們的劇團]「qalang ima’」台北パフォーミングアーツセンター
タイペイ・パペット・シアター[臺北木偶劇團]「Dream of Becoming」戯曲夢工場2023、台湾戯曲センター
窮劇場 x 江之翠劇場「Apostating Time」台湾戯曲芸術節2023 NTT遇見巨人、台湾戯曲センター
ベアフィート・ダンスシアター x リュウ・ユン x リュウ・チュンテ[壞鞋子舞蹈劇場 x 劉昀 x 劉俊德]「Double Edges」牯嶺街小劇場
ホァン・ユーチン x 娩娩工作室[黃郁晴 x 娩娩工作室]「Man of the Theatre」台湾国際芸術祭2023(TIFA2023)
VMシアター・カンパニー[躍演]「Don’t Cry, Dancing Girls」衛武営国家芸術文化センター

 


第22回台新芸術賞

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