「クラウド・シティ」 トマス・サラセーノ展 プレスカンファレンスインタビュー

「クラウド・シティ」 トマス・サラセーノ展
プレスカンファレンスインタビュー
2012年5月25日(金) メゾンエルメス8Fフォーラム

メゾンエルメスフォーラム 「クラウド・シティ」トマス・サラセーノ展 記者会見
(本文記者会見をもとにエルメスにて編集したものです。)

H:1963年に「宇宙船地球号」を著したバックミンスター・フラーの思想にも共感していらっしゃるというサラセーノさん、フラーから続く系譜で語られることも多いですが、まさに日本では震災の結果、原発事故も起こり、未来に向けて人間が地球と共生を続けていくためのユートピアはあるのか、模索している現代です。そんな日本での今回のサラセーノさんの展示、私たちにとっても学ぶことは多いと思います。
それでは、サラセーノさんがシリーズで展開されている「クラウド・シティ」に関してのお話から始めていただけますか?

サラセーノ: こんにちは。今回は「クラウド・シティ」と、それからもう1つの作品、「太陽エネルギーを利用した空に浮かぶための59のステップ」、黒いバルーンの作品ですが、この2つの作品を、皆様にお見せしています。それではこの後は皆さん、空でお目にかかりましょう (笑)。

まずクラウド・シティとは、それを通じて、人々が意思の疎通を図れる能力を拡大、拡張してゆく場であると私は考えています。それが私にとっての理想的なクラウド・シティの形だといえます。
現在、クラウドというと、まずはインターネットのクラウドコンピューティングのことを思い浮かべる方々が多いかと思います。また、デジタルコミュニケーションのことを考える方がいらっしゃるでしょう。私の提唱するクラウド・シティの考え方は、この2つをマッシュアップしたものだといえるでしょう。
 私たちはそれぞれの経験の中で、移動について、ナビゲーションをについて、を常に問い、問われていると思います。例えばある国からほかの国に行く。あるいはある町からほかの町に行くということ移動があります。それと同様に、ウェブ上でも、1つのサイトから別のサイト、また1つのウェブから別のウェブへの移動もあります。
物理的な移動と次元の違うウェブ上での移動の場合には、どこに行ってきたのか、これからどこに行くのかということは、全く問われないはずです。ウェブ上での移動にも、若干の言葉の壁はあるとしても、そのようなことに左右されずに、インターネット上で私たちは自由にサーフィンをしているわけです。
これと同様に、クラウド・シティいうのは、移動、および私たちの意思の疎通を自由に図る上で大事なプラットフォームになり得ると、私は考えております。
 さて、この非常に実験的なプラットフォームですが、ここでは3つぐらいの分野で、代替的な手段を提案してくれるのでは、と考えています。
まずは、私たちの移動ですね。例えば飛行船、皆さんご存じかと思いますが、これはかなりの頻度で飛んでおり、私の知っている限りでは、大陸間移動だけでも、5,000回の飛行を、これまでされているようです。本当にツェッペリン(Zeppelin)、飛行船が大陸間移動を5,000回やったかどうかは、後でご確認いただくとして、このような形でも、代替的な移動手段になるというようなことがあります。
次にライフスタイルを変えることができる、そして3つ目にお互いの意思の疎通の仕方というものを、変えることができる。この3つの変革をもたらしてくれることができるというふうに、私は思っています。

先ほど冒頭に「皆さん、空でお目にかかりましょう」と申しましたが、クラウド・シティの大前提である「飛ぶ」ことについて話したいと思います。
まず、空中に浮かぶ、飛ぶものをどういう素材で作るのかによって、その材料の重さと、それがどのぐらいのエネルギーを消費するかの間には、直線的な関係があると思います。一つお断りしますと、アルミニウム素材は例外となります。
アルミ以外のものに関しましては、素材、それからその消費エネルギーの間には、直接的な関係があります。つまり素材が重ければ重いほど、消費エネルギーもたくさん使わなければならないということになります。ですから、本当に飛ぶ都市(flying city)を作るということになりますと、まず私たちがダイエットして減量しなければならない(笑)。
そのエネルギーの関係を考えるだけでも、クラウド・シティはライフスタイルを変えるきっかけになるもなり得るし、またどのように私たちが物を生産し、消費するのかといったやり方も変わってゆくのではと思っています。
 それからコミュニケーションの仕方ですが、このクラウド・シティにおいては、言葉だけに頼ったコミュニケーションではなく、どのように生活するかといったことでの意思の疎通ができるというように思います。”Enpower Me”という映画があります。日本で公開されたかどうかわかりませんが、この映画の中では60年代、70年代に考えられたさまざまなコミュニケーションの方法が登場します。クラウド・シティとは、このように代替え可能なコミュニケーションを提唱してくれるものでありたいと思っています。
 
技術的な話になりますが、クラウドは、高度によって分類することができます。高度の低いところにいるクラウド、中程度の空に浮かんでいるクラウド。それから高高度にいるクラウドと、そのような層別をした形で、クラウドを置くことができます。
 また、高高度プラットフォームというHAP (High Altitude Platforms)と呼ばれているものがありますね。これは衛星とは違いますが、衛星の代替となり得るというふうに思っております。なぜならHAPは、本当の衛星ではありませんので、低コストでできる。そして、配備も簡単であるといった利点があります。大きなテレコムの通信会社の方々が、あまり関心を持っていないようなところを、このHAPの代替衛星というものが、カバーをすることができる。それもかなり広範なところをカバーできることが、大変面白い可能性を提示してくれるというふうに思います。

 気がついたら、思いつくまま技術的なことばっかり、べらべらとしゃべってしまって、何をいっているんだろうと皆さんに思われているかもしれません。でも皆さん、ミュージアムに行った時のことを思い出してみてください。何かを見たときに、いったいこれは何だろう、どんなになるんだろう、何のためなんだろうというように、疑問がとりとめもなく湧いてくることがあるのではないかと思います。私もアーティストとして、そういった疑問はとても大事だとおもっています。見る方と作る方というふうに、分け隔てて考えたくはないのですが、見る方には本当にナイーブな心とオープンな心を持って、さまざまな解釈を、作品に与えてもらいたいというふうに思っております。ですから答えは1つではなく、オープンエンドのストーリーといいますか、いろいろなことを考えていただければというふうに思っています。

H:ユートピアは、実現できないものだけども、サラセーノさんの作品は、常にそれを目指しているように、その理想を追いかけているように感じています。サラセーノさんにとって、ユートピアとは手が届くところにあるのか、それとも追いかけ続けるものなのか、聞かせていただけますか?

サラセーノ:私はともかく、気分がころころ変わりますので、いろんなことをやって驚くのが、とても好きです。それとまあ、バルーンなどでも、破裂してしまうと、本当に全く世界がひっくり返ってしまうぐらい面白いことが起こる。そのときの驚きが、そのそもとても素晴らしいことだと思ってます。
 ユートピアに関する質問に関しましては、やはり皆さんがそれぞれの理想というものを持っていらっしゃるというふうに思います。
それから私は夢見るのが好きですし、私の夢を、皆さんと分かち合っていきたい。また、一緒に夢を見たいというふうに思ってます。ですので、やはりこういった、何かやるということを、やり続けていきたいというふうに思っています。考えることの補完が、何かを具体的にやり続けることだというように思います。本当にバルーンをプッシュして、ある程度のところで、ちょっと一歩引いて様子を見る。それからもう1回バルーンをプッシュしてみる。そういうことをやっていく。その続けていくということが、とても素敵だと思います。
 で、皆さん、私たち全員が3分の1はユートピアにいる。あるいは3分の1は別の世界にいるのです。だって誰もが3分の1は眠っているのですから、必ず夢の中の世界に生きているわけです。朝、夢から覚めて、ああ、本当にいい夢だった。本当にこういうふうにしたい。じゃあ、それに向けて努力をしようということになるわけです。私の夢を、みんなと分かち合いたい。じゃあ、一緒になって何かやろう。そういうふうになっていくわけです。
 ただ、逆に悪夢を見てしまった場合、これは忘れようということになるわけです。まあ、夢の解釈っていうのもいろいろありますけれども、その、いろんなことを考えながら、夢を考えなおしたときに、これもうだめだ。もうやったことがある。そういうふうなものを忘れてしまう、と思うこと。そんな勇気も、同時に必要なのではないでしょうか。

「クラウド・シティ」 トマス・サラセーノ展

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