艾未未(アイ・ウェイウェイ) (後編)

私にとってアートと政治活動はひとつです。

国際展で話題作を続々と発表し、北京五輪では「鳥の巣」の設計を手がけ、一方で五輪を痛烈に批判し、政府にブログを閉鎖される……。建築家、活動家としての顔も持つアーティストが、森美術館での個展のために来日した。中国現代アートの牽引者に聞く、アート観、国家観、そして人生観。

前編はこちら

——最近、艾さんのブログが閉鎖されましたね(前編「付記」参照)。経緯を教えて下さい。

中国的な基準では、だいぶ以前に閉鎖されていてもおかしくはなかったんです。中国の政策を大いに批判していた唯一の中国語ブログだったから。普通、政府はこんなブログを容認しないんですが、3年間も存続しました。これまでずっと、そしてとりわけオリンピック開催中に、私は強烈な批判を書きまくった。閉鎖は時間の問題に過ぎないとわかっていて、記事をアップする度に、これが最後となるにちがいないと思っていました。

閉鎖後に、ある友人が米国でブログを立ち上げてくれ、やってみようと思ったんですが、同じ情熱は持てませんでした。つまり、なぜ米国にいる連中のためにブログを書くのか、ということです。私がブログを書くのは、中国人に読んでほしいからです。中国政府は、そのサイトも遮断してしまった。そこで別のアドレスに変えたんですが、またもや遮断。すでに4〜5回ほど遮断されています。

影響力を保ちたければ中国国内にいる必要があると思います。国内にいて、自分自身への被害も含め、結果を甘んじて受け入れる。そうでなければ公平ではありません。外から何か言っても、「あいつはアメリカのパスポートを持ってるから、あんな説教ができるんだ」と言われるかもしれない。実際には私はアメリカのパスポートなど持ってはいず、政府によって下される処罰に直面していて、それについてオープンに議論をしている。これは、中国の若い世代にとって大いに模範となる行為です。責任をもって応答し、与えられるかもしれない打撃に耐えること。これこそが倫理的に非常に重要だと思います。


「蛇の天井」2009年 バックパック 40 × 900cm
森美術館『アイ・ウェイウェイ展−何に因って?』展示風景
撮影:渡邉 修 写真提供:森美術館
2009年5月12日に起きた四川大地震で亡くなった子供たちへの鎮魂歌として、通学用バックパックを蛇の形につなげた。

ブログもTwitterも遮断される

——Twitterは?

Twitterは非常によかったですね。140字で、何に対してもすぐに応答できる。でも、フォローするユーザーが7,000人を超えたとき、政府は脅威を覚え始めたんです。私があらゆる公共的な問題について議論していたので、Twitterも遮断してしまった。10回も名前を変えたんですが、すべて遮断されました。そこで、ほかの連中が怒り心頭に発して、みんなで「アイ・ウェイウェイウェイ」とか「ウェイウェイウェイ・アイ」とか「アイアイウェイ」とかの名前を使い始めた。私の写真を使ったブログも40か50あって、何が起こっているのかわからない状態になり、そこで政府はTwitterへのアクセスをすべて遮断したんです。いまや我々には何もありません。

——ブログの読者はアート愛好家だけでしたか。

最初の内はアート愛好家とデザイナーでした。私が政治性を高めていくと、ジャーナリストや編集者が、私の意見を引用するべく加わってきましたね。特に外国人特派員やジャーナリストたちで、彼らにとって非常に重要なソースとなっていったんです。

——艾さんにはアーティストとしての顔と活動家としての顔があるわけですね。

私にとっては、そのふたつはひとつです。アーティストは活動家であり、よき活動家はアーティストにほかならないと思います。私のあらゆる活動はひとつであり、社会の中に暮らし、自身の意見と理想を持つひとりの人間としてのものです。

——それはすなわち、あらゆる艾未未作品は政治的メッセージを内包するということですか。

そうです。それは分離できない。分離されたら不完全なものとなります。

——とすると、中国国内に留まり、体制を変革することが、艾さんの活動における中心的課題でしょうか。

はい。もちろん自分では変革などできません。でも私は国内に留まり、自らの権利を行使しなければならない。それは、アーティストであるためには極めて基本的な権利なのです。


「童話—1001の宿舎」2007年
テント工場を改装した寄宿舎。『ドクメンタ12』において、艾は自身の参加作品「童話」の一部を成すものとして、1001人の中国庶民を開催地のドイツ・カッセル市に旅立たせる。それは、「個」としての中国人の経験に焦点をあてる試みであった。 © FAKE Studio

単にアートあるのみ

——現代美術は言うまでもなくヨーロッパが起源ですが、グローバル化した世界において、アジア人である艾さんがアート活動を実践するのはなぜですか。

もちろん現代美術は、西洋文化の影響を大きく受けています。でも今日においては、事態は変わっていると思います。言うならば、子供のころにはお母さんのおっぱいが必要だけれど、大人になったらもう要らない、というようなことです。

日本の状況を見てごらんなさい。日本は市民社会となり、人間性を尊重しています。固有の言語と伝統を持ち、内在的な必要性を認識し、問題を発見しては解決に努めている。


「平行棒」2006年
清時代の寺院に使用されていた鉄木、鉄製平行棒 182 x 286 x 104 cm

——つまり「中国アート」や「東アジアに固有なアート」など存在しない、と。

あるとすれば、ある社会が問題を抱え、制約を持っている場合です。こうした分類について話すときには、実は制約について話しているのです。でも、真にアートを愛していれば、「これは女性アートだ」とか「これはゲイアートだ」なんて言ったりしません。単にアートあるのみ。アートとは、誰もが理解できて、我々すべての心を動かすものなのです。


「コカ・コーラの壺」1997年 唐時代の壺(206BC-24AD)、塗料 
24 x 18cm © FAKE Studio

アイ・ウェイウェイ

1957 年、北京生まれ。78 年、前衛芸術グループ「星星画會」を共同設立。81 年、ニューヨークに移住するが、93 年に北京に戻る。以来、自身の作家活動と並行して、キュレーター、建築デザイナー、批評家としても活動する。主なグループ展に、第1回/第2回広州トリエンナーレ(2002 / 05 年)、2006 ビエンナーレ・オブ・シドニー、ドクメンタ12(07年)など。2008中國当代芸術奨では生涯功績賞を受賞。ヘルツォーク&ド・ムーロンとの協働で北京国家体育場(鳥の巣)も手がけ、第11 回ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展にも協働参加。個展『何に因って?』は森美術館(東京)にて開催中(11月8日まで)。次の個展『So Sorry』は、ミュンヘンのハウス・デル・クンストで開催される(10月12日から1月17日まで)。

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アーカイブ:21号(p.58-69 艾未未インタビュー収録/会員コンテンツ/PCのみ)

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