石上純也、モスクワの科学技術博物館の増改築プロジェクト決定


画像提供 石上純也建築設計事務所

2011年10月14日、モスクワの科学技術博物館の増改築プロジェクトのコンペティションで、第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を受賞したことが記憶に新しい石上純也の案が選ばれた。

モスクワの科学技術博物館は1872年、第1回全ロシア工業技術博覧会の後に設立。世界で最も歴史の長い科学博物館のひとつであると同時に、ロシア最大の科学技術博物館でもある。イッポリート・モニゲッティ(1819–1878)の設計によるビザンチンリバイバル様式の建物が1875年に完成したが、その後も増築が30年ほど続き、N.A.ショーヒン、A.E.ヴェーバー、G.I.マヤケフらにより1896年には北棟が、1907年には大講堂を含む南棟が建てられた。展示内容はソビエトの科学技術史を軸に、化学、金属学、交通、エネルギー、光学、コンピューター工学、電波技術、コミュニケーション、宇宙探査など多岐に渡る。18世紀の人型ロボットや最初期のソビエトのコンピューターなど17万点近くの貴重な展示物や資料等を所蔵する。

コンペティションはメドヴェージェフ大統領の推進により開催が決定し、2010年7月に発表された。ロシアの新聞報道によれば、国がすでにこのプロジェクトのために76億ルーブル(約190億円)を予算として確保しているとのこと。15名の委員のうち9名が石上の案を選び、残る6名は内部空間の合理的な活用を重視したアメリカのリーサー・アーキテクチャーの案を選んだ。ファイナリストは他にサンクトペテルブルクのスタジオ44とモスクワのプロジェクト・メガノム、そしてオランダのノイトリング・リーダイク・アーキテクツ。石上の案のコンセプトには1973年にシドニーオペラハウスの構築に関わったことで知られるイギリスのアラップ社が協力した。

今回の石上のコンセプトは「公園のような美術館」。多くの人に開かれ、親しみやすい場所であると共に、あらゆる用途に柔軟に対応できる空間を創ることを提案している。コンペティション事務局側が出した、建物にもともと存在する中庭に屋根をつけるという条件には、石上建築の特徴である、透明感を最大限に生かした案を提示。1年を通じて空を直に感じることの出来る中庭を作る。

石上案の最大の特徴はこの中庭を1階部分ではなく、地下部分に展開するという点。長年の使用のため劣化し、倉庫などとして使われていた地下部分を上に記した透明の屋根を持つ「ミュージアムパーク」称したパブリックスペースへと変容させる。敷地全体を周辺も含めすり鉢状の土地につくり変え、また、地下の構造体をできる限り取り除きピロティのようにし、巨大な石造りの建物を宙に浮かせるようにする。そうすることで、地下全体が開放的な「ミュージアムパーク」として生まれ変わる。この「ミュージアムパーク」は、地上レベルの周辺環境と緩やかに連続することになり、既存の中庭、地上の歩道、そして周囲の公園が取り込まれ、開かれた空間となる。更に機能的にも、複雑化していた博物館の全体の動線を、地下からの動線を作り上げることによって、博物館全体を再構築することを可能にした。

こうした大胆な案を提示しながら、外観にはほぼ手をつけず、建物が持つ歴史的な雰囲気をそのまま残したことも審査員に大きく評価され、今回の勝利に繋がった。

科学技術博物館は2016年を目処に完成を予定している。

(文中敬称略、2011年10月17日一部加筆修正)

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