コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ @ 東京国立近代美術館

松本竣介《並木道》1943年 東京国立近代美術館

 

コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ
2025年7月15日(火)-10月26日(日)
東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
https://www.momat.go.jp/
開館時間:10:00–17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし7/21、8/11、9/15、10/13は開館)、7/22、8/12、9/16、10/14
展覧会URL:https://www.momat.go.jp/exhibitions/563

 

東京国立近代美術館では、「昭和100年」にあたり、なおかつ「戦後80年」を迎える2025年という節目の年に、コレクションとアーカイブ資料を駆使することで美術に堆積した記憶を読み解きながら、多様な視点で歴史に迫る美術館の可能性を探る「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」を開催する。

しばしば美術は「時代を映し出す鏡」と言われ、その視覚的なイメージには、作家の感性を介して、制作時の世相や文化が刻印されている。それだけではなく、美術は時代を超えて生き続けることにより、後の世代によって新たに意味づけられるものでもある。つまり美術が映し出すのは、作品が生み出された過去の一点から現在に至る時間の流れの中での、人々の美意識や社会と歴史を見つめる眼差しの変化とも考えられる。

 

北川民次《ランチェロの唄》1938年 東京国立近代美術館
和田三造《興亜曼荼羅》1940年 東京国立近代美術館
中村研一《コタ・バル》1942年 東京国立近代美術館(無期限貸与)

 

1952年に開館した日本で最初の国立美術館であり、重要文化財18点(うち2点は寄託)を含む14,000点近い国内最大級のコレクションを収蔵する同館では、会期ごとに約200点を展示し、それぞれ小さなテーマが立てられた全12室のつながりによって、19世紀末から今日に至る日本の近現代美術の流れをたどることができる「MOMATコレクション」を開催し、近年は戦前、戦中、戦後の様子を描いた重要な作品を継続的に展示してきた。

本展は、「絵画は何を伝えたか」「アジアへの/からのまなざし」「戦場のスペクタクル」「神話の生成」「日常生活の中の戦争」「身体の記憶」「よみがえる過去との対話」「記録をひらく」の全8章構成で、1930年代~1970年代の美術を資料を交えながら展示する。

主な展示作品に、革命後の壁画運動に沸く1920年代のメキシコで新進画家、そして教育者として出発し、生涯にわたって権威に抵抗した北川民次(1894-1989/静岡県生まれ)が、男たちが奏でる音楽によって集団催眠状態に陥って踊り狂う民衆の姿を描き、戦時体制を遠回しに批判した《ランチェロの唄》(1938)。同館所蔵の重要文化財のひとつ《南風》(1907 ※所蔵作品展に出品)を描いたことでも知られる和田三造(1883-1967/兵庫県生まれ)が、第二次世界大戦下に、欧米列強の支配からアジアを解放する「大東亜共栄圏」構想のビジョンを描いた《興亜曼荼羅》(1940)。第二次大戦中は妻の父親が海軍少将だったこともあり、積極的に戦争記録画の制作へと関わった中村研一(1895-1967/福岡県生まれ)が、敵の視点からの日本軍の進撃を描き、群像表現に織り込まれた「身ぶり」を介して奮闘する兵士の姿を劇的に表現しつつ、残虐な場面は忌避した《コタ・バル》(1942)。

戦争画を描かなかった一方で、静まりかえった戦時下の東京や横浜の街を描いた松本竣介(1912-1948/東京府生まれ)が、戦禍が拡大し、自由な制作発表が限られていた状況のなかで開かれた新人画会第2回展に出品した《並木道》(1943)。1944年に召集を受け、帰国かなわず戦後まもなく上海で病死した靉光(1907-1946/広島県生まれ)が戦地に赴く直前に描き、その年の新人画会展に出品するように友人に託した《自画像》(1944)。戦時中に松本竣介、靉光らと共に新人画会を結成し自らの制作を続け、戦後は政治家たちへの風刺や反戦など社会的なテーマを描いた井上長三郎(1906-1995/兵庫県生まれ)が、ヴェトナム戦争下に、身体の一部が歪められたり身体に穴があけられたりしている人の姿を描いた《ヴェトナム》(1965)など。

 

靉光《自画像》1944年 東京国立近代美術館
井上長三郎《ヴェトナム》1965年 東京国立近代美術館

 

なお、同時開催のMOMATコレクションでは、戦後80年という節目に関わる企画のほか、戦後の女性画家たちの作品を紹介。三岸節子ら、戦後まもない時期に、それぞれの困難と向き合いながら、たゆまず制作を続けた女性たちの作品を取り上げる。さらに、今年生誕100年を迎えるロバート・ラウシェンバーグの作品や、菊畑茂久馬の没後5周年にあわせ作品を所蔵する国内各地の美術館を横断的につなぐ企画「LINKS – 菊畑茂久馬」に参加し、菊畑作品を展示する。また、日韓国交正常化60周年を記念する小企画「コレクションにみる日韓」では、韓国現代美術を代表するパク・ソボ[朴栖甫]とソン・ヌンギョンの新収蔵品を展示するとともに、コレクションを通して日韓の歴史を振り返る。

 

パク・ソボ[朴栖甫]《描法 No.2-74》1974年
ソン・ヌンギョン《現場:オルシグ!》1985年

 

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