Left: Hoor Al Qasimi, photo by SEBASTIAN BÖETTCHER, Right: Okwui Enwezor, photo by Chika Okeke-Agulu.
2019年11月、シャルジャ・アートファウンデーションは、2021年3月に開催予定の第15回シャルジャ・ビエンナーレのキュレーターを、今年3月に逝去した故オクウィ・エンヴェゾーが務めると発表した。
生前にエンヴェゾーが考案した総合テーマは、「Thinking Historically in the Present」。1993年以来、現在にいたるまで14回重ねてきたシャルジャ・ビエンナーレを振り返り、その展望を思い描く展覧会を目指す。2018年春の時点から構想を膨らませていたエンヴェゾーは、シャルジャ・ビエンナーレを芸術の単一言語主義を打ち砕くような力を扱うモジュール、同時に、「いま、歴史的に考える」ためのもうひとつの理論的空間を着想する可能性の地平として思い描いていた。同展に込めたエンヴェゾーのコンセプトは、歴史、政治、社会にかかわり、それらがいかに現在をかたちづくっているのかを検討するプラットフォームとしての美術展という主張を再確認するものと言えるだろう。
エンヴェゾーの意向の下、シャルジャ・アートファウンデーションのディレクター、ホーア・アル・カシミが共同キュレーターを務める。アル・カシミは近年、アマル・ケナウィ、ハッサン・シャリフ、草間彌生らの個展を企画し、エジプトのシュルレアリスムを扱った『When Art Becomes Liberty: The Egyptian Surrealists』や、1945年以降のスーダンの美術を扱った『The Khartoum School: The Making of the Modern Art Movement in Sudan』などのキュレーションに携わっている。また、2015年には第56回ヴェネツィア・ビエンナーレUAE館のキュレーターを務め、2020年開催の第2回ラホール・ビエンナーレでもキュレーターを務める。また、ワーキンググループとして、エンヴェゾーと長きにわたって協働関係にあったインディペンデントキュレーターのタレク・アブ・エル・フェトー、南洋理工大学シンガポール現代アートセンター創設ディレクターのウテ・メタ・バウアー、コーネル大学教授で美術史家のサラ・M・ハッサン、プリンストン大学教授で美術史家のチカ・オケケ=アグルが展覧会制作に参加。さらに、エンヴェゾーのコンセプトの実現、展開のために、アル・カシミとワーキンググループは、建築家のデイヴィッド・アジャイ、アーティストのジョン・アコムフラー、アシュカル・アルワン ディレクターのクリスティン・トーメを諮問委員会に招聘した。来年3月に開かれるマーチ・ミーティング(MM 2020)から、第15回シャルジャ・ビエンナーレに向けた本格的な始動がはじまり、これまでの同ビエンナーレに関わったキュレーターやアーティストをはじめ、美術史家や批評家を交えて、中東地域における同ビエンナーレの役割、グローバルな現代美術界における同ビエンナーレの役割などを検討する。
ナイジェリア南東部のカラバル出身のオクウィ・エンヴェゾー(1963-2019)は、ポストコロニアリズムや政治的な問題を積極的に扱うとともに、欧米規範を超えた意識を問いかけつづけたキュレーターとして知られる。サンフランシスコ・アート・インスティテュートの副学長および人文科学部長、ニューヨークの国際写真センター(ICP)の客員キュレーターなどを歴任し、2011年から2018年まで、ミュンヘンのハウス・デア・クンストのディレクターを務めた。エンヴェゾーが手がけた数々の展覧会のうち、主な国際展として、第56回ヴェネンツィア・ビエンナーレ「All the World’s Futures」(2015)やドクメンタ11(1998-2002)をはじめ、パリ・トリエンナーレ(2012)、第7回光州ビエンナーレ(2008)、第2回セビーヤ・ビエンナーレ(2006)、第2回ヨハネスブルグ・ビエンナーレ(1997)が挙げられる。また、国際展以外では、『Postwar: Art Between the Pacific and the Atlantic, 1945-1965』(ハウス・デア・クンスト、2016)、『Rise and Fall of Apartheid: Photography and the Bureaucracy of Everyday Life』(ニューヨーク国際写真センター、2012)、『Archive Fever: Uses of the Document in Contemporary Art』(ニューヨーク国際写真センター、2008)、『Snap Judgments: New Positions in Contemporary African Photography』(ニューヨーク国際写真センター、2006)、『The Short Century: Independence and Liberation Movements in Africa, 1945–1994』(ヴィラ・シュトゥック美術館、マルティン・グロピウス・バウ、P.S.1、2001-2002)、『In/Sight: African Photographers, 1940–Present』(グッゲンハイム美術館、1996)などが挙げられる。そのほか、現代のアフリカ美術とアフリカ・ディアスポラ美術を中心に扱うNkaジャーナル・オブ・コンテンポラリー・アフリカン・アート誌を1994年に共同で創刊している。
第15回シャルジャ・ビエンナーレ「Thinking Historically in the Present」:
http://sharjahart.org/biennial-15
過去のテーマとキュレーター
2019年(第14回)「Leaving the Echo Chamber」
ゾーイ・バット、オマール・コレイフ、クレア・タンコンズ
2017年(第13回)「Tamawuj」
クリスティン・トーメ
2015年(第12回)「The past, the present, the possible」
エゥンジ・ジュ
2013年(第11回)「Re:emerge Towards a New Cultural Cartography」
長谷川祐子
2011年(第10回)「Plot for a Biennial」
スザンヌ・コッター、ラシャ・サルティ
2009年(第9回)「Provisions for the Future and Past of the Coming Days」
イザベル・カルロス、タレク・アブ・エル・フェトー
2007年(第8回)「Still Life: Art, Ecology, and the Politics of Change」
モハメッド・カゼム、エヴァ・シャーラー、ジョナサン・ワトキンス
2005年(第7回)「Belonging」
ジャック・パーセキアン、(共同キュレーター:ケン・ラム、ティルダッド・ゾルガダ)
2003年(第6回)
ディレクター:ホーア・アル・カシミ、キュレーター:ピーター・ルイス
2001年(第5回)
※シャルジャ首長国文化情報局主催で国単位で参加アーティストを選定
1999年(第4回)
※シャルジャ首長国文化情報局主催で国単位で参加アーティストを選定
1997年(第3回)
※シャルジャ首長国文化情報局主催で国単位で参加アーティストを選定
1995年(第2回)
※シャルジャ首長国文化情報局主催で国単位で参加アーティストを選定
1993年(第1回)
※シャルジャ首長国文化情報局主催で国単位で参加アーティストを選定