「カレな気分」 吉岡 徳仁展

[展覧会名] カレな気分 展 
[空間デザイン]吉岡徳仁
[日時] 2004年5月25日~8月22日

吉岡 徳仁-空間に生命を吹き込む人

風が吹く。飛鳥は羽を動かさずに、自由に空を舞う。
その姿によって、私たちは目に見えない風を感じることができる。
かつて能を極める人間は、そうした状況を「舞(ぶ)」と言い、かたちあるものとかたちなきものの間に、情緒を感じとり、それを理想の姿とした。
ものは皆かたちを備えて存在するが、吉岡徳仁の活動は、静止した写真ではとらえきることができない。姿は見えずとも感じとれるデザイン。そこに彼の空間のメッセージが存在する。デザインとはただかたちをもたらす行為のことではない。そのことを、吉岡の作品は我々に伝え、独自の世界を創出し続けている。

かつて彼が手がけた照明器具「ToFU」は、アクリルの断面に宿る光そのものが表現だった。あるいは、光学ガラスを素材とする椅子。雨が降りだすとともにその存在を消し、太陽の光に包まれると、その光を反射し、輝く。街なかにあって、天候の変化とともに絶えず変化し続ける椅子である。先頃ミラノで発表された待望の新作「KISS ME GOODBY」は、ものの姿を消失させたポリカーボネイトの透明な椅子。あたかも空気に腰かけるかのような、魔法の椅子を思い出させる。その場の可能性をひきだしていくことで、静寂をそっと破り、生命力をもたらすひとひらの動きをもたらす。時に、ユーモアをまじえながら。

そして、今回、吉岡はスカーフを宙に浮かせる。スカーフは風と共に、ひらりと揺れる。それを彼は「48名の吐息」と名づけ、ここで「人々の動き」を表現したいと考えたのだという。メゾンエルメスのウィンドーディスプレイとも連動しながら、フォーラムの会場では、スカーフの一枚一枚がダイナミックに命を吹き込まれたように舞い続ける。スカーフが舞うことで、我々は目に見えない何かを感じることができるのである。
その吐息から紡がれていく物語とはどんなだろうか。その先を創出できることこそがデザインの可能性であることを、吉岡徳仁は知っているのだ。
                  

         
川上典李子(デザインジャーナリスト)

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