「プレイフル」 江口悟

【タイトル】 プレイフル
【アーティスト名】 江口悟
【期間】 2013年7月18日~2013年9月18日

ある街角。ありふれたものがあり得ない様子で積み重なっています。自転車やオールにサボテン、スケートボードやバレーボール。なかには、エルメスの製品も。一見、とりとめなく、積まれたこれらのオブジェたちは、まるで人間が両腕でバランスを取りながら片足で立っているかのような、ギリギリの安定感を保っています。

スポーツとは人間の身体と意識、独特のルール、そして何よりも遊び心が誘う、ちょっとした危険な試みです。それは、特別な場所に行くまでもなく、我々の日常のなかに潜んでいる特別な瞬間でもあります。今回のウィンドウに広がるのは、スポーツを予感させる緊張感が漂う中、ありふれたものと、あり得ないことが混在している光景です。あり得ないのは、オブジェの積み上げ方だけではありません。すべてが紙で出来ているということです。いくつかのエルメスの製品を除いては。

ニューヨーク在住のアーティスト、江口悟は日常的な風景を紙で再現し、そのオブジェを輪郭に立体的な絵を描きます。ときに精巧に、ときに描きかけのような余白を残し着色されたオブジェが並んだ風景を見ると、一枚の絵画を見ているような錯覚を覚えます。積み上げられたオブジェは、絵画の平面から飛び出してきたかのように、いびつな紙の質感を残しつつ、実物のエルメスの製品の素材感と混じり合います。

この大きなオブジェの集合体は、独特のバランスを保ちつつも、今しがた描かれたばかりのような、いや、まさにこれから描かれようとしているかのようなスピード感も含んでいます。小窓には、エルメスの製品とそれを取り巻く小さな情景が。ここにも紙で出来たオブジェが置かれ、独特の質感とタッチで描かれた、小さなスケッチの連続を見ているかのようです。

ウィンドウの壁面にさりげなく立てかけられている巨大な鉛筆は、そのあり得なさに思わず、振り返ってみたくなるようなインパクトを与えます。「現実感」「スピード感」「緊張感」が様々なレベルで織りなすこの不思議なインスタレーションは、スポーツが与えてくれる日常からの解放という感覚に似ているかもしれません。

江口悟 Satoru Eguchi
1973年新潟生まれ。School of Visual Arts修了後、ニューヨークにて制作活動を続ける。主な展覧会に「日常/ワケあり」神奈川県民ホールギャラリー(2011年)、「Kunst Nu」ゲント市現代美術館(2009年)、「Things in a Place」MISAKO&ROSEN(2008年)、「Making a Home: Japanese Contemporary Artists in New York」ジャパンソサイエティー(2007年)など。

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