あいちトリエンナーレ2019

 

2019年8月1日、芸術監督の津田大介が掲げるテーマ「情の時代(Taming Y/Our Passion)」の下、あいちトリエンナーレ2019が開幕する。愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(四間道・円頓寺)、豊田市(豊田市美術館及び豊田市駅周辺)を舞台に、国際現代美術展、映像プログラム、パフォーミングアーツ、音楽プログラム、ラーニングといった枠組みを時に横断しつつ、世界各地で活動する81組のアーティストが、揺れ動く人間の感情や情動、情報テクノロジー、人間の持つ根源的な情や憐れみといった観点を軸に多彩な表現を展開する。

愛知芸術文化センターは、国際現代美術展では本展最多となる35組のアーティストが出品するほか、映像プログラム、パフォーミングアーツ、音楽プログラムの会場として、本トリエンナーレの拠点となる。本会場の国際現代美術展に出品するのは、日本の外国人労働者が過去最多を更新したことに着目し、愛知県内在住のラテンアメリカ系移民と協働制作したレジーナ・ホセ・ガリンド、擬似的な家族をテーマにした新作映像インスタレーション「抽象・家族」を発表する田中功起、商業的あるいは学術的利益に基づいた生体情報の搾取の問題を提示するヘザー・デューイ=ハグボーグ、「恐れのない調査報道」の取材結果をアニメ、演劇、ヒップホップ、アプリなどで展開してきたCIR(調査報道センター)、地域コミュニティや先住民族が直面する問題に木版画表現などを通じて声をあげてきたアーティスト、音楽家、社会活動家などで構成されるパンクロック・スゥラップ、歴史とメディアのイデオロギー操作によって引き裂かれてしまった国家間に共通する民族の「情」について表現してきたイム・ミヌク、「アルテ・ウティル(有用芸術)」を提唱し、社会変革を目指したパフォーマンスやインスタレーションを発表してきたタニア・ブルゲラなど。

 


タニア・ブルゲラ「10,148,451」2018年、テート・モダン・ヒュンダイ・コミッション 
Photo: Tate Modern、Courtesy of Estudio Bruguera

 

続いて、名古屋市美術館に出品するのは、インターネット上で集めた画像をPhotoshopやCADを通じて再構成し、絵画に落とし込む今津景、本トリエンナーレが標榜する「男女平等」を象徴するアーティストとして今春の記者会見でも取り上げられたモニカ・メイヤー、旧ユーゴスラビアを故郷に持ち、「母国語以外の言語を話すとき、私の言葉は『私が話す言葉』と『私を話す言葉』の狭間にある」と語るカタリーナ・ズィディエーラーら12組。また、本トリエンナーレより新しくまちなか展示エリアとなった四間道・円頓寺では、シンプルな仕掛けを通じて、場所の特性を明らかにしてきたアイシェ・エルクメン、公共空間における個人の抵抗をテーマにしてきた葛宇路(グゥ・ユルー)、「アマチュアであること」の文化的な重要性を掘り下げる方法についてコラボレーションを継続する洪松明(ソンミン・アン)ジェイソン・メイリングらが同エリアの屋内外で作品を発表し、音楽プログラムでは、インドの古典楽器のタブラ奏者のユザーンが40日に渡って1日10時間の音楽修行を試み、「円頓寺デイリーライブ」(長久山円頓寺駐車場)や「なごの音楽祭」(まちなか農園えんどうじ)のために組まれるステージの壁画を鷲尾友公が手がける。

 


カタリーナ・ズィディエーラー「Shoum」2009年


梁志和+黄志恒「Girl In A White Shirt With Ponytail」2014年

 

本トリエンナーレでは新たに豊田市がメイン会場のひとつとなる。豊田市駅周辺エリアでは、近代彫刻、とりわけ近代黎明期や戦時下における日本の彫刻を、作品制作だけでなく執筆、書籍編集などを通じて批評的に扱う小田原のどか、個人としての制作のみならず絵画教室「お絵描きのお家」を主宰し、生徒ともに協働プロジェクトを継続する和田唯奈(しんかぞく)、自動車産業従事者と共に制作した作品を発表するアンナ・ヴィットらが出品。豊田市美術館では、古代神話や東洋思想、チェコの伝統文化や美術に、SF的想像力を織り交ぜた表現を展開するアンナ・フラチョヴァー、隠された権力構造、不安的な生存の本質、そして特権階級だけがアクセスすることのできる情報と一般市民が知りえる情報の間の分断に注意を促すプロジェクトを展開するタリン・サイモンらが出品。そして、社会の中で見えにくくなっている問題を、個人的体験や身体感覚に引き寄せ、特定の表現方法に固執することなく多彩な作品を発表してきた高嶺格は、豊田市美術館と美術館に隣接する旧豊田東高等学校のプールで作品を発表する。また、9月21日には豊田市美術館で田中功起の『抽象・家族』の映像上映とアッセンブリーが開かれ、9月21日と22日には豊田市市民会館で劇団うりんこ+三浦基+クワクボリョウタによる『幸福はだれにくる』が上演される。また、愛知県内の4市町で移動型展覧会「モバイル・トリエンナーレ」を開催。同展示には、20組のあいちトリエンナーレ2019参加アーティストが出品するほか、設楽町(8/23-8/25)ではパンクロック・スゥラップ、津島市(8/30-9/1)では鷲尾友公、小牧市(9/6-9/8)では今村洋平、東海市(9/20-9/23)では碓井ゆいがそれぞれワークショップを行なう。

75日間の開催にあたり、愛知県芸術劇場大ホールで開かれる音楽プログラムは、サカナクションが8月7日から8月11日、純烈が9月15日と16日に公演を行ない、演劇を中心に現代美術との領域横断を積極的に試みるパフォーミングアーツ部門は、3つの期間(8/1-8/4、9/6-9/8、10/11-10/14)に集中的にプログラムを配置している。また、映像プログラムは、名古屋駅駅前のミッドランドスクエア シネマを会場とする8月9日の特別オールナイト上映を除き、9月15日から9月29日の期間に本プログラム委嘱作品となるカンパニー松尾の『A Day in the Aichi(仮)』、平成29年度愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品の小森はるかの『空に聞く』、昨年、東海テレビローカルで放送され話題となった東海テレビ放送が制作したドキュメンタリー『さよならテレビ』、パフォーミングアーツ部門にも参加しているミロ・ラウの『コンゴ裁判』など全15作品で構成されたプログラムを愛知芸術文化センター12F アートスペースAで上映する。

 


アンナ・ヴィット「Sixty Minutes Smiling」2014年


市原佐都子(Q)『地底妖精』 2017、SCOOL、東京、Photo: Mizuki Sato、Courtesy of Q

 

なお、本トリエンナーレ会期中には、豊田市美術館での連携企画事業『クリムト展 ウィーンと日本1900』(7/23-10/14)、愛知県立芸術大学 サテライトギャラリーSA・KURAで、ロンドンでの20年間にわたる制作活動を経て、愛知県立芸術大学で教授を務めていた寺内曜子の個展『寺内曜子 退任展』(8/9-9/8)、名古屋の港まちを舞台に、あいちトリエンナーレ2019参加アーティストの碓井ゆいやアーツ前橋で個展『山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX』が開かれている山本高之らが参加するアッセンブリッジ・ナゴヤ2019(9/7-11/10)などが開催される。そのほか、関連企画の予定はないが、名古屋大学と公益財団法人東海ジェンダー研究所の連携により2017年に開館した「名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ(GRL)」も本トリエンナーレが標榜する「男女平等」をより深く考えるために訪問する価値のある施設のひとつに挙げられる。

 

あいちトリエンナーレ2019「情の時代」
2019年8月1日(木)-10月14日(月・祝)
https://aichitriennale.jp/
愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(四間道・円頓寺)、豊田市(豊田市美術館及び豊田市駅周辺)
AD:津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

 

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