美しい棘 – 深澤直人

【タイトル】美しい棘
【アーティスト名】深澤直人
【期間】 2004年3月18日~5月18日

「ファンタジー」は多様な意味をもつ言葉。日本で一般的なのは「空想・幻想」の意味ですが、意外性や奇抜さ、気まぐれ、独創性など、実は多くの意味を含んでいます。今回「色とファンタジー」を演出したデザイナーの深澤直人にとって、ファンタジーとは「少し不気味でマジカルなイメージ」。そこで選んだのは有刺鉄線でした。有刺鉄線と聞いて想像するのは、刑務所のような社会やモラルに基づく境界線や、閉鎖感などの心境……。いずれにせよ重く悲しいイメージです。
彼は鉄線の悲しいイメージを、ニッケルメッキ加工によって完全になくし、温かみさえある上品な素材に変えました。その輝く光のループを、グリーンとヴァーミリオンという鮮やかな04年の春夏プレタ商品が彩る様子は、まるで鉄線の蔓に咲いた花のよう。多量の棘は一見、痛々しさを思い起こさせますが、それは美とファッションに欠かせない「きわどさ」をアイコン化したものだと深澤は言います。
携帯や家電など、これまでの深澤のデザイン傾向からすると、このウィンドーを少々意外に思うかもしれません。でも考えてみれば「意外性」も「ファンタジー」の意味に含まれています。偶然を楽しむファンタジストでもある深澤は、有刺鉄線という機能むき出しの素材に「一息」を吹き込み、エルメスのファンタジーを表現したのです。もちろん彼の一息は一瞬で生まれたマジックではありません。試行錯誤や鍛錬の時間を経てようやく生まれるエルメスの商品のように、確固たる考えの上に偶然が重なって、ファンタジーは生まれるのです。

深澤直人(ふかさわ・なおと)
1956年山梨県生まれのプロダクトデザイナー。多摩美術大学卒業後、セイコーエプソンのデザイナーを経て89年に米IDEO社の前身IDE TWOに入社。96年に帰国しIDEO Japanを設立。2002年にはNaoto Fukasawa Designを設立。

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