リュック・タイマンス 「The Spill」


Teacups 2012, oil on canvas, Triptych: 65 x 117 cm

リュック・タイマンス 「The Spill」
2013年3月23日(土) - 5月2日(土)

2013年3月23日より、ワコウ・ワークス・オブ・アートにて、ベルギーのアーティスト、リュック・タイマンスの7年ぶり4度目の個展を開催します。

「The Spill」と題された今回の新作展では、コマ送りのように次第に傾き、中身を徐々に流出させていくティーカップを描いた三点組の作品の他に、最終的には全壊したシカゴの集団住宅の模型を描いた《Model》、人形の頭部を描いた《Head》を展示します。

アメリカのアーティスト、ケリー・ジェームズ・マーシャルと共同でアニメーション作品をつくるというコラボレーションのプロジェクトをきっかけに生まれた《Teacups》の三連作は、リュック・タイマンスの作品を語るさいにしばしば言及される映像の要素を直接的に備えている点では、この作家の典型的な作品といえます。しかし、これまでの作品に共通して見られた静けさの感覚がここでは弱められ、代わりに激しい動きが描かれているという点で、きわめて異質の作品といえます。

また、リュック・タイマンスは、ナチの研究所や上海の高層建築など、これまでにさまざまな建築物をモチーフとしてきましたが、今回の最新作《Model》はその名の通り模型を描いています。一見して即座にわかる巨大な建築物ならではの意匠と、仔細な観察によって明らかになる実際のスケール感が違和感を生み出しており、この作品もまた、このアーティストの典型をなぞりながらも新たな要素を備えた作品といえます。この傾向は《Heads》でも明らかであり、過去の作品でも頻繁に見られた人物の頭部を極端に拡大して描くという手法を踏襲していながら、実際に描かれているのは人間を模した、壊れた人形である、という事実が、このアーティストが描く肖像画についての私たちの認識に新たな視点を与えています。

いずれの新作も、現代を代表する画家であるリュック・タイマンスのこれまでの多くの作品に見られた要素を通奏低音として備えながら、それらにクロスするように吹きこまれた新たな謎が、作家の次の方向性について私たちに想像を強いるものとなっています。見るものの深層意識に時間をかけてゆっくりと染み入り、記憶を揺さぶり、イメージの痕跡を刻むリュック・タイマンス作品の新たな展開を、この機会にぜひご高覧下さい。

また、3/23より東京ミッドタウンより開催されるG-tokyo2013においても、リュック・タイマンスの最新作《Barrel》を展示します。こちらも《Teacups》と同じく三点組の連作でありながら、銅版に油彩というタイマンス作品初の手法が、今後の新たな展開を予感させる作品となっています。

今展覧会の開催に合わせ、テキストシリーズ最新刊『流出』を刊行します。こちらもあわせてご高覧いただければ幸いです。

リュック・タイマンス1958年ベルギー生まれ / アントワープ在住。ゲルハルト・リヒター以降の最重要画家の一人と称されている。92年のドクメンタ9で大きな注目を集め、その後、ヨーロッパ、アメリカ を中心に数多くの展覧会で紹介される。日本ではいち早く東京オペラシティアートギャラリー(初台)にて個展を開催。2004年にはテート・モダン(英)及 び、K21 Kunstsammlung Nordrhein-Westfalen(独)にて大規模な回顧展を開催。2009年から2010年にかけて、サンフランシスコ近代美術館やシカゴ現代美 術館等において、アメリカ初となる回顧展が開催された。またキュレーションも数多くおこなっており、中でも北京とブリュッセルで企画、開催したベルギーと 中国の作家による展覧会「The State of Things」は高い評価を受けた。

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