シアターコモンズ ’26「コモンズを翻訳する」

 

シアターコモンズ ’26「コモンズを翻訳する」
2026年2月22日(日)-3月8日(日)
東京都内複数会場(SHIBAURA HOUSE、日本科学未来館、ゲーテ・インスティトゥート東京)
https://theatercommons.tokyo/
チケット購入について:https://theatercommons.tokyo/ticket/

 

演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すプロジェクトとして、演劇や各種パフォーマンス、観客参加型のプログラムなどを実施する「シアターコモンズ’26」が、2026年2月22日より都内複数会場にて開催される。

10周年となる今回は「コモンズを翻訳する」をテーマに掲げ、これまで10年間欠かさず参加してきた唯一の存在でありながら、一度も「参加作家」としてクレジットされてこなかった翻訳者集団、Art Translators Collective(ATC)をクリエイティブパートナーに迎える。ディレクターの相馬千秋は、翻訳と通訳を担ってきたATCこそが「「演劇の共有知(コモンズ)を活用して、社会の共有地(コモンズ)をつくる」というシアターコモンズの理念を体現した存在であったと言っても過言ではない」と述べ、「人間の翻訳(創造行為)は死ぬのか?」というATCからの問いを起点に、シアターコモンズ全体へと敷衍しながら、AIとの拮抗が不可避となる近未来の演劇のコモンズ(共有知/共有地)をめぐる議論を立ち上げようとする。

 

Art Translators Collective(ATC)「翻訳の葬式」 © Keith SpencerPhoto by Yutaro Yamaguchi
Art Translators Collective(ATC)「翻訳の葬式」 Photo by Yutaro Yamaguchi

 

ATCは今回SHIBAURA HOUSEを会場に、人間による翻訳行為の死に向き合うプロジェクトとして「翻訳の葬式」をタイトルに据え、パフォーマンスやワークショップ、絵画など、自らが企画、出演する作品創作を通じて、終わりと向き合うことでしか見えてこない未来への創造や想像力を引き出そうとする。

通訳者の田村かのことアーティストのマユンキキは、マジョリティ/マイノリティそれぞれの立場から行なう言語実践を軸に、対話パフォーマンス「がんばっていこう」を行なう。日本語を第一言語とするアイヌとして、公の場で英語を話さない選択をしたマユンキキと、和人の日本語/英語の通訳兼コラボレーターとしてマユンキキの海外活動に帯同している田村かのこは、4年間の協働のなかで得た経験や学び、葛藤を対話形式で振り返りながら、言語の脱植民地化/先住民化について考察する。

作曲家および通訳者として“聴取”の脱植民地化に向けた実践を重ねてきた樅山智子と、サイン・ミュージシャンでろう詩人のSasa-Marieは、70年代のアメリカにおけるクィア・アクティビズムとして“聴くこと”の復権を追求した作曲家ポーリン・オリヴェロスによる「ソニック・メディテーション」を再解釈し、聴覚や視覚を超えて倫理的かつ美的に“聴く”快楽を共有するための参加型パフォーマンス「トランス・ソニック・メディテーション」を行なう。

翻訳家、通訳者、ドラマトゥルクとして舞台芸術界に独自の足場を築いてきた平野暁人は、「快快-FAIFAI-」結成と脱退、タイを拠点とした活動などを経て、現在では国内外で広く活躍する演出家、作家の篠田千明を迎え、ソロパフォーマンス「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」を展開する。あらゆる創作を「翻訳」の一形態として捉える汎翻訳主義の立場から、テクスト(二次元)をパフォーマンス(三次元)へと自ら「翻訳」することで新たな回路とグルーヴを探る。

ベルリンを拠点に活動する映像作家、翻訳者のリリアン・キャンライトは、家族歴や都市空間、人類学者タラル・アサドの世俗主義論やアメリカの愛国歌の形成過程といったさまざまな枠組みによって構成する、ライブビデオエッセイ=レクチャーパフォーマンス「What are we doing where are we going」を行なう。

SHIBAURA HOUSEの各フロアで展開される「翻訳の葬式」のハブとして、通訳、劇作家、俳優の植田悠による翻訳をめぐる一人芝居や、画家で翻訳者のキース・スペンサーによる絵画作品の展示、作品に関連したブックフェアやATCメンバーによる感想シェアトークなど、人や思考、出来事が交差する中継地点としてATCステーションを立ち上げる。シアターコモンズの来場者誰もが立ち寄ることのできる「ステーション」での滞在は、各フロアで起こる出来事を横断し、翻訳し、接続し直す時間となる。

 

アンヌ゠ソフィ・テュリオン&エリック・ミン・クォン・カスタン「HIKU」 © Dana Galindo
原田裕規「スリープ」

 

ともに身体と共同体の関係を実験的な手法で問い続けるフランス人アーティストのアンヌ゠ソフィ・テュリオンエリック・ミン・クォン・カスタンは、ひきこもり支援団体「NPO法人ニュースタート事務局関西」との協働のもと、「ひきこもり」に関わる人々とともに創作したパフォーマンス「HIKU」を上演する。ヴィラ九条山のポスト・レジデンス・プログラムとして実施された本作では、重度のひきこもりを体験し社会復帰の段階にある当事者たちや、彼らと関わりのあるコミュニティの人々が、パフォーマーとして自身の部屋からロボットを遠隔操作し、アバターとして舞台に登場する。舞台空間はフラットで、彼らの過去や現在、活動や心象を映し出す映像と、ロボットによって代理される彼らの存在、そして地べたに座る観客たちが奇妙にもゆるやかに共存する。やがて通訳役を兼ねるパフォーマーが媒介する対話を通じて、観客を親密な世界の中心へ巻き込んでいく。

写真、映像、CG、パフォーマンス、キュレーションなど多岐にわたるメディアを駆使し、独自の表現活動を展開するアーティストの原田裕規は、ゴヤの絵画《理性の眠りは怪物を生む》を参照しながら、振付家ハラサオリとの協働を通じて、VR自体をテーマにしたパフォーマンス作品「スリープ」をSHIBAURA HOUSEの空間に展開する。

第63回岸田國士戯曲賞受賞作家の松原俊太郎と、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクは、「魔法使いの弟子たちの美しくて馬鹿げたシナリオ」を上演する。本作は豊岡演劇祭2025で世界初演され、スペースノットブランクの演出のもと、松原戯曲の初期から一貫して扱われてきた「私」と「世界」と「時間」の「複数であること」を、ホグワーツ魔法魔術学校の元生徒たちとともにあらためて問う。

また、シアターコモンズで培われてきたキュレーションの思想と実践を次世代と共有する特別プログラム「次世代のキュレーターのためのコモンズ・キャンプ2026」を開催する。会期中、国内外から演劇祭ディレクターやドラマトゥルク、アーティストらを講師に迎え、レクチャー、フィールドワーク、インディペンデント・アートスペース視察、シアターコモンズへの参加などを通して、未来の企画の種を育てるプログラムとなる。なお、各レクチャーはアーカイブでの配信も実施するため、全6回の通し券または各回の単券の購入で、視聴することができる。

会期中には、チューリヒ市立劇場のレパートリー作品として上演された市原佐都子の代表作『バッコスの信女—ホルスタインの雌』の記録映像を日本語字幕付きで上映し、その前後にトークを行なうほか、「『翻訳』の悦楽と逸脱──AI時代の人間の創造性はどこへ向かうのか?」、「『共に居られる場』が生まれるとき──演劇『HIKU』とひきこもりをめぐって」などのフォーラムを開催。各プログラムの詳細や開催日時、チケットの購入方法等は、公式ウェブサイトを参照。

 

松原俊太郎 / 小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク「魔法使いの弟子たちの美しくて馬鹿げたシナリオ」 撮影:3waymoon 画像提供:豊岡演劇祭実行委員会

 

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