第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ各賞発表


Archie Moore, Pavilion of Australia kith and kin 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia Photo: Matteo de Mayda. Courtesy: La Biennale di Venezia

 

2024年4月20日に開幕した第60回ヴェネツィア・ビエンナーレにて、同日正午に国別参加部門および企画展参加アーティスト部門の金獅子賞など各賞の授賞式が開かれた。

ナショナル・パビリオンの展示を対象とする国別参加部門の金獅子賞は、オーストラリア館(キュレーター:エリー・バットローズ)が、現生人類がオーストラリアに初めて到達したとされる6万5千年前にまで遡る家系図をパビリオン内に展開したアーチー・ムーアの個展「kith and kin」により受賞した。審査員は「静けさと力強さに満ちたパビリオン内で、アーチー・ムーアは何カ月もかけながらチョークで壮大なファースト・ネーションの家系図を描き上げた。黒板状の壁面と天井に刻まれた(記録の残るものも失われたものも含む)6万5千年の歴史は、観客にその空白を想像し、この哀悼のアーカイブが本質的に有する脆弱性を受け止めるよう求める。展示空間中央に積層された墨消しの残る公文書の数々は、ムーアの集中的なリサーチのみならず、ファーストネーション(先住民)の人々の高い収監率を映し出している。本インスタレーションは、その確たる美的感覚と抒情性、そして閉ざされた過去の喪失に対する祈りという点で極めて優れている。また、ムーアは幾千もの人々の名前の目録を通じて、回復への一縷の可能性を提示している」とその授賞理由を発表した。

 


Archie Moore, Pavilion of Australia kith and kin 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia Photo: Matteo de Mayda. Courtesy: La Biennale di Venezia


Archie Moore, Pavilion of Australia kith and kin 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia Photo: Matteo de Mayda. Courtesy: La Biennale di Venezia

 

同部門の特別表彰は、ヴェネツィア海洋史博物館を会場としたコソヴォ館(キュレーター:エレミレ・クラスニキ)が、ドルンティナ・カストラティの個展「The Echoing Silences of Metal and Skin」により受賞した。同展示は小規模ながらも、女性化された産業労働と女性労働者の身体の摩滅に言及する内容で、カストラティは、工場で生産されるトルコ菓子「ターキッシュデライト」に使われるクルミの殻と、工場での長時間にわたる立ち仕事が原因で膝を痛めた女性労働者に移植された医療器具を連想させる彫刻を発表している。審査員は、その造形が観客を作品内に誘い込み、床から彫刻へと振動するサウンドスケープが鑑賞者の骨に響き伝わるとともに、フェミニズムというより広い領域へと反響していくと高く評価した。

 


Doruntina Kastrati, Pavilion of Kosovo The Echoing Silences of Metal and Skin 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia Photo: Andrea Avezzù. Courtesy: La Biennale di Venezia

 

「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」参加アーティスト部門の金獅子賞は、アオテアロア(ニュージーランド)に拠点を置くマオリのマタアホ・コレクティブがアルセナーレの一室に詩的に展開した織物構造のインスタレーションにより受賞した。織物の母系的伝統を参照し、子宮に包まれたような、ゆりかごを連想させるインスタレーションについて、審査員は「その圧倒的なスケールは、マタアホ・コレクティブの協働が有する強さと創造性によってこそ実現した技術の賜物である。壁面や床に落ちる影のパターンは、先祖伝来の技法を思わせると同時にこの技術の未来の在り方を示唆する」と評価した。将来を嘱望される若手に与えられる銀獅子賞は、イギリス生まれのナイジェリア人で現在はハンブルクとラゴスを拠点に活動するカリマー・アシャドゥが受賞。アシャドゥは映像作品《Machine Boys》と真鍮の彫刻作品《Wreath》を通じて、視線に関するジェンダー化された前提や賞賛に値するとされているものの転覆を試みている。ナイジェリア北部の農村出身で首都ラゴスに移住し、違法なバイクタクシーの運転手に就いた若い男性たちを取材し、その繊細かつ親密な眼差しで、彼らのバイクのサブカルチャー文化と経済的不安定さを捉えた作品に対し、審査員は、アシャドゥの機械や肉体、衣服の表層への官能的な関心が、男らしさをめぐるパフォーマンスを引き出しつつも鋭く批評する編集の妙を通じて、若者たちの周縁的な存在を明らかにしていると評価した。

 


Mataaho Collective, Takapau (2022) Installation (polyester hi-vis tiedowns, stainless steel buckles and j-hooks) Site specific reconfiguration, Museum of New Zealand, Te Papa Tongarewa, 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia, Stranieri Ovunque – Foreigners Everywhere, Photo: Marco Zorzanello, Courtesy: La Biennale di Venezia


Karimah Ashadu, Machine Boys (2024) Produced by Fondazione In Between Art Film, 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia, Stranieri Ovunque – Foreigners Everywhere, Photo: Andrea Avezzù, Courtesy: La Biennale di Venezia

 

昨年11月に発表された生涯にわたる功績を讃える「栄誉金獅子賞」は、イタリア出身でサンパウロを拠点に活動するブラジル人アーティストのアンナ・マリア・マイオリーノ(1942年スカレーア生まれ)と、エジプト出身でパリを拠点に活動するトルコ人アーティストのニル・ヤルター(1938年カイロ生まれ)のどちらも故国を離れて活動し、第60回展のテーマを「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」を体現するふたりが受賞した。マイオリーノは、粘土を素材とする彫刻、インスタレーションを発展した大規模な新作をアルセナーレ、ヤルターは代表作の《Topak Ev》とその革新的なインスタレーション《Exile is a hard job》の再構成を、ジャルディーニのセントラル・パビリオンの最初の部屋で展示している。

 


Anna Maria Maiolino, INDO & VINDO (2024) Site-specific installation consisting of: Ao finito [To infinity] from the series Terra Modelada (Modeled Earth) (1994/2024) 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia, Stranieri Ovunque – Foreigners Everywhere, Photo: Marco Zorzanello, Courtesy: La Biennale di Venezia


Nil Yalter, Topak Ev (1973), Exile is a hard job (1983-2024) 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia, Stranieri Ovunque – Foreigners Everywhere, Photo: Matteo de Mayda, Courtesy: La Biennale di Venezia

 

第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ各賞

国別参加部門|金獅子賞
オーストラリア館「kith and kin
キュレーター:エリー・バットローズ(Ellie Buttrose)
参加アーティスト:アーチー・ムーア(Archie Moore)
会場:ジャルディーニ
国別参加部門|特別表彰
コソヴォ館「The Echoing Silences of Metal and Skin
キュレーター:エレミレ・クラスニキ(Erëmirë Krasniqi)
参加アーティスト:ドルンティナ・カストラティ(Doruntina Kastrati)
会場:Museo Storico Navale della Marina Militare, Riva S. Biasio 2148

企画展参加アーティスト部門|金獅子賞:マタアホ・コレクティブ(Mataaho Collective)
企画展参加アーティスト部門|銀獅子賞:カリマー・アシャドゥ(Karimah Ashadu)
企画展参加アーティスト部門|特別表彰:サミア・ハラビー(Samia Halaby)
企画展参加アーティスト部門|特別表彰:ラ・チョラ・ポブレーテ(La Chola Poblete)

生涯にわたる功績を讃える「栄誉金獅子賞」
アンナ・マリア・マイオリーノ(Anna Maria Maiolino)
ニル・ヤルター(Nil Yalter)

審査員
ジュリア・ブライアン゠ウィルソン(キュレーター、コロンビア大学教授/アメリカ合衆国)
アリア・スワスティカ(キュレーター、ライター/インドネシア)
チカ・オケケ゠アグル(キュレーター、美術批評家/ナイジェリア)
エレナ・クリッパ(キュレーター/イタリア)
マリア・イネス・ロドリゲス(キュレーター/フランス−コロンビア)

Copyrighted Image