
恵比寿映像祭2026「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」
2026年2月6日(金)–2月23日(月・祝)
https://www.yebizo.com/
東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス各所、地域連携各所ほか
開催時間:10:00–20:00(最終日は18:00まで)
休館日:月
※コミッション・プロジェクト(3階展示室)のみ、映像祭終了後も2月25日(金)から3月22日(日)まで開催
開場時間は10:00–18:00(木、金は20:00まで)
メインキュレーター:邱于瑄[チィウ・ユーシュェン]
「映像とは何か?」という根源的な問いに対して、毎年異なるテーマによるアプローチを試みてきた恵比寿映像祭が、「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」を総合テーマに、2月6日より2月23日までの16日間にわたって開催。展示や上映はもちろん、パフォーマンス、ライヴ・イヴェント、シンポジウムなどの多彩なプログラムが、東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺地域各所にて展開される。
本年度のメインキュレーターを務めるのは、台湾出身の邱于瑄[チィウ・ユーシュェン]。邱は、2023年より恵比寿映像祭のキュラトリアルチームに参加し、今回初のメインキュレーターを務める。総合テーマは、「日花」(ジッホエ/Jīt-hue)と「聲音」(シアーイン/Siann-im)を組み合わせた台湾語で、ひとつとして同じものがないさまざまな声音が響く空間に、木々の間から洩れた光が差し込む様子を表す。長い歴史の変遷によりさまざまな文化が積層した台湾の言葉を導線に、いまの社会に存在する多様な文化、言語などが互いに影響し合う複層的な形に柔らかく光を注ぐ思いの下で、恵比寿映像祭2026を構成していく。
張恩滿[チャン・エンマン]《蝸牛樂園三部曲—啟航或終章》(カタツムリ楽園三部作—出航か終章か)高雄市立美術館蔵
侯怡亭《所有的小姐 Sóo-ū-ê sió-tsiá》(レイディたち)2015年 Courtesy of the Artist
アンジェリカ・メシティ 《The Rites of When》(時にまつわる儀式)2024年 Courtesy of the Artist and Galerie Allen Commissioned by the Art Gallery of NSW, Sydney
映像祭の核となる展示部門は、昨年とは異なり、東京都写真美術館地下1階展示室に始まり、同館2階展示室へと続く。本年度は、写真、映像、サウンド、パフォーマンスなど多様なメディアを横断し、人類学的な視点から「声」「環境」「記憶」「誤読」をテーマに展開。長い歴史の中で交差してきた人や文化の往来を手がかりに、混ざり合う環境に潜む“聞こえにくい声”の広がりの可視化を目指す。
地下1階展示室では、台湾原住民族のルーツを持つ張恩滿[チャン・エンマン]が、カタツムリをモチーフに異なる土地を渡り定着してきた生き物の記憶と、変化し続ける環境のなかで未来へと受け継がれる姿を表現した船形のインスタレーション《蝸牛樂園三部曲―啟航或終章》、視覚障害のある人々への聞き取りを通して先入観や誤解というズレを手がかりに、「見ること」を問い直す鶴巻育子によるプロジェクト〈ALT〉、トモコ・ソヴァージュ、キュンチョメ、冥丁の作品を展示。2階展示室では、日本文化の影響を受けた台湾語の歌詞を刺繍として表現し、言語の背景にある歴史や社会の記憶を浮かび上がらせる侯怡亭[ホウ・イーティン]の《所有的小姐 Sóo-ū -ê sió-tsiá》や、田中未知/高松次郎による言語楽器《パロール・シンガー》を、高松次郎のドローイングや寺山修司の関連資料とともに再構成した展示、アンジェリカ・メシティ、チョン・ソジョン、FAMEME、スーザン・ヒラーの作品を紹介する。
会期中には、1Fホールやスタジオなどを会場に、従来の映像の枠を超えたパフォーマンスやワークショップなども開催。また、恵比寿映像祭における新たな試みとして、演劇プログラムを取り入れ、下北沢を拠点とする劇団ゴツプロ!と台湾の北投を拠点とする峸劇場と共同制作した新作《拝啓》を日本初公開。台湾と日本、戦後史の狭間で交錯した7通の手紙を通じて、これまで語られなかった人々の声をすくい上げる。
ゴツプロ!×峸劇場 共同制作《敬啓者》(拝啓)2025年 Photo by Rosaline Lu, Courtesy of 山峸製作設計
小森はるか《春、阿賀の岸辺にて》2025年
2023年に始動した「コミッション・プロジェクト」の会場となる3階展示室では、昨年度の最終候補4名によるプレゼンテーションを経て、特別賞を受賞した小森はるかが新作2作品を発表する。ドキュメンタリーの歴史を受け継ぎながら、見過ごされてしまう風景や人の営みに丁寧に目を向ける小森が、総合テーマと呼応させた展示構成に挑む。なお、1階ホールの上映プログラムにて、小森の「コミッション・プロジェクト」特別賞受賞作品《春、阿賀の岸辺にて》をはじめ、同作の原点とも言える佐藤真の《阿賀に生きる》(1992)やその続編となる《阿賀の記憶》(2004)を関連企画として上映する。
同じく3階展示室では、東京都の6つのミュージアム(江戸東京博物館、東京都写真美術館、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、東京都美術館、江戸東京たてもの園)が管理・活用する東京都が所有する東京都コレクションを特別公開。エキソニモの《Joiner ‒ Colage Camera》(2010)、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』(1802–1814)、全日本写真材料商組合連合会による昭和中期の《カメラ双六》、さわひらきの《pilgrim》(2022)などを出品予定。
エキソニモは、恵比寿ガーデンプレイス センター広場を会場とするオフサイト展示でも、代表作のひとつ《Kiss, or Dual Monitors》を約4mに及ぶ巨大LEDウォールにした2026年新ヴァージョンを発表。また、恵比寿スカイウォークのオフサイト展示では、FAMEMEがドリアンと香水を融合した新感覚の新作《Duri-grance by FAMEME》を発表する。
FAMEME《Duri-grance by FAMEME》2026年 Courtesy of the Artist
河合健《みんな、おしゃべり!》2025年 ©2025 映画『みんな、おしゃべり!』製作委員会
映像祭のもうひとつの核となる上映プログラムは、1階ホールを会場に上述した「コミッション・プロジェクト」関連企画のほか、劇映画から実験映画、上映と演奏を組み合わせた表現など、総合テーマ「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」に沿って多彩な作品を紹介する。
ろう者を親に持つCODA(コーダ)の映画監督、河合健が、日本手話とクルド語を題材に執筆したオリジナル脚本で、日本語社会下の言語格差が生む溝をシニカルに描いた喜劇《みんな、おしゃべり!》(2025)は、声や会話、場の生成をめぐり、コミュニケーションのあり方そのものを問い直す。日本初公開の海外作品としては、ロンドンを拠点に活動し、さまざまな素材や技法を駆使し、歴史の周縁に取り残されてきた声、自伝的な要素、そして実験映画が培ってきた形式的手法を映像のなかに立ち上げてきたモーガン・クウェインタンス、ソウルを拠点に活動し、映像インスタレーション、テキスト、サウンドを軸とした表現を展開してきたチョン・ソジョンの作品に注目。チョン・ソジョンの上映作品のひとつ、音の新たな可能性を求めて長年活動してきたアジアの女性たちが、母国語に拠らずに国境を越えて移動する姿を追った、旅日記のような側面を持つ《싱코피》(シンコペ)は、2階展示室でも展示作品として公開される。
そのほか、アメリカ合衆国のフィラデルフィアを拠点に戦後日本の実験映画・ビデオ作品の記録・保存課題に取り組み、研究者や一般へのアクセス提供を目的とする非営利団体コラボラティブ・カタロギング・ジャパン(CCJ)によるプログラム「音の風景:小杉武久とタージ・マハル旅行団の映像と音楽」や、爆音映画祭を主宰する映画評論家の樋口泰人がプログラマーを務めた井手健介と甫木元空による上映&ライブパフォーマンス「『エクスネ・ケディの幽体離脱』とライヴ」。そして、「コミッション・プロジェクト」の第1回(2023)参加作家であり、昨年10月に急逝した映像作家、大木裕之の追悼特集なども行なわれる。
チョン・ソジョン《싱코피》(シンコペ)2023年 Courtesy of the Artist
ふじいせいいち《Body Wave》1971年
大木裕之《meta dramatic 劇的》2023年 東京都写真美術館蔵