第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ ザリーナ・ハシュミ(インド) インタビュー


Installation view of Home is a Foreign Place (1999) in “Everybody Agrees: It’s About to Explode,” Indian Pavilion at the 54th Venice Biennale, Arsenale, Venice, 2011. Portfolio of 36 woodcuts with Urdu text printed in black on Kozo paper, mounted on Somerset paper, ed 25, approx 45 x 37.5 cm each, framed. Photo ART iT.

ザリーナ・ハシュミは1937年イギリス領インド帝国・アリーガル生まれ、現在はニューヨーク在住。彼女の紙や彫刻の作品の多くは示唆に富んだ物質性に特徴付けられており、ミニマリズムの要素や図式的な要素を深く私的な意味合いをもつ事物への言及と組み合わせている。ハシュミはランジット・ホスコテのキュレーションによる第54回ヴェネツィア・ビエンナーレでのグループ展『Everyone Agrees: It’s About to Explode』の4人/組の出品作家の一人に選ばれた。ART iTはヴェネツィア・ビエンナーレのインド代表に選ばれたことや、彼女の国籍や出自に関する独特な観点について話を聞いた。

インタビュー

ART iT 1947年のインド連邦とパキスタンとの分離独立を目の当たりにし、大人になってからはフランス、タイ、日本、アメリカなどの国々で暮らしてきました。ヴェネツィア・ビエンナーレにおいて、初めて政府が公式に選出したインド代表作家のひとりとして選ばれたことはどのようにお考えでしょうか。

ザリーナ・ハシュミ(以下ZH) 家族も私も、分離独立のせいで危害を加えられたりすることはありませんでした。でも、国が分離されたときには国境の両側のたくさんの家族が離ればなれになってしまいました。この分離の結果として私たちが共有した苦しみは、インドへの帰属感の喪失でした。私の人生において現段階では、グループ展のひとつに新たに参加するということはもう特に注意を払うほどのものではありません。しかし、インドを代表することには感情の面ではとても深い意味があります。大人になってからずっとある種「中立の道」を進んできた者がようやく国の一員であることを認めるということにもなりますから。

ART iT インド館の展示『Everyone Agrees: It’s about to Explode』では、国民国家とは統一されたもの、もしくは領土的なものなのかといった問題が取り扱われます。ヴェネツィアではどのような作品を展示する予定でしょうか? また、それらの作品はパビリオン全体のコンセプトとどのように関わるのでしょうか?

ZH ランジット・ホスコテは私の作品から「Home is a Foreign Place」(1999)、「Noor」(2008)、「Blinding Light」(2010)を選びました。この展覧会では移民や難民に関する問題を取り扱うことが試みられます。インドの展覧会に離散したインド人作家が招かれるのは今でも珍しいことで、より広くグローバルな対話に参加している作家を選んだことは彼の功績です。

ART iT 「Home is a Foreign Place」、「Dividing Line」(2001)、「Letters from Home」(2004)といった作品は国家や国境の概念——もしくは観念——についての実直な考察として捉えることはあるのでしょうか。

ZH 私の作品はある観念についての意図的な考察だったことは一度もありません。ただ単に、帰るべき場所が異国となってしまった私自身の人生、私と同じ境遇の多くの人々の人生についての考察あるいは物語なのです。国境を超えて外国に移り住み、走り書きした紙切れで意思疎通をはかるというのは、この時代特有の状況ですね。


Left: Blinding Light (2010), 22-carat gold leaf on Okawara paper, 185.42 x 100.33 cm. Courtesy Zarina Hashmi and Luhring Augustine, New York. Right: Noor (Divine Light) (2008), maple wood with formulated gold leaf and leather cord, 13 sets of 3 units each (39 units total), each approx 10.8 x 6.35 cm. Courtesy Zarina Hashmi and Gallery Espace, New Delhi.

ART iT 作品ではしばしば地図や住宅(後者の場合は厳密に言えばその設計図)といったテーマに触れています。どちらも図式的なものですが、地図とは人として実感できるスケールにおいて抽象的なものでしかないことに対し、家は抽象的なダイアグラムというかたちでも極めてパーソナルなものでありえます。なぜこのふたつのテーマ、ふたつの描写法に惹かれるのでしょうか?

ZH 地図と家の記憶とは、どちらも旅人にとって非常に重要な意味を持つものです。地図を見れば、道や川を辿ることで昔よく知っていた町を再訪することができます。そして家は必ず一種の内的な現実であり、間取り図があれば頭の中で何度も歩き回ることができます。

ART iT 「パビリオン」という言葉は、仮設あるいは可動式の建物を示唆します。語源にあたるフランス語は古来、「テント」という意味でした。ヴェネツィア・ビエンナーレのような場にいることに対して違和感はないのでしょうか? 断片的に世界を一ヶ所に集める行為は、あなたのような生き方をしてきた方にとって受け入れ難いことなのではないでしょうか。地域性についてどのようにお考えでしょうか?

ZH 聞く相手を間違えています。もう50年以上、違和感をおぼえない場所などひとつもありませんから。テントという概念はとても魅力的だと思います。特にその仮設性が良いですね。美術は商売です——作ったものを市場に持ってくるのです。

第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ『ILLUMInations』は6月24日から一般公開。会期は11月27日まで。

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ヴェネツィア・ビエンナーレ——ILLUMInations: 第54回国際美術展

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