ピピロッティ・リスト

からからの心にひとしずくのユーモアを

取材・文:児島やよい
ポートレート:永禮賢

「これ、インスタントダイヤモンドと呼んでいるの。何も書かれてないプラスチックのパッケージをコレクションしているのよ。もう役に立たないものだけど、ライトが当たるときだけキラッと光るの」

インスタレーション「ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の木」の中でおどけたポーズを取るピピロッティ。率直で真摯な、そしてユーモアを忘れない彼女は、国内の美術館では初めてとなる個展について、やはり率直に語ってくれた。


「ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の木」2003年
ビデオインスタレーション 原美術館での展示風景 写真:永禮賢

「原美術館は住宅街にあって、もともと個人の家だったから、観客もまるで友だちの家を訪ねるような気分で来られるところが好き。リビングルームだった空間に、家具を使った作品『部屋』を置いたり、呼応させて楽しんでいるわ。2 階は、そうね、子ども部屋が続いているみたいに、ここは男の子、隣の部屋は妹、という感じで、ひとつのコンセプトに縛らないで展示しているわ」

展覧会タイトルは、「喉がからから」「からからと笑う」という2つの意味を表す日本語から付けた。

「美術館が、心の渇きを癒す場所であってほしいの。身体が、食べたものの中から必要な栄養を摂り、残りを排泄するのと同じように、心も、眼で見たイメージや体験の中から、蓄積していくものとそうでないものを取捨選択していると思うのよ。心と身体はつながっているから」

自身の身体をクローズアップした映像を作品に使うなど、一見豪快な女性に見えるピピロッティだが、繊細で、人への心配りを忘れない。そんな人間性が作品にも表れている。映像インスタレーションによくある重々しさは、彼女の作品からは感じられない。それはポジティブであるように心がけているからだろうか?

「それは意識しているわ。否定的な面をクローズアップしないの。もちろん、人生において悲しい面や、人はなぜ生まれて死ぬのかといった哲学的な、解決不可能な問題をないがしろにはしたくないけれど、それを私の作品の中心に据えるのではなくて、片隅にぶら下がっている感じかしら。私の作品を観て、ほんの数秒でも、自分は果てしのない孤独な世界にいるんじゃないと感じてもらいたいの」

傷を抱えた、憂いや孤独を奥底に感じさせながらも、軽やかで前向きな思いに満ちた空間。そしてちょっぴりの茶目っ気。「観客とコラボレートする」トイレの作品「隠れたサーキット」は衝撃的だが、いかにも彼女らしい。

「そうよ。コンテンツは、あなた自身なの」

初出:『ART iT 第18号』(2008年1月発売)

ピピロッティ・リスト
1962年、スイス、グラブス生まれ。80年代よりビデオインスタレーションを制作し、各国の主要美術館や国際展などで発表。ヴェネツィア・ビエンナーレ(97年)で若手作家優秀賞を受賞した作品「Ever Is Over All」ほか代表作を含む個展『ピピロッティ リスト: からから』を、2007年11月から08年2月まで原美術館(東京)で開催した。

←インタビュー目次へ

Copyrighted Image