香港国際アートフェア『ART HK10』 フェアレポート

ART HK10 香港国際アートフェア
2010年5月27日-30日
香港コンベンション・アンド・エキシビションセンター

 5月27日より30日まで、香港国際アートフェアが開催された。ここ数年、東京、ソウルに加え、北京、上海そして香港、とアジアにおけるフェアが乱立し中心が定まらなかったが、今年3回目を迎えた香港が一歩リードしたようだ。この10年、中国現代美術に始まり、インド、インドネシアそしてアラブ諸国のアートを取り巻く環境は刻々と変化し、それぞれのバブルが崩壊したにもかかわらず、今回のフェアはアジアの消費の底力を確証させる機会にもなった。

 すでに見本市のインフラストラクチャーが充実していたバックグラウンド、立地条件、経済特区の利点に加え、参加ギャラリーの質の向上によって本格的なフェアへ近づいたと言えるだろう。欧米のいわゆる有名コレクターは少ないものの、オーストラリアからは70人あまり、中国本土からは最近中英バイリンガルマガジン『Leap』を出版したモダンメディア・ホールディングスのトーマス・シャオなどの有力コレクターが、さらにシンガポール、インドネシア、韓国、そして日本からも多くのコレクターが集まった。グッケンハイム美術館館長リチャード・アームストロング、ニューヨーク大学グレイ・アートギャラリーディレクターのリン・ガンパート、ウォーカー・アートセンターのディレクター、オルガ・ヴィソ、と中国への関心が高まったアメリカから多くの美術関係者が来訪した。加えて、バーゼル・アートフェアディレクターのマーク・シュピーグラー、フリーズ・アートフェアディレクターのマシュー・スロットオーバーらも視察に訪れており、アジアの顧客を取り込む戦略を真剣に考えている様子が伺えた。さらにリクリット・ティラバーニャ、奈良美智、クスウィダナント a.k.a. ジョンペット、鴻池朋子、パク・シューチェン、村上隆、チェ・ジョンファらアジアに出自を持つアーティストが来訪していたことも見逃せない。


Jim Lambie’s installation at The Modern Institute

 昨年から参加しているロンドンのホワイトキューブは従来のブースとは別にダミアン・ハーストだけの特別ブースを構え、バタフライ、ターゲットペインティング、ドットペインティング、スカルペインティングなどを展示、初日の段階で台湾コレクターへ175万ポンド(およそ2億3千万円)のホルマリンケース作品『逃れられない真実』の売却を決めていた。
ジム・ランビーの個展でフェア初参加のモダンインスティチュートのトビー・ウェブスターはアートイットの取材に対し、予想を大きく上回るセールスに得体の知れない購買力の潜在を実感した、とコメント。また、数少ないニューヨークからの参加ギャラリーのひとつ、レーマン・モーピンギャラリーは初日にトレイシー・エミンのネオン作品、ヘルマン・バスの絵画作品などあわせて22、3万ドル(およそ2千万円)を売り上げており、アジアの購買力に満足したようだ。マリアン・ボエスキーギャラリーはアジアでも人気の奈良美智の個展ブースで、6万ドルから8万ドル(およそ540万円から630万円)の作品をシンガポール、インドネシアのコレクターに多数売却しており、ロンドンのピラー・コリア・ギャラリーはパキスタン人アーティスト、シャジア・シカンダールの個展で2万ドル、4万ドル、12万5千ドルの作品を新たなアジアのコレクターへと売却、アジア市場を意識したプログラムで成果をあげていた。
今回、フィリピンからシルバーレーン・ギャラリー、ベトナムのギャラリー・クインをはじめとし、インドネシア、台湾からも数は少ないが上質なギャラリーがフェアに参加したことでバーゼル・アートフェアに代表される欧米のフェアにはない魅力が生まれ、さらにこうした新たな国の市場の拡張を予感させるフェアへと大きく変容した。


Yoshitomo Nara’s installation at Marianne Boesky Gallery

 一方、全体的には好印象であるものの、まだ未成熟を感じさせる部分も多い。具象絵画作品やオークションでの高騰が期待されるいわゆる「投資銘柄」に人気が集中し、写真やコンセプチュアル、ミニマルな作品への関心が低く、苦戦を強いられるギャラリーも少なくなかった。
今後アジア諸国の経済成長を目の当たりにした欧米のギャラリーが新たなマーケット獲得を目指して益々しのぎを削ることになるだろう。アジア市場の確実な成長が既存の価値観に囚われない文脈形成および新たな解釈に繋がることを期待するが、現段階では未だエキソチズムを中心としたステレオタイプの情報、投資を主目的としたコレクターが主流を占めており、成熟した市場への前途はまだ長い。香港フェアに合わせて数社によるオークションも開催され、より多くのコレクターを香港へと呼び込む事にはなったが、アジアの場合、オークションのクオリティの変化なしに成熟したマーケットへとは変貌しにくいだろう。
マーケットを支えるコレクターの知識の向上と好みの広がりに期待すると共に、アジアのメディアとして有益な情報供給を心がけたい。

 日本からは小山登美夫ギャラリー、シューゴアーツ、ミヅマアートギャラリー、タカ・イシイギャラリー、オオタファインアーツ、アラタニウラノ、タケニナガワなどのギャラリーが参加。

文・写真/ ARTiT日本語版編集部

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