「歴史の歴史」 杉本 博司展

[タイトル] 歴史の歴史
[アーティスト] 杉本博司
[日時] 2003年10月20日~12月28日

歴史の歴史

「歴史には書かれた歴史と書かれなかった歴史とがある。また書かれた歴史にしても常に加筆訂正が行われてきた。民族の歴史や人類の歴史にしても人はその時代時代の信じる歴史を信じて、またひとつ歴史を追加してきたのだ。
物質の歴史にしても又同じことが言える。世界の起源は長いあいだ宗教の範疇であった。古代宗教の各派は魅力的なその起源を神話として競ってきた。そして人々は疑いもなくそれを信じて暮らしてきた。その後ルネッサンス期に及んでコペルニクス的転換が訪れた。科学によって物質の変化についての法則性が検証されるようになる。しかもそれは実験によって確実に証明できるのである。あとはひとつひとつの物質の連鎖のひもをほどいていけば宇宙の起源にまでたどりつけるだろうと思われた。こうして我々はビッグバンにまでたどり着いた。すると今度は宇宙のはじまりのビッグバン1秒前を考える人もあらわれてきた。
こうして又物質の歴史にも加筆訂正は書き加えられ続けるだろう。
芸術の歴史にも一言ふれておこう。洞窟壁画の時代から人間はこの混沌とした世界に、あるひとつの目でみることのできるビジョンを持つことを欲した。そしてその役を担ってきたのが芸術家といわれる人々なのだ。その役割は今でも少しもかわってはいない。宗教や科学がいかにあなたを説得しようとも、そこには必ずこぼれ落ちる闇の部分がある。そしてその闇の中にちらばった光り輝く微粒子をすくい集めて、その内をうかがい知る為の装置を作る、その闇の暗号解読装置が芸術と呼ばれるものである。
書かれた歴史と書かれなかった歴史、それからもうひとつ、これから描かれる歴史がある。ここにご紹介するのは歴史のほんの少しの断片であり、あなた自身が組立てる未来の歴史の組立キットの為のパーツである。」                杉本博司

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