艾未未 インタビュー(2013年9月)

インタビュー / 牧陽一


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牧陽一(以下、YM) 前回のインタビューから一年経ちました。この一年で、中国社会にはどんな変化がありましたか?

艾未未(以下、AWW) 一年の中国社会の変化か。中国社会はより混迷を深め、より不確定になり、理論や思考も混乱し、秩序も混乱している。ひとつの社会を語る場合、その現象から語るしかない。たとえば、多くの汚職役人が捕まえられたが、彼らに対する審判の公開度と透明度はまだまだ足りない。すると、正義はまだ一部分でしかないという問題が出てくる。社会正義は部分ではいけないはずだ。すべての人間は他人の一部で、すべてのことは別のことの一部だ。これこそ公正だ。ひとつが公正でなければ、すべてが公正ではなくなる。これが私たちの公正に対する要求だ。あなたは自分が公正を守っていると言っているが、私たちから見れば、あなたは公正を守っていない。あなたはマジックを演じているのだ。手品だ。トランプ手品のように、とんでもない物を取り出して見せたり、無くして見せたりする。政府はマジシャンになろうとしているのだ。マジックで何かを出したり無くしたりする。これは公正ではない。マジックだ。マジックは子供をだますことができる。子供が見たら、素晴らしいと思うだろう。しかし、大人はみなマジックが偽物だと知っている。

YM じゃあ、薄熙来の裁判も……。

AWW もちろん、公正じゃなかった。ご周知のように、2000万元の収賄罪で裁判するなんて、明らかにでたらめだ。彼に関しては、殆どの問題は表には出されなかった。公開できないのだ。しかし、公判でも依然理不尽なところがある。証人が出廷しないし、結び付く証拠が足りない。薄熙来が冒頭で言ったように、彼はひそかに数百回も尋問され、27回も気を失った。これが何の正義だ。彼がどんなに悪い人間であっても、公正に対処しなければならない。そうだろう。悪い人間も公正に対処しなくてはならない。同じだ。この一年間で、ネット管理はより厳しくなった。つい最近公表されたが、ネットでひとつの書き込みが500回転載されたら、デマであるとして実刑判決されるかもしれない。これは検察院と裁判所の最新の司法解釈だ。だが検察院と裁判所は司法解釈をできないはずだ。法律は人民代表大会により制定されるものだ。やはり混乱している。とても混乱している。やたらに人を捕まえる。原則がない。

YM 今は混乱しているし、貧富の差もますます開いたのではないですか?

AWW 多くの問題がある。問題が多すぎて、一言や二言で言えるものではない。しかし、どれほど多くの問題が存在しても、まずは合法的で、道徳標準や法的標準のある社会を築き上げなければならない。貧富の差は第一の問題ではない。問題は社会、国家もしくは政府が法律の地位を維持できるかどうかだ。その合法性にある。

YM 今は政府が一般市民を搾取しているように見えます。昨日は円明園に行ったが、学生証を見せて、10元のはずなのに、外国人だから25元だと。学生証は全世界で通用するはずだが、中国では違います。そもそも円明園は柵もなくて自由に出入りできたはずです。

AWW 古い写真を見れば分かるが、円明園は1860年英仏連合軍に破壊されたと言われているが、実際には彼らは1%破壊したかもしれないが、90%以上は中国人が破壊したのだ。当然のことだ。一回の放火で円明園の全てを破壊できるわけがない。石の建築物なのだから。古い写真がある。1880年ぐらいの写真を昨日買ったが、その時の円明園はかなりきれいだった。焼き討ちからまだ20年も経っていない。しかし、その後、でたらめな奴らに略奪された。そして、外国人のせいにしたのだ。中国人はこれらの問題で事実に基づいて真実を求めることができない。一体どういうことなのかはっきりと言えないのだ。この問題はとても大きい。過去のこともはっきり言えないし、現在のこともはっきり言えない。それではどうしようもない。それは道徳の問題だ。

YM だから、今の中国が清末ごろに似ているという人もいますね。

AWW ある方面では清末にも及ばないところもあるかもしれない。清末の時、少なくとも、中華民国の時には魯迅や私の父(艾青)みたいな人間がいた。

YM それは民国時ですね。

AWW だから、民国にも及ばない。彼らはまだ刑務所の中で本や手紙を書くことができた。今の私は書けない。

YM お父さんも書きましたね。

AWW そうだ。すべて発表もできる。刑務所の中で書いた本も発表できる。いまの私は刑務所になくても発表もできない。

YM 獄中の様子を思い出しますか?

AWW あの時よりもはるかに酷いよ。

YM 政府の指導者たちはどうすべきなのでしょうか?

AWW どの政府も同じだ。原則を守るべきだ。原則は基本的な普遍的な価値観の上に築き上げられるべきだ。中国政府はいま普遍的な価値観を直接否認している。中国政府は基本的人権を認めない。人権や言論自由、結社自由など。政府がもしこれらの原則を堅持できなければ、将来に限りない災いが降りかかる。つまり莫大な問題が現れることになる。


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YM 薄熙来のこと、先にも触れましたが、彼は「革命歌を歌い、闇社会を取り締まること」を提唱しました。あなたも(YouTubeで)薄熙来の歌を歌っていますね

AWW もし今回彼がひどい目に遭わなかったら、私の方がひどい目に遭っただろう。だから、私の方が運がよかったと思う。

YM 薄熙来の歌を歌ったのは彼を風刺しようとしたのですか。

AWW もちろん.。

YM では、民主化運動の未来はどうでしょうか?

AWW 民主は、この世界で大多数の国家に受け入れられるべき概念だ。中国みたいな大国が酷くあがいている。100年も前に民主と科学を中国にもたらすことが提起されたというのに、今日になってもまだできていない。実に残念だ。100年前、それはかなり斬新な概念だった。多くの国にとってはね。しかし、100年後、それはもう新しい概念ではなくなった。なのに、中国ではまだできていない。中国人は共産党の指導の下、60年も経った今日になってもまだ投票用紙さえないのだ。筋道が立たないのだ。あなたは自分を指導する人を信じることができない。彼らも自分を信じてもらえないことを恐れている。彼らが人民に奉仕すると言っているのに、あなたも彼らを恐れている。自信がないのだ。自信がないとしか言えない。自信がなさすぎる。

YM 十数人だけで物事を決めているんですからね。

AWW そうだ。数人だけでこれほど多くの人間の運命を決めている。

YM 私たちの首相も直接選挙ではありません。大統領じゃないから、直接選挙じゃないです。

AWW 党派選挙だろう。

YM そうです。だから、私たちの民主も充分じゃない。天皇制も存続している。天皇制があれば、奴隷もいる。従って、まだ帝国だとも言えます。あなたは人権が一番重要で、人権がなければ主権もないと言ったことがありますが、中国だけの問題ではないでしょう。私たちも同じだと思います。ちょっとした民主があるが、完全な民主じゃない。

AWW そうだ。各国にはそれぞれの問題がある。私は自分の問題しか語れない。私は日本の問題は語らない。

YM でもあなたの提出する問題は普遍的です。どの国にでも当てはまります。では社会を変える原動力は何でしょうか?

AWW 社会を変える原動力は個人だ。集団や政党ではない。集団と政党は個人が選択するものだ。昔は違う。昔は組織がなければならなかった。共産党が勝てたのも組織があったからだ。農民を組織し、さまざまな矛盾点を組織し、これらの矛盾を利用して、勝ったのだ。でも今日私たちは異なるチェスをやっているのだ。グローバル化、インターネット。特にインターネットは非常に重要なものだ。個人をかなり強くさせた。個人に充分な自信、資源や発言のためのルートをもたらした。これは将来の世界を変える最も重要な要素だ。中国にせよ、アメリカや日本にせよ、どこでも、個人の力が強くて、個人の自由が保護されている国や社会こそ、個人の権利が強くなって、強大な競争力をもつのだ。それは決まっている。

YM 強大の意味は経済力でなく、自らに誇りを持つことでしょうか?

AWW 人類が覚えておくべきこと。それは、軍隊、国家、集団、政党の持つ力はすべて永遠ではなく、一時的なものだということだ。すべてが消え去るが、個人だけは消えない。個人の理想、幻想、精神、勇気。個人が幸せと快楽を求めていく可能性、これは消えないものだ。これは最も強いものだ。

YM 最も重要なのは個人だと言うことですね。

AWW そうだ。個人の覚悟と個人の行動だ。だれでも同じだ。みな同様に強いのだ。しかし、すべての人間がそれを自覚しているわけではない。

YM 中国の独裁はアフリカ諸国よりはましだという人もいますが如何ですか?

AWW 私は社会政治学者ではないから、同じ方向について比較を行ったことがない。私が(研究)できるのは権力と個人の関係だ。どこでも、権力と個人の関係を無視したら、他人がよしあしを言っても無駄なことだ。天皇の家に暮らせていいことだろうと言われても、実際には本人がよくないと思うかもしれない。本人がどう思うかが一番重要だ。貧乏な家族の子供なら、皆は良くないだろうと言うが、しかし本人はとても楽しいかもしれない。これは比較できないものだ。私は自分の感覚しか語れない。私自身の感覚をいえば、この独裁国家で生活していくのは実に酷いことだ。


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YM 去年の反日デモのことについてうかがいます。日本があの島を国有化して一年たちましたが、あの時デモはなぜ起きたのでしょうか、人々が社会に不満を持つたでしょうか?たとえば、私たち日本は主権のない国です。日本はアメリカの植民地に等しいという人もいます。このようなコンプレックスがあるから、日本の右翼は、あの島は我々のものだと中国を挑発しました。

AWW 君は左翼だな。(笑)

YM 私たちが住んでいるところでは、アメリカ軍の飛行機がしょっちゅう飛んでいいます。

AWW 中国軍の飛行機でなくてよかったね。(笑)

YM だから、私たちには主権がない。

AWW 今は違うでしょ。

YM ずっとそうです。日本国内には多くの米軍基地があります。それでも独立した国と言えるでしょうか?

AWW 過去の国際政治が残した問題が存在するに違いない。

YM あなたは「人権さえないのに主権は語れない。人権が最も大切だ」と言いました。日本にはあの島を自国のものだという資格はないでしょう?あなたは世界中の公共の場にして国連が管理すればいいと言いました。国境の島の事は戦争に勝った国々で相談すればいいでしょう。アメリカ、中国…。

AWW この世界は余りにも不公平だ。昨日も考えたが、なぜ日本とドイツが国際政治のより重要な地位に参与できないのか、これは不合理だ。

YM 日本は侵略戦争についての反省が足りないんです。犠牲者意識ばかりで加害者だった事を忘れている。

AWW いまはインターネットがあるから。

YM 戦争体験者がだんだん少なくなっています。教育が大事なのに、侵略戦争について教科書にも書いていません。

AWW 中国だって同じだ。

YM いまはオリンピックのことより、福島の問題の方が重要です。

AWW 福島は非常に重要な問題だ。国や国民の安全が誰によって決められているのかという問題だ。その影響は非常に大きい。

YM だから私は喜べません。彼らがなぜそんなに喜ぶのか私には理解できません。日本でオリンピックを開催することは、病人のいる家でお客さんを接待するようなものです。回復してからお客を呼べばいいでしょう。

AWW しかし、いいところもある。客人をもてなすならどうしても注意を払う必要があるからね。

YM 先日あなたのミュージックビデオ「朝陽公園」を見ました。あなたは尾行していた警察を追いかけて捕まえました。以前は政府や警察があなたを監視していました。今は逆になって、あなたの方が警察そして政府を監視しています。立場が逆転しています。

AWW 映像では警官の顔にモザイクを入れてある。まるで犯人みたいにね。日本の映像でもよく使うでしょ。

YM 今の監視状況はどうですか?

AWW かなり緩くなったね。私たちがいつも彼らを撮影するから、彼らは私たちを怖がっている。

YM だから私たちも日本政府を監視しています。福島の問題をどう解決するか監視しています。

AWW 絶対にそうしなければならない。この問題を毎日政府に訊くべきだ。毎朝福島の問題を訊くべきだ。あなたの学生も皆この問題を訊くべきだ。


艾未未,牧陽一

2013年9月12日(木) AM10:00- フェイクスタジオ

*全篇は近く刊行予定の『アイ・ウェイウェイ スタイル』(勉誠出版)に収録予定。

アイ・ウェイウェイは謝らない
http://www.aww-ayamaranai.com/
2013年11月下旬よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

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