杉本博司 人形浄瑠璃文楽および展覧会シリーズ「アートの起源」



杉本博司  「十一面観音立像と海景」
『杉本博司 歴史の歴史』(金沢21世紀美術館、2008-09年)での展示風景
十一面観音:平安時代 10-11世紀、木造、 海景写真:1980ー1995年、ゼラチン・シルバー・プリント
ⒸHiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi 無断転載禁止

 これまで『海景』『劇場』『建築』などのシリーズで主に白黒写真を発表し続けて来た杉本博司が新たに舞台芸術に挑む。               

 主に写真作品で国際的に知られる杉本は、これまでにも作家活動と並行し、骨董商、収集家、建築家などとして活動の場を広げてきた。2009年12月には財団法人小田原文化財団を設立、現代美術から時間軸を遡り古典芸能、さらに分野を舞台芸術へ、制作だけでなく企画運営へと、より広範に芸術に関わることに使命を見いだしている。
 去る2010年4月に行なわれた記者会見で、杉本は近松門左衛門の人形浄瑠璃の傑作『曾根崎心中』に杉本独自の解釈を加えた『杉本文楽 木偶坊 入情(でくのぼう いりなさけ) 曾根崎心中付り(つけたり)観音廻り』を2011年3月に、同年1月にオープンする神奈川芸術劇場の開館記念企画第2弾として上演することを発表した。
 新しいものと古いものを組み合わせたものにしたいと語る杉本は、今回の上演にあたり、現在人形浄瑠璃・文楽座で公演されている『曾根崎心中』で演出の都合上省略されている序曲「観音廻り」を原文通りに復活上演するほか、人間国宝・鶴澤清治との共演するなど、話題性溢れる企画の内容を明らかにした。杉本はまた記者会見の席で、自身のコレクションから平安時代の観音像を加えるかもしれないこと、もしくは黒子にビデオカメラを持たせて舞台上で撮影することなどのいくつか現在検討中のアイデアの他、新たなコンセプトからくる人形のデザインや、職人による特別な小道具などすでに進行中の案についても述べた。その上で、今回の文楽公演は伝統芸能における「型」が人形遣いに身体的に浸透しており、その「型」をどこまで破れるかが鍵となるであろうと慎重さも覗かせた。
 杉本はアートイットの取材に対し、今回の『曾根崎心中』がこれまでの彼の活動分野である写真や建築における試みとくらべても非常に新たなものであるとし、「舞台芸術の仕事というのは非常に面白いと思います。森美術館の個展(2006年『時間の終わり』展)の時に行なった能の公演もそうでしたが、緊張感があり非常に興奮します」と語った。また「演劇、特に舞踊は、例えば天岩戸伝説を考えても日本人の芸術活動で最も古い形式で、ルーツとなるものです。」
 この『杉本文楽 木偶坊 入情 曾根崎心中付り観音廻り』は2011年3月23日から27日まで、神奈川県が横浜市にオープンする神奈川芸術劇場で公演予定。杉本自身が設立した財団法人小田原文化財団が企画制作をし、財団法人文楽協会の協力を得る。
また、同日の記者会見では香川県丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で2010年11月21日からほぼ1年間、杉本博司の展覧会をテーマ別に4回連続して行なう連続企画展覧会シリーズ『杉本博司 アートの起源』の開催も発表された。個展はそれぞれ「科学」「建築」「歴史」「宗教」と題され、作品と共に作家が心血を注いで集め続ける分野を横断したコレクションも展示される。これまでの杉本の展覧会同様、谷口吉生の手による美術館の空間にあわせ、杉本自身が構成する極めてサイトスペシフィックな展覧会になることが予想される。

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