第40回写真の町東川賞


石川真生《沖縄でバイレイシャル(ミックスルーツ)として生きること》2021年〈大琉球写真絵巻〉(2021-2022年)

 

2024年5月1日、写真文化に貢献する継続的な活動により「写真の町」として知られる北海道上川郡東川町が、第40回写真の町東川賞の受賞者を発表した。本年度は、国内作家賞に石川真生、新人作家賞に金川晋吾、特別作家賞に北海道101集団撮影行動、飛彈野数右衛門賞に北井一夫、海外作家賞にヴァサンタ・ヨガナンタンがそれぞれ選出された。8月3日に受賞作家作品展を含む東川町国際写真フェスティバルが開幕。授賞式は同日に東川町農村環境改善センターで開催、翌8月4日には東川町文化ギャラリーで受賞作家ファーラムを開催する。

国内作家賞は、沖縄を拠点に精力的な活動を続ける石川真生(1953年沖縄県生まれ)が、昨年東京オペラシティアートギャラリーで開かれた個展「私に何ができるか」により受賞。審査会は、初期からの主要な作品をはじめ、近年取り組む「大琉球写真絵巻」の新作を中心に構成した同展を、「被写体との信頼関係を育みつつ展開される創作写真の独創性を照らし出すもの」と称し、その展覧会タイトルにも示された長きにわたる石川の写真表現における一貫した問いを認め、こうした「独創性と一貫性の稀有な在りよう」を高く評価した。石川は1970年代から写真をはじめ、沖縄を拠点に沖縄に暮らすさまざまな境遇に置かれた人々に密着した作品を発表してきた。2021年には沖縄県立博物館・美術館にて大規模な回顧展「石川真生展:醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。」を開催。2024年は釜山ビエンナーレ2024、熊本市現代美術館の「ライフ2 すべては君の未来」への参加が控えている。

 


金川晋吾〈いなくなっていない父〉2016年


北海道101集団撮影行動

 

新人作家賞は、金川晋吾(1981年京都府生まれ)が写真集『長い間』(ナナルイ、2023)、写文集『いなくなっていない父』(晶文社、2023)により受賞。審査会は、失踪を繰り返す父親や20年以上消息不明だった伯母と、写真や文章で細やかに関わっていく金川のアプローチに「従来的な見る/見られる関係、撮る/撮られる関係を静かに揺さぶるもの」を認め、「​​いっそう深みを増しつつあるその問いかけと、そこから生まれる写真表現の新たな可能性」が受賞の決め手となった。金川は東京藝術大学大学院在学中に失踪癖のあった父親を撮影するとともに日記の執筆を始め、2016年に写真集『father』(青弓舎、2016)を発表。また写真集によって固定される父親イメージへの反動から、2023年に写文集『いなくなっていない父』を発表した。また、2010年より病院で暮らしている伯母の身元引受人となり撮影を始め、2020年に伯母が亡くなるまでの写真と日記で構成した写真集『長い間』を2023年に発表。現在は、長崎の平和祈念像やカトリックの文化、自身の信仰等々について扱った『祈り/長崎』(書肆九十九)の制作に取り組むほか、複数人で暮らしている自身の生活を撮影した作品も出版に向けて編集作業を進めている。

特別作家賞には、全日本学生写真連盟が1968年から77年の間に北海道で19回にわたって実施した匿名的な集団撮影活動、北海道101集団撮影行動が選ばれた。北海道101集団撮影行動の「101」は1969年を指し、「明治元年(1868年)から101年目の北海道をドキュメント」として、当時の全日本学生写真連盟が1968年に北海道学生写真連盟との連名で全国の大学写真サークルに参加を呼び掛け、翌69年から撮影を開始した。延べ600人を超える学生が参加した活動は、2013年に東京都写真美術館で開催された「日本写真の1968」にその一部が紹介されたが、現在に至るまで写真集や展覧会という形で纏められていないが、近年、写真や資料の収集、保管が進んでいることからこの度の受賞に至った。特別作家賞の規定には「北海道在住または出身の作家、もしくは、北海道をテーマ・被写体とした作品を撮った作家」とあるが、審査会は北海道101集団撮影行動の受賞が、「そこで自明となっている作家とは、はたしてどのような存在なのか」という問いを現在に投げかけることにもなるに違いないと受賞理由に寄せた。

長年にわたり地域の人・自然・文化などを撮り続け、地域に対する貢献が認められる者を対象とする飛彈野数右衛門賞は、北井一夫(1944年旧満州鞍山生まれ)が、船橋市民ギャラリーで開催した「フナバシ ストーリー」(2023)により受賞。審査会は、1983年から1987年にかけて撮影された「フナバシ ストーリー」を、撮影された地である船橋市で発表した同展を、「北井氏の写真がかけがえのない船橋市民の記録と記憶となっていることを浮かび上がらせるものでもあった」と高く評価した。北井は1965年にアメリカ合衆国の原子力潜水艦が横須賀に寄港することに反対する全学連のデモ活動を撮り下ろした写真集『抵抗』(1965)を自費出版、69年から新東京国際空港反対闘争を記録した「三里塚」を『アサヒグラフ』に連載。闘争に身を置く農民たちの日々を内側から捉えた作品で高い評価を得る。1976年には『アサヒカメラ』に連載した「村へ」で第1回木村伊兵衛写真賞を受賞した。2012年には東京都写真美術館で回顧展「いつか見た風景」を開催している。

 


北井一夫、団地と新興住宅地に暮らす人々、撮影年代1983-1987年 「フナバシ ストーリー」より


ヴァサンタ・ヨガナンタン《Disappearance, Trivandrum, India, 2013》〈二つの魂の神話〉より

 

本年度はフランスを対象国とした海外作家賞は、古代インドの大⻑編叙事詩『ラーマーヤナ』を現代的に再話、各章ごとに1冊ずつ写真集化する⻑期プロジェクト「A Myth of Two Souls」により、ヴァサンタ・ヨガナンタン(1985年グルノーブル生まれ)が受賞。写真だけでなく、イラストレーション、インドの伝統的な着色、土地固有のイメージなどを織り交ぜた表現が高く評価された。ヨガナンタンは2009年から2013年にかけて最初の長期プロジェクトによる作品「Piémanson」を制作し、2014年に出版社Chose Communeを共同出版すると、同社より同名写真集を発表。続く「A Myth of Two Souls」は、2016年に取り組み始め、エリゼ美術館(ローザンヌ、2019)、シャネル・ネクサス・ホール(東京、2019)、Deck(シンガポール、2020)、ベルファスト・フォト・フェスティバル(2023)の個展で発表し、そのほか、各地のグループ展でも発表している。

本年度は国内作家賞57名、新人作家賞64名、特別作家賞24名、飛彈野数右衛門賞51名、海外作家賞13名の計182名がノミネート。安珠(写真家)、上野修(写真評論家)、神山亮子(学芸員、戦後日本美術史)、北野謙(写真家)、小原真史(キュレーター、東京工芸大学准教授)、柴崎友香(小説家)、丹羽晴美(学芸員、写真論)、原耕一(デザイナー)が審査委員を務めた。

 

第40回写真の町国際写真フェスティバル 受賞作家作品展
2024年8月3日(土)- 9月2日(月)
http://photo-town.jp/
会場:東川町文化ギャラリー
開場時間:10:00-17:00(8/3は15:00-21:00)
会期中無休
※感染症防止等のため、事業が変更・中止・延期となる可能性あり

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