カールステン・ニコライ

軽やかなジャンルの越境者

取材・文:國崎晋

自身が率いるレーベル「raster-noton」のライブツアーのため、12月に来日したカールステン・ニコライ。撮影に使わせてもらったインスタレーション「invertone」の展示がICCでスタートしたのも2008 年であり、「日本に来るのがクセになっている」と自身も認めるほどの日本びいきだ。だから今回の来日に際し、日本のファンへのプレゼント的なアイテムとして「aiff-tiff」というビジュアルブックを、『アイデア』誌の別冊付録としてリリースした。


invertone, 2007
Photo Kioku Keizo, Courtesy NTT InterCommunication Center [ICC]

掲載されているのは彼とレーベルメイトによる幾何学的なグラフィック作品。ほとんどはサウンドからジェネレートしたものであり、元となったサウンドも付属のCDに収められている。音と映像を駆使した作品を得意とする彼が、本というスタティックなメディアに強い関心を持っているのが面白い。

「僕はフィジカルなプロダクトに興味を持っていて、特に本は好きなんだ。印刷技術にすごく興味もあるけど、何より紙ってすごく昔からあるし、今もあるっていうのがいい」と、多くのデジタルメディアがコンピューターのOSなどに依存していることに対する不満を覗かせる。

「本は電気もいらないし、実にインディペンデントだ。本棚に入れておけるし、多分、20 年後も取り出してすぐにアクセスできる。自分にとってフィジカルなオブジェクトは信じられるんだ…… 消えてしまわないからね」

本に惹かれる一方、今回の来日では時間芸術の最たるものである映画の撮影も行った。曰く「ナラティブな映画」で、俳優やカメラマンがいたりと、これまでの映像作品とは趣を異にしている。

「これは長いタームで作る映画なんだ。毎年5分ずつ撮って、それを10年続ける。基本的には台本があるわけじゃなくて、撮ったものが次の年の5分を決める。普通、映画の制作ってたくさん撮影をしたものを編集で短くしていくよね。だけど、いま作り始めているのはその逆…… 時間をどんどん延ばしていくんだ」

サウンド、グラフィック、映像とジャンルを軽やかに横断しつつ、瞬間から無限へと時間を伸び縮みさせる。映画が完成する10年後に、いったい彼はどんなメディアで作品を発表しているのだろう。


カールステン・ニコライ
1965 年、旧東ドイツ、カール=マルクス=シュタット (現ケムニッツ) 生まれ。現在はベルリンとケムニッツを拠点に活動。視覚芸術と電子サウンドを融合させ、池田亮司や坂本龍一らとユニットを組む。「invertone」は『オープン・スペース2008』(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、東京)に展示された。4 月には霞が関ビルディング(東京)で公共彫刻『poly stera』を発表し、『万華鏡の視覚:ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションより』(7 月5 日まで、森美術館、東京)に出品している。

森美術館
http://www.mori.art.museum/jp/index.html

初出:『ART iT 第23号』(2009年3月発売)

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